「ゼレンシキー氏は露大統領にとって最も危険な武器」=独誌
ドイツの雑誌「フォーカス」のコラムニスト、ウルリッヒ・ライツ氏は、ゼレンシキー宇大統領の国連での演説は強力なシグナルであり、ゼレンシキー氏自身がプーチン露大統領にとっての最も危険な武器だとの見方を示した。
フォーカスがライツ氏の記事を掲載した。
記者は、「ゼレンシキー氏の国連での演説は修辞的な傑作だった。彼が自分の国の支援のために米国人の大半を説得するチャンスは、決して小さくない。(中略)世界の議会である国連総会でヴォロディーミル・ゼレンシキー氏以上の演説はできない。地球上の法的・国際的秩序を脅威にさらす孤立国家に対する善良な国際社会…。それが、ゼレンシキー氏がニューヨークで語った心理的にほぼ完璧な話だった。そして今やもう、ロシアの国家元首のウラジーミル・プーチン氏は確実に理解している。西側の武器ではなく、ゼレンシキー氏こそがウクライナの最も危険な武器だということを」と指摘した。
同時に記事では、ゼレンシキー氏とバイデン米大統領が国際社会においてロシアを孤立させようとする試みが成功するかはわからないと書かれている。両国首脳は、ニューヨークでの極めて多面的な演説にて、できる限りのことはしたとしつつ、しかし、グローバルサウスでは、ウクライナでの戦争は豊かな西側の問題であり、自分たちの戦争ではないとの見方が定着していると指摘されている。その上で、ゼレンシキー氏が自らの修辞的な議論を展開したのは、正にその点、グローバルサウスに関する話のところだったという。
記者は、ゼレンシキー氏が自国民の苦しみについては演説の最初ではなく、最後に持ってきたことを指摘し、彼が演説をアフリカの国々が最も懸念していること、つまり、ロシアの輸送回廊封鎖によってウクライナが穀物を供給することができなくなっていることから始めたことを喚起した。そうすることでゼレンシキー氏は、ロシアが支持を求めているアフリカの国々の国益にアピールしたのだという。
しかし、記事では、ゼレンシキー氏はそれだけで終わらせなかったと続く。ゼレンシキー氏は、プーチンが食料を武器として利用していることについて言及した後には、ロシアが同様に武器としてエネルギーを使っていることを言及した。さらには、ゼレンシキー氏は、ロシア人によってウクライナを嫌わせる再教育を目的に連れ去られたウクライナの何十万人の児童のことだけを話すのではなく、プーチン氏に対して国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出したことも喚起することで、それがウクライナだけの問題なのではなく、国際社会の問題であることを想起させたのだと説明されている。
記者は、「より多くの同盟者を見つけようとする時に、彼以上のことはできない。ゼレンシキー氏による、シリア戦争でロシアが国際的に禁止されている化学兵器を使ったという正しい声明も、これに該当する」と指摘している。
さらに記者は、ゼレンシキー氏が「私たちの戦争ではなく、あなたの戦争でもある」というメッセージを出していると述べつつ、同時にそれが、アフリカ諸国、ブラジル、インド、中国で受け入れられるかどうかは不明だと指摘している。
その他記者は、ゼレンシキー氏が今週ワシントンの米議会に現れることも、国連での演説と同様に重要だとし、それにより米議会の多数派を味方につけられる可能性は「悪くない」と指摘している。
さらにトランプ前米大統領が大統領職に返り咲いた場合に、ウクライナが米国を失うという話がよく聞かれるが、それが単に間違っている可能性も十分あるとの見方が示されている。記者は、共和党上院議員の半数以上が引き続きウクライナに武器支援を行いたいと思っていたら、トランプ氏であってもそれを避けることはできないとし、そもそも、トランプ氏が大統領選挙に勝利すること自体が確実なことではないと指摘している。
記者は、ドイツをはじめとするウクライナの同盟国の中には、「ウクライナか…。私はもうウクライナのことは聞いていられない」とか「それは私たちの戦争ではない」とかいう話をよく聞くようになっていると述べつつ、他方で、そのように考えている人は、ゼレンシキー大統領の国連での短いが力強い演説を注意深くもう一度聞いてみると良いと勧めている。
そして記者は「ゼレンシキー氏は、プーチンよりも優れた主張をしている。誰がロシア人のように生きたいだろうか?」と読者に尋ねている。
写真:ウクライナ大統領府