ウクライナ・スロバキア関係 新たなプラグマティズム政策
3週間前のウクライナ・ポーランドの政府間協議により、最近両国間で不合理に高まっていた緊張を和らげ、感情的な対話から建設的な対話へと移行させることができていた。1つの場所に両国の政権幹部が一堂に会する手法は、ウクライナのもう1つの隣国、スロバキアとの関係調整に役立ったようである。4月11日、ミハロフツェで開催されたウクライナ・スロバキア政府間協議からは、少なくともそのような第一印象を覚える。
執筆:ヴァシーリ・コロトキー(ブラチスラヴァ)
写真:ヴァシーリ・コロトキー、シュミハリ首相(テレグラム)
ウクライナの政治的な「高貴さ」の発揮
ミハロフツェという人口4万人のスロバキアの小さな町は、4月11日、(ところで)約800年の町の歴史において、おそらく最も高いランクの賓客を受け入れることとなった。ウクライナのウジホロド市から40キロメートル離れたこの町で、その日、スロバキア共和国の政権幹部と、首相率いる戦時下の隣国ウクライナの代表団が集まったのだ。主な目的は、二国間連携発展の重要な点を、声明やメディアを通じてではなく、直接、詳細に、官僚主義抜きで協議して、主な懸念につき話し合うことであった。
昨年10月にスロバキアでロベルト・フィツォ氏が政権入りして以降、そのような懸念が残念ながら著しく多くなった。選挙前も、首相職に就いてからも、この右派ポピュリスト的な政治家は、複数の反ウクライナ的なスキャンダル発言を行っており(例えば、ウクライナを米国の影響下にある「非主権的」と呼ぶ発言や、ウクライナ領土一体性に関する譲歩の呼びかけだ)、また「平和を望んでおり」「戦争は支持したくないから」と言って、ウクライナへの軍事支援を止めている。
ウクライナ関連のスロバキア現政府とのその外政上の「違い」は、当然ながら、かつてとは比較にならないほど大きくなったように見える。しかし、ウクライナ政権は現在、チェコ政府のように行動することはできない。ウクライナは、資源の点ではるかに強力な敵に対峙する防衛戦争を遂行する上で、隣国を含む同志国の支援を切実に必要としており、それゆえはるかに繊細で外交的に適切に振る舞わざるを得なくなっているのだ。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は、ウクライナ西部ウジホロドでの1月24日のスロバキア首相との会談の際に「差異こそあれど、私たちは、スロバキア政府との間で、両国に利益をもたらす『新しいプラグマティズム』政策を形成するつもりだ」と発言していた。
その「両国関係の新しいページを開く」という願望は、当然、4月11日のミハロフツェでも政府間協議の土台になっていた。
そして、ウクライナのその外交と互恵関係構築の願望は、攻撃的な発言を行ってきたフィツォ首相本人からも評価されたように見える。
フィツォ首相は、ミハロフツェでの政府間会合後のウクライナ側との共同記者会見の際に、「私は、今日作業を行ったスロバキア政府にお礼を述べたいだけでなく、スロバキア共和国全体を代表して、あなた方(編集注:ウクライナ側)が政治的観点からして高貴であったことにつきお礼を述べたい。テレビを見て、意見を聞くだけの人は、スロバキアには絶対に来たがらない。しかし、あなた方は、そうではなかった(編集注:スロバキアを訪れてくれたの意)」と発言した。
集会参加者からは「恥を知れ!」 会合自体は友好的な雰囲気
市議会にて両国政府代表者の会合が始まると、集会参加者から「恥を知れ!」「ウクライナに栄光あれ!」という叫び声が聞こえた。政府間協議の開催についての公式な発表はなかったが、このような大規模行事を地元住民から隠すことは、当然不可能だ。
広場には柵が設置してあり、治安上の理由から市議会への移動はその柵で閉ざされていた。その広場には、朝早くからフィツォ首相の対ウクライナ政策への不満を表明するために少数のグループの人々が集まっていた。思うに、より正しくは、フィツォ氏への不満表明自体が彼らの目的だったのだろう。なぜなら、集会を組織していた人々は、現場にいた多くの記者たちに対して、柵で囲われた場所の近くで集会参加者と話すことを認めなかったからだ(それも治安上の理由からだということだった)。
集会参加者は、ウクライナ国旗を手にし(またスロバキア国旗も数本、EU旗と米国国旗も1本ずつ見られた)、スロバキア語で「ロシアはウクライナから出ていけ」と書かれた大きな横断幕を広げていた。市議会へとスロバキア政府代表者を乗せた自動車が近づくと、集会参加者は大きな声でクラクションや口笛を鳴らして、閣僚たちに向かい「恥を知れ!」と叫んだ。特に彼らは、フィツォ氏に対して大声をあげていた。
ウクライナ代表団が到着すると集会参加者たちは、「ウクライナに栄光あれ!」とのスローガンで出迎え、しかも「ウクライナ軍に栄光あれ!」というスローガンも聞かれた。
