「ウクライナ人は再び悪と対峙している」=ゼレンシキー宇大統領、終戦・戦勝記念日に演説 【日本語全訳】

ウクライナのゼレンシキー大統領は、5月8日の「第二次世界大戦の記憶と対ナチズム戦勝記念日」にて演説を行い、80年前にナチズムと戦ったウクライナ人は、今再び悪と対峙していると発言した。

ゼレンシキー大統領がソーシャルメディア「X」アカウントに演説動画を公開した

ウクルインフォルムによる同演説の日本語全訳は以下のとおり。


「彼らはあなたの家に押し入る。殺し、焼き、処刑するためにやって来る。彼らは誰のことも惜しまない。老人も女性も子供も…。彼らはけだものだ…。」

これは、ナチスの占領を生き抜いた人の記憶だ。そして、これは、ロシアの占領を生き抜いた人の記憶でもある。同じ凄惨、同じく人間ならざる者による犯罪である。

80年前、ナチズムを永遠に敗北させようと、数百万人のウクライナ人が戦った。しかし、現在、ウクライナ人は、復活し、再び襲来し、私たちを再び滅したがっている悪とまた対峙している。殺し、拷問し、地表から平和な町や村を一掃する非人間的な軍隊。「ロシアのファシズム(Russian fasism)」という名を持つ悪。略して、RFだ。

チェルニヒウ州ヤヒドネ村のこの地下室が、その証言者だ。露シスト(編集注:ロシア+ファシストの造語)たちは、村人全員をここへと追いやり、約1か月にわたり閉じ込めていた。全員。350人。この村の子供も全員だ。80人の女児や男児、最も幼かったのは、1か月半の子だった。世界の1人1人が、ここ、この地下室でのこの人々の中に自分があることを想像すれば、プーチンのロシアが何たるかを理解できよう。電気も、食べ物も、水も、薬も、空気もなく、1人あたり1(平方)メートル未満しかない部屋だ。人々は座ったまま眠っていた。外に出られたのは1日1回のみ。1日1回200グラムのスープを飲んだ。ウクライナのタトゥーを見つけるために、男たちが極寒の中で裸にされた。10人の人質がここで亡くなった。彼らを埋葬することは禁じられていた。さらに17名が露シストたちに殺された。これは、世界のどこであろうと、1つの言葉で呼ばれるものだ。「地獄」である。村全体が焼き払われ、大量処刑が行われ、目隠しをされたまま壁に押し付けられて殺される。それは「ナチズム」である。これがナチズムでなければ、何だというのだ? そして、地球上の誰もが歴史を知っており、ナチズムとどのように戦うべきかを記憶している。人類が団結し、彼と対峙するのだ。その者から石油を買うのではなく、その者の就任式に出席するのではなく(編集注:5月7日のモスクワでのプーチン氏「就任式」に代表者を送った国への揶揄)。

RFの地獄を生き延びたヤヒドネは1つの事例に過ぎない。1つの村だが、それはプーチンの世界観の本質、本当の目的を全て反映している。自由に暮らしたがっている人を皆、地下に追いやること。村全体を地下に追いやること。そして、次の村、他の村、そして、ウクライナ全体を。そして、いずれ世界全体を地下に追いやること。RFにとっては、それは自由をゲットーへと縛り付けるという狂った計画の段階に過ぎない。「ロシアの世界(ルスキーミール)」と呼ばれる強制収容所へと。世界中にロシアの主要な資産である、有刺鉄線を輸出すること。80年前のヒトラーが生み出したシナリオに従い、一歩ずつ、他人の土地を飲み込みながら、世界の反応を試しながらだ。そして、その反応が腰砕けなものであれば、ナチスはさらに進む。彼らは、要請や決議や「半」制裁では止められない。今プーチンが気にしていることはたった1つ、「次は誰か?」である。

