未来のロシアを描く4つのあり得るシナリオ=米シンクタンク

米国のシンクタンク「アトランティック・カウンシル」は、ロシアで生じた傭兵集団「ヴァグネル」の反乱後の同国のあり得る未来に関して、4つのシナリオを発表した。

7月6日、アトランティック・カウンシルがジェフェリー・チミノ副所長の記事を公開した

著者は、反乱のプーチン露大統領への直接的脅威は消え去ったかもしれないが、この出来事がロシアの今後の情勢展開に影響を与えることは避けられないだろうと指摘している。

シナリオ1:弱体化したプーチン氏による統治の継続

弱体化したプーチン氏がロシアの統治を続けるが、同氏が20年間の統治で築き上げた「秩序と安定の土台」は壊れていく。プリゴジン氏が無力化されることで、その他の潜在的敵対者がプリゴジン氏の後に続くことを怖れる。同時に、プーチン氏は、様々なオリガルヒ・グループの抑制により多くの注意を割かなければならなくなる。

ロシア国内プロセスは、ウクライナの戦況に左右されていく。プーチン氏は、ウクライナの反転攻勢を抑えるために力を集中させる。しかし、ウクライナは重要な成功を収める可能性がある。

その際、プーチン氏は中国により依存していき、これによりロシアは中国のジュニアパートナーとしての地位が固まっていくことになる。

シナリオ2:新政権の樹立

1991年夏、クレムリンの強硬派がクーデターを企て、失敗。しかし、これによりゴルバチョフ・ソ連大統領は弱体化し、同年年末までに政権を失った。

このシナリオでは、プーチン氏にも類似の運命が待ち受けているとされる。同氏の政治的立場は取り返しのつかないダメージを受け、急速に悪化する。国内の競争者が行列を作り、力を集結し、攻撃のための格好の機会を待つことになる。

プーチン氏は、国内脅威と衝突することで、競争者との戦いのためにウクライナから戦力を退却せざるを得なくなる。そして、ウクライナの反転攻勢は勢い付くことになる。ウクライナ軍は、ロシアの防衛ラインの弱い場所を突破し、多くの領土を奪還し、クリミアとの陸上回廊を分断する。ロシア軍の士気は下がり、不満を抱いたり、戦場に送られたことでロシアの政治幹部に怒る兵士がロシアへと戻る。

この時、プーチン氏の対立者たちが同氏を攻める。民族主義勢力が兵士たちの不満を利用し、独自の小規模部隊を形成する。プーチン氏は殺害される、あるいは辞任に追い込まれる。

新しい政権は、政権を急速に取りまとめ、ロシアの内戦を防ぎ、秩序を回復する。ウクライナにおける戦争はすぐには終わらないが、ロシアでの秩序回復の必要性から、新しいロシアの攻勢の可能性は小さくなり、ロシア新政権は戦争の成果を一部維持することに尽力する。同時に、ロシアは他国との関係において安定を模索する可能性がある。

なお、このシナリオは、中国にとって望ましくない不確実性を生み出す。新政権首脳陣が中国のジュニアパートナーであり続けることを望まない可能性があり、中露関係は弱体化する。他方で、共通の対米敵対姿勢は維持される。

シナリオ3:ロシア内戦勃発

プーチン氏の明らかな弱体化がウクライナにおける戦況の悪化を強めていき、同氏の敵対者たちを奮い立たせる。ロシアは複数の互いに競い合う力のブロックに分裂する。プーチン氏はロシアの一部において権力と自らの忠誠を誓う人々を維持し、他方で、民族主義リーダーたちは別の場所で擬似封建的政権を作り出していく。

ロシアには何千もの核弾頭があり、内戦は複数のアクターが混沌を利用して、核弾頭へのアクセスを得る機会を生み出す。米国やNATOは、核の拡散を回避することを求めて、内戦をロシア国内に止める努力を行う。

ウクライナにおける戦争に関しては、内戦が長引くことでロシアの指揮統制が急速に失われていく。

このシナリオは、中国にとっては最大の戦略的パートナーが混乱に陥ることになるため、中国にとって特に望ましくないものとなる。

シナリオ4:改革志向指導者の台頭

改革志向の人々が機会を得て、政権入りする。2、3のシナリオ同様、ヴァグネル反乱後の一時的な緊張緩和の後、戦況の悪化によって、プーチン政権への新しい挑戦が始まる。

プーチン氏は2024年3月の大統領選挙まで政権を維持できるも、選挙は改ざんされ、住民はそれを不当な選挙だとみなす。民主的な野党勢力が国民からの十分な支持を得て、集会や抗議がロシア中で変化を求める。強い圧力を受けて、クレムリンのエリートたちが改革志向勢力へとシンパシーを示すようになり、プーチン氏は辞任し、繰り上げ選挙にて改革志向のリーダーが勝利する。

新しい政府は、ウクライナにおける戦争をできるだけ速く終わらせようとし、同時にロシアで反汚職改革、政治改革を実施することに注力する。

中国は、ロシアが欧米に接近するこのシナリオを非常に望ましくないものとみなす。同時に、ロシアは長年大規模な政治改革への抵抗を証明してきたのであり、このシナリオは最も実現蓋然性が低い。