発電機だけではないウクライナの停電対策
執筆:ヤリーナ・スクラチウシカ(キーウ)
過去2年以上にわたって続いているエネルギー分野の話は、2024年春に悪化した。ロシアがウクライナの電力システムを大規模に攻撃したことは、ロシア人がウクライナの電力システムを全て、無慈悲かつ体系的に破壊することに着手したことを証明している。私たち、民間消費者にとっての2年前の冬の経験は、かなり重要だ。なぜなら、私たちはもう停電が数日間続くというのがどういうことかを知っているのだから。
しかし、思い返してみれば、2022年の時は、アドバイスによる混乱も多く見られた。人によっては、生活が完全に停止すると予想して町を出るべきだとアドバイスしていた。ウクライナ人がポータブル電源を探し始めると、その値段は宇宙的規模に跳ね上がった。
また人によっては、ベランダに直接、ディーゼルやガソリンの発電機を設置して、アパートの電力を維持する人もいたし、これに懐中電灯、電池、ガスボンベが続き、ろうそくやパワーバンクが品薄となった。2022年秋に向けて準備をしていた人たちは、アドバイスを読んで、寒さから身を守るために電気毛布や電気シーツを購入したが、後になってある人は笑いながら、ある人は苛立ちながら、慌てて買った余計な物のことを語っていた。というのも、電気毛布では停電中に体を温められないのであり、無駄遣いを感じさせるだけのものにしかならなかったからだ。
私たちは、これまでの経験を踏まえた上で、今回はどのアドバイスを用いるべきだろうか? また、アプローチを変えた上で、冬に向けてどのような準備をすべきであろうか?
専門家は、このような時は普通、最も悲観的なシナリオからアドバイスをするということはあらかじめ指摘しておきたい。「エネルギー戦略基金」の共同創始者であるユーリー・コロリチューク氏は、関連当局は現在詳細に、楽観的、中間的、悲観的の3つのシナリオを策定していると伝える。悲観的なものは、最も予想外の展開に向けて適切に備えられる点で特に有益だ。コロリチューク氏は、そのアプローチだと、暖冬予想に基づいてガス貯蔵施設への天然ガスを注入するさえも、悲観的シナリオの要素だと説明する。注入しない方が良いというのだろうか? すると同氏は、「この予想(悲観的シナリオ)は、むしろ寒い冬、困難な天候条件を想定したものだ」と述べる。しかし、それは町を出ていく方が良いというわけではない。「準備をするということは武装することだ」という言葉は、現在多義的なものとなっている。
現在の停電条件で今後の秋冬をひどい問題なく乗り切るにはどうしたら良いのか? 専門家は、町や村の住民に何をアドバイスするのだろうか?
予想
国立戦略研究所の主任研究員であるヘンナジー・リャブツェウ氏は、「この状況は、ウクライナの地域、都市、産業企業がエネルギー自治を得るまで続くだろう」と述べる。同氏は、地方自治体がそれに向けた準備をもっと前からしていないといけなかったと指摘する。さらに同氏は、「7基の火力発電所と2基の水力発電所でピーク時の発電能力をカバーするような集中型発電のことは今は忘れるべきだ。現在、それら大型発電所の稼働を再開させる方法はない」と説明する。
リャブツェウ氏は、稼働していない発電ユニットは今後、小規模ネットワークに統合され、統一電力システムに接続される小型発電機に置き換えることを勧めている。全ての決定を地方自治体や関連の産業企業が下すようにするのだという。同氏は、そうすることで自治体は自らのニーズを自分でコントロールし、電力と熱を自ら分配するようになると説明する。
であれば、自らの地方自治体による寒期に向けた夏の間の準備活動に関心を持つことは無駄ではないだろう。例えば、キーウでは、15台のコジェネレーション・ユニット、いわゆるミニ火力発電機の購入のための入札が発表されたのだが、契約によれば、そのオーストリアの機材は、2025年末までにが納入されるのだという…。キーウ行政府の計画がこれだけではないということを期待しつつ、私たちは本件に関心を向けていこうと思う。
「ウクライナ・エネルギー天然資源」連合のオレクシー・コルチャノウ総裁は、個人レベルの対応について話す。同氏は、「私たちは、自らの消費習慣を変えねばならない。特にピークの時間帯には意図的に電力消費を減らさなければならない。残念ながら、私たちは、停電が起こるということからは逃れられないが、しかし、適時の切り替えで全てがうまくいくことは期待している」と述べる。そして同氏は、民間企業は、非常時の能力を高め、追加の発電機を設置していくと予想する。同氏はまた、「問題は、接続が屋外で適切に保護されていない場所で起こるだろう。そのような状況では、ウクライナの中部や南部(オデーサ州、ミコライウ州、ヘルソン州)にて停電が最大で2、3日続くことが想定できる。ハルキウとスーミについては、電力だけでなく、暖房の問題も生じるであろうから、特に厳しい」と言う。
ユーリー・コロリチューク氏は、秋冬の停電時間は合計すると30日程度になる可能性を予想している。同時に同氏は、「全期間のうち1か月は、例えば1日20時間電気が使えないような状況になるかもしれない」とも指摘している。
何をすべきか?