ロシアは公式に、安全を感じることのできない国のリストを、「非友好国家リスト」と呼んで定めた。そのリストが反ヒトラー連合の国のリストとほぼ合致することは、注目に値する。ナチズムに勝利した国々が、現代ロシアにとっての敵なのだ。欧州連合(EU)加盟国、英国、米国、カナダなど、合計約50の自由で民主的で独立した国々だ。それらの国が、現代クレムリンのイデオロギーでは、危険な国を意味する。すなわち、標的である。

2022年2月24日朝5時。世界はその脅威に気付かず、世界はナチズムの復活を寝過ごしてしまった。そして、今日、第二次世界大戦を記憶し、現代まで生き延びた人々皆が、デジャヴュ(既視感)を覚えている。キーウを巡る戦い。ハルキウ、オデーサ、ドニプロの爆撃。集団墓地。港の封鎖。穀物の強奪と持ち出し。拷問。処刑。子供の連れ去り。濾過キャンプ。被拘束者の収容所。ロシアは、第二次世界大戦についての教科書のページを世界の報道機関の見出しに戻してしまった。ロシアは、恐ろしい過去を日々のニュースのタイムラインに戻してしまった。1つ1つの新たな犯罪によって、ナチズムの復活が証明されている。ただし、「メイド・イン・ロシア」という新たなラベルとともに。

最近、私たちの社会は、戦争で亡くなった孫の墓の前に立つ男性の写真に心を打たれた。彼の父親は、ナチスの手によって殺されている。彼の孫の命は、ロシアの占領者によって奪われた。これは、ナチズムと現代ロシアの間に「イコール」を据える、何百万の事例のたった1つに過ぎない。

今日、ヒトラーの思想は、ロシア語によって語られている。ナチスの犯罪は、ロシア国旗の下で犯されている。差異は形式的なものだ。ウクライナへ侵攻した国防軍(ヴェアマハト)は、袖に双頭の鷲を付けている。新たな「V」は「カリブル」と「キンジャル」であり、新たな「ルフトヴァッフェ」はMiGとSuであり、新たなハーケンクロイツは「Z」であり、新たな「ヒトラーユゲント」は「ユンアルミヤ」だ。このような類似は何十とあり、このような模倣は数百とある。

そして、もし現代クレムリンが全てにおいて第三帝国と似ているのであれば、その終わりもまた同じでなければならない。新たなニュルンベルク、ハーグにて。

1945年と同様、自由世界の団結のみがそれを可能とする。反プーチン連合での団結だ。言葉ではなく、行動によって、モスクワのナチスを阻止し、新たな悪が欧州大陸全体にはびこること、その後世界中に広がることを防ぐのだ。「二度と繰り返さない!」という言葉の誓いを示すため、「二度と繰り返さない!」にもう一度意味を持たせるために、ウクライナがロシア・ナチズムに勝利するのを助け、自らを助け、世界を助けることができるのは、団結した自由世界だけなのだ。

親愛なるウクライナ人よ!

ヤヒドネの村民たちは、ここに27日間拘束されていた。2022年3月30日、村は露シスト占領者から解放された。4月19日、私たちの戦力によって地雷が除去された。これは、「歴史は繰り返す」ということのシンボルであり、私たちを滅ぼしに来た者は皆、いずれはウクライナの大地から逃げていくということのシンボルである。私たちの領土の一部は、今のところ占領されたままであり、私たちの人々の一部は、拘束されたままである。それは、私たちの戦いが続いていることを意味する。そして、今日、「記憶と対ナチズム戦勝」の日に、他の民と一緒に戦い、勝利した何百万人のウクライナ人のことを思い出しながら、私たちは、新しい勝利の新しい日を信じて、その日を近付けているのだ。

私たちが歴史の教科書で読んだウクライナからのナチスの追放は、現実に起きている。そして、20世紀中頃の出来事は、再び21世紀の歴史になる。ロシアの悪に対する共通の勝利の歴史だ。

第二次世界大戦の記憶と対ナチズム戦勝記念日おめでとう。

ウクライナに栄光あれ!