英国・ポーランド両首相のウクライナ訪問 その成果は?
2月2日、モラヴィエツキ・ポーランド首相とジョンソン英国首相がウクライナ首都キーウ(キエフ)を訪問した。モラヴィエツキ氏は武器供与を約束し、ジョンソン氏はウクライナのロシア産エネルギー依存を下げることを目的に何十億ポンドの支援を発表した。しかも、両国からの支援はそれだけにとどまらない。
筆者:ミロスラウ・リスコヴィチ(キーウ)
過去数日、ウクライナ社会の注意は、ポーランド首相と英国首相の同日のウクライナ訪問へと集中していた。新しい3国小連合創設の公式発表が行われるということで、ウクライナ国内メディアの一部はその訪問を「歴史的だ」と強調していたが、しかし、その発表は行われなかった。
ウクライナ外務省は、連合開始の発表は延期されたと説明した。エリザベス・トラス英外相がコロナに感染したからだという。トラス外相は、ボリス・ジョンソン英首相とともにウクライナを訪問するはずだったが、前日になりコロナ検査で陽性が出てしまった。ただし、いずれにせよロンドン・ワルシャワ・キーウの政治協力フォーマットは誕生するようだ。ヴォロディーミル・ゼレンシキー宇大統領も最高会議(国会)の演説の際にそのことを認めたし、デニス・シュミハリ宇首相もマテウシュ・モラヴィエツキ・ポーランド首相との記者会見時に認めた。将来の3国フォーマットの詳細については、まだ情報が少ない。現在判明していのは、英宇ポ協力は少なくとも防衛分野に関わるものであり、共通の安全保障戦略の作成、脅威の警告・予防に携わるということだ。加えて経済、社会、文化分野にも関わる可能性があるという。
そこで、今回のモラヴィエツキ首相とジョンソン首相の訪問について、私たちは、国際関係専門家に要点につき意見を聞くことにした。
政治学者のヴァディム・トリュハン氏は、「ロンドン・ワルシャワ・キーウ同盟の可能性については、何も具体的な話がなかったが、それでも今回の英国・ポーランドの首相の訪問は重要だ」と指摘する。
トリュハン氏は、第一に、ウクライナがロシアによる更なる、そして今回は全面的なものとなるかもしれない、軍事侵略の脅威と向き合う中、両国ともウクライナの独立・主権の防衛を支持し続けると表明した上で、防衛能力強化のために大規模な支援を供与すると伝えたことを喚起した。
第二には、同氏は、ポーランドとのエネルギー分野協力の深化が重要だと指摘する。さらには、ポーランドからウクライナへの車両輸送許可数問題が進展したことも肯定的だという。同氏は、それは、兵器やエネルギーの問題ではないが、その問題を現在解決することは、ウクライナ・ポーランド二国間関係の文脈で重要なのだと指摘する。
同氏は、第三に重要なものとして「ウクライナ・英国間の共同声明の採択だ。声明には、両国が『ウクライナの安全保障と防衛能力を強化』するために活動していくと書かれている。また、ウクライナのエネルギー安全保障とグリーン移行分野の努力のサポートについても言及されている」と指摘した。
ウクライナ外交アカデミーのスタニスラウ・ジェリホウシキー研究員は、モラヴィエツキ・ポーランド首相がシュミハリ首相との共同記者会見時に、ポーランドとウクライナの連帯を示すためにキーウを訪れたと述べていたとし、「ポーランド首相の記者会見における重要な要素は、ノルド・ストリーム2(編集注:独露間新天然ガスパイプライン・プロジェクト)の話だった」と指摘する。
同氏は、モラヴィエツキ首相が、ノルド・ストリーム2をドイツがプーチン露大統領に手渡す拳銃のようなものだと指摘した上で、ロシアによる脅迫と戦争の可能性を拡大させるものだと強調したことを喚起した。「私は、それはドイツに対しての非常に強力なメッセージだと思っている。特に、国際社会全体がウクライナを支持している中ではそう言える。加えて、彼は、新しいポーランド・ウクライナ共同のガスパイプラインの建設計画についても話をした。両国間の間で大規模な天然ガス輸送を可能にするものだ。首相が言うには、そのために一定の投資が必要だが、その投資をポーランド側は実現するつもりだという」と説明した。