シンクタンク「ディクシー・グループ」の総裁を務め、サイト「UAエナジー」を開設したオレーナ・パウレンコ氏は、自身の記事において、秋に備えて消費者のエネルギー自立を最大化することについて語っている。同氏は、次の冬を最大限問題なく乗り切るために、発電機やソーラーパネルといった代替の電力源へと移行することを呼びかけている。また、暖房も忘れてはいけない。同氏は、「小企業と人々にとっての課題は、最大限自立し、送電網への依存を減らすことだ」と指摘する。
ユーリー・コロリチューク氏は、一般人は「頭上より高くジャンプする」ようなことはすべきでないとも警告する。例えば、アパートのための発電機を買うために自動車を売ったりする必要はないという。同氏は、全ては能力によるとし、「人は、財政面を含めて、自分の能力に応じて行動すべき」だと述べている。
全ての専門家が、断熱手段は今から準備をすべきだとアドバイスしている。窓と外断熱は重要な要素だという。加えて、「一般的なこと、簡単なことから始めるべきだ。1週間分の予備の水、予備の食べ物、温めたり、調理したり、解凍したりしなくても良いものだ」とも勧められている。
コロリチューク氏は、現在南向きのベランダに設置されることが提案されているソーラーパネルについては、懐疑的な意見を持っている。同氏は、「それは冬には、たとえ天気が良い日でも効率が悪い。冬季は基本的に太陽活動は低いのだ。例えば、自分のところに7KWのパネルを設置した人のところで、冬季には50Wしか発電していないという例を確認している。それでできることは、電話を充電するとか、1時間電球を点灯させることぐらいだ」と述べる。
オレクシー・コルチャノウ氏は、「ソーラーパネルは夏季の発電だけのためだ」と述べつつ、具体的な提案として、秋冬のためにはインバーターと大型ポータブル電源を勧めている。また同氏は、砲撃が常にある地域と比較的安全な地域を分けて考えている。同氏は、「もしハルキウ州やスーミ州について話すのであれば、そこではアルコールストーブに注意を向けるべきだ。郊外での滞在なら、薪やペレットを得たり、寝袋、薪ストーブなどを用意すべきだ。そう、これは、これまでの冬にも私たちが伝えたアドバイスと同じであるが、しかし、多くの人がそれに耳を傾け、その効果を確認してきた」と述べる。
また同氏は、「私たちの軍人は、塹壕ろうそくや、ジェル暖炉、アルコール暖炉を使っているが、それらも効果を発揮している。つまり、これらは、アパートでも役立つはずだ」と言う。
ユーリー・コロリチューク氏は、さらに、小さなアパートで大型のポータブル電源が本当に必要かどうか、1、2シーズンのために5万フリヴニャを払うべきかどうかをよく考えるようアドバイスしている。「町中のアパートで、ニーズが小さいなら、2〜3KWの電源を使えば良い。それは、大体5、6、7万フリヴニャだ。それは、その人の恐怖の度合いと経済力に左右される。お金があって、恐怖心が強い人なら、そのお金を出すだろう。恐怖があってもお金がない人は、何にも払わないのだ。」同時に同氏は、間違いなく必要な物として、家電製品の保護のために電流安定器を買うことはアドバイスしている。
エネルギー専門家のミハイロ・ホンチャル氏は、危機的な状況になった時に郊外の薪ストーブのある建物へと移動することについて自らの記事の中で言及している。他方で、ユーリー・コロリチューク氏は、そのような案にはかなり慎重だ。同氏は、「そこには、100%の断熱された現代的な建物と発電機がなければならない。燃料を入れるためにガソリンか軽油が必要だ。自動車がなければならない。薪の予備も要るし、薪の割り方も知っておかねばならない。町の住民が全員そのような準備があるわけではない。もし、あなたが医者で、人々を治療する訓練を受けているのであれば、村に住んでもあまり役に立たないだろう」と指摘する。
戦時中の多くの地域の経済状況は最良ではなく、しばしばそのような建物には、国内避難民が最小限の資産で暮らしているという。コロリチューク氏は、「町から離れれば離れるほど、人々の所持金は少なくなる。彼らは、発電機を買うことはできないし、電力供給が回復するのを待ち、政権に期待していくだけとなる」と述べる。
私たちは、2022年〜2023年の経験を考慮しながら、今回のアドバイスをまとめた。秋までに用意すると良いのは次の物である。
必須:
・最小限の予備食料(調理や水を必要としない物)
・建物の断熱に注意することが極めて重要(些細なことだし、毎年それについて聞いていることだが、しかし、私たちはそれにいつもきちんと反応しているだろうか?)
・電池、充電した懐中電灯、電球の予備。十分な数のろうそくや塹壕ろうそく
・アルコールストーブ、ガスボンベ、ウォッカ(安全方策を守った上で使用)
・冬用の寝袋
可能なら入手:
・パワーバンク(複数個)
・ポータブル電源
・電流安定器
郊外の建物のために追加で:
・発電機
・固定燃料ストーブ
・十分な量の石炭、薪、パレット
そして、節約だ…。たとえば、停電が始まってからは、筆者の電気ポットは食器棚の上の名誉ある場所へと移動した、勝利の日まで。そう、ガスでお湯を沸かすのはもっと時間がかかるが、それも勝利へのささやかな貢献だと思うとより嬉しいものだ。もし可能であれば、もちろん、小さな物は手洗いしたり、ドライヤーを使わずに髪を乾かしたり、空調を使わなかったりすることも可能である。電力不足の期間の習慣は、秋冬を乗り切るのに役立つ。戦争、戦勝、それはまた、私たちの「後衛」での消費行動を変える努力のことでもある。それは、必要とする人々を支えながら、最も困難な中を生き抜く能力である。最悪の事態に備えつつ、最善の時を期待するのだ。