また、シュミハリ・ウクライナ首相は、ポーランド側から、特にポーランド北西部シフィノウイシチェ市のLNGターミナルを通じた、天然ガス輸入には展望があると述べている。
加えてジェリホウシキー氏は、「本年後半、10月頃に、天然ガスパイプライン『バルティック・パイプ』の運用が開始されるはずだ。それは、ノルウェーからデンマークを通じたものであり、すでにポーランド沿岸に繋げられている。それは、天然ガスの追加的供給源となる。つまり、ポーランド・ウクライナ間のガスパイプライン建設によって、ウクライナは、ノルウェー産ガスの供給も受けられるようになると思う。それはウクライナのエネルギー安全保障を強化することになる。それもまた非常に重要だ」と強調した。
また国際関係学者のマクシム・ヤリ氏は、「ポーランドも英国も、ウクライナにとって現在極めて重要な分野、エネルギー分野の支援を提供する。ポーランドのLNGターミナルからウクライナへのあり得る天然ガス供給についての合意が達成された。それはまた、ウクライナへのガス供給の中期的な多様化を促進する」と指摘する。
同氏はまた、ウクライナを通じたロシア産天然ガスのEU市場への輸送契約は2024年に切れるのであり、もう今の段階でその時に向けた準備が必要だと述べる。「その点で、ポーランドのPGNiG社のパヴェル・マイェフスキ総裁は、ポーランドは米国のLNGをウクライナのために購入したと発表していた。その供給は、ウクライナが暖房シーズンを問題なく終わらせる上で役に立つものだ」と説明した。
そして、同氏は、天然ガスを地政学的な圧力に用いているロシア政権に対しても、それは重要なシグナルなのだと指摘する。「ジョンソン英首相は、英国がウクライナのエネルギー依存を下げるために8800万ポンド相当の支援を供与すると発表した。EUにおけるガス価格高騰や、著しい寒気が到来した際の石炭・ガスの貯蔵が不足するリスクを考慮に入れれば、短期的展望ではそれは重要な要因である」と強調した。さらに英国は、約20億ポンドを英国ウクライナ・インフラ・エネルギープロジェクトのために拠出する。
続けてヤリ氏は、「第二の分野は、軍事だ。英政府が私たちに軍事支援、とりわけ対戦車ミサイルシステムをすでに供与している中で、ポーランド政府もまたモラヴィエツキ首相のキーウ訪問の前日に、同様の決定に踏み切ることとなった」と指摘した。
2月1日の朝、モラヴィエツキ・ポーランド首相は、ウクライナへの渡航前に、ウクライナへの兵器供与の準備があると発表した。具体的には、防空ミサイルシステム「グロム」だと言われていたが、その後になって、ウクライナが実際に受け取るのはグロムよりはるかに最新の携帯式地対空ミサイルシステム「ピオルン(Piorun)」とその弾薬であることが判明した。ポーランド軍がピオルンを装備に加えたのは、2019年とごく最近のことである。
ヤリ氏は、「ポーランドはまた、私たちに諜報用無人機と重火器用152ミリ弾薬を供給することを約束した。それらは、ウクライナ軍の弾薬庫が破壊されて以降、ウクライナが特に必要としていたものだ」と説明する。
さらに、ジョンソン氏のキーウ訪問の前日、トラス英外相は、英議会に、対ロシア・オリガルヒ制裁法案を提出していた。ロシアがウクライナにさらに侵攻した場合、これらのオリガルヒの資産は凍結される可能性がある。
ヤリ氏は、「ロンドンはロシアのオリガルヒや政権の最高幹部たちにとっての、言うなれば『メッカ』であり、そこにロシアで稼いだ、あるいは、盗んだ金を送金している。そのことを考慮すれば、それ(制裁可能性)は、真剣な抑止要因となる」と強調した。
つまり、ジョンソン英首相とモラヴィエツキ・ポーランド首相のキーウへの訪問に、私たちは満足しても良いと言えよう。重要な発表が行われた今、今後は、具体的な行動と、3国連合の公式発表を待ちたい。