とはいえ、会合の最初の雰囲気自体は緊張したものには見えなかったし、むしろ反対だった。フィツォ・スロバキア首相は、シュミハリ宇首相をまるで旧友かのように出迎え、握手し、抱擁し、背を軽く叩いてみせた。両首相は何度も握手していた。プロトコル上の「家族写真」の時も、会合開始の時も、フィツォ氏はシュミハリ氏と、彼の発言への同意を示すために握手していたし、また共同記者会見や文書署名の時も(複数回)握手していた。スロバキア首相は、ウクライナの賓客を、会合の終わりとスピーチの後、そして別れの時に抱擁した。
フィツォ首相自身、直接会って話すことが自分にとって重要であることを認めている。
フィツォ氏は、共同記者会見時に「(シュミハリ)首相、私は、あなたとあなたの代表団全員が快適に感じたと思っている。記者が書くことも1つ、敵が私たちについて話すことも1つ。しかし、人は接触しなければならない」と、ウクライナの同僚の腕を取りながら述べた。「そして、その人がどんな行動をするのか、何を話すのか、どのような具体的な結果を有しているのかを見なければならないのだ。」
「そして、私はいつでも、手を差し出す政治家の1人であり続けるし、自らの義務を守っていく」とフィツォ氏は述べ、ウクライナのカウンターパートに対して「親愛なるデニスよ(編集注:シュミハリ首相のこと)」と呼びかけた(これに対して、シュミハリ氏は、親愛なるロベルトよ、と返していた)。
新しいプラグマティズム政策の精神で高く蹴り上げられたボール
フィツォ首相は、「(シュミハリ)首相、親愛なるデニス、あなたが認識しているかどうかはわからないが、しかし今日、私たちはボールを蹴り上げており、ボールはとても高く舞い上がったわけだ。それは、もしかしたら、小さな出来事かも知れないが、しかし、それは私たちが前に向かって進んだ、非常に大きな一歩でもある」と総括した。「私は言いたい。私たちの建物の扉は、あなたたちのために開いていると。」
頭上に高く蹴り上げられたボールについては、シュミハリ首相も同意した。そして、彼は再び「新しいプログラマティズム」政策について言及した。
シュミハリ氏は、政府間協議の結果を受けて「過去2か月間ですでに2回目となる私たちのこの対話につきフィツォ・スロバキア首相に感謝している。前回、私たちは新しいプラグマティズム政策の精神での両国の二国間協力に関するいくつかの具体的な合意につき確認した。今日、私たちは、時計の針を合わせ、私たちの協力の地平線を拡張した」と発言した。さらに同氏は、「(フィツォ)首相が述べたように、今日ボールは非常に高く蹴り上げられたのであり、これから私たちは作業をしていく。そして、当然、その協力は、私たちの民、私たちの国のために、より集中的で、完全にプラグマティックなものとなるだろう」と発言した。
シュミハリ首相が開始前から政府間協議を「歴史的」と形容していたところ、ウクライナとスロバキアは、協議後の総括として複数の合意文書に署名した。両国首相が署名したものの内、主なものは、「共同行動ロードマップ」である。署名の場にいたドミトロー・クレーバ宇外相は、ウクルインフォルムの特派員に対して、ロードマップには、両国政府の合意文書が焦点を当てている具体的な議題の概要が書かれているとし、「それは包括的で、協力のあらゆる分野をカバーしている」と説明した。
その他の重要文書としては、原子力エネルギー分野の協力に関する相互理解覚書を指摘すべきだろう。既知の通り、スロバキアにとってロシアは核燃料分野の唯一の供給国であり、同国はロシアの同分野へのEUの制裁に反対している。一方、2022年2月24日以降、ウクライナの「エネルホアトム」社は、侵略国ロシアとの協力を完全に停止し、米国のウェスティングハウス社と共同で、BBEP-1000とBBEP-440の原子炉用の核燃料を開発することで、ロシアの独占を打ち砕いている。現在、ウクライナ側は、この経験を今もロシアに依存しているスロバキア側のパートナーと共有したがっている。
シュミハリ首相は、「ウクライナ政府とスロバキア政府は、原発への核燃料供給の多元化を支援する共同作業部会を設置することで合意した。それは、欧州のエネルギー面の独立への重要な一歩である。それは、この分野におけるロシアの独占を破壊し、同国から大陸全体への脅迫のための手段を剥奪することになる」と指摘した。
政府間協議の際に大きな注意が向けられたのは、フィツォ政府が特に重視しているガス輸送問題を含む、エネルギー分野の強力だった。フィツォ氏は、「エネルギー問題に関しては、私たちは、(シュミハリ)首相と、ガス、欧州へのガス供給の多元化について、どのような見方が存在するか、ウクライナの立場はどのようなものか、ということにつき非常にオープンに話し合った」と発言した。
これにつき、シュミハリ首相は、スロバキアはウクライナの海洋石油ターミナルをEUへの石油製品供給のために利用可能で、ウクライナのガス貯蔵施設もスロバキアの天然ガス貯蔵のために使えると発言した。
さらにシュミハリ氏は、ウクライナとスロバキアは、EUへと水素を輸送するための「中欧水素回廊プロジェクトの実現」に向けて積極的に活動していくとも伝えた。
加えて、両国のエネルギー安全保障の強化と電力の輸出入の可能性拡大のために、2028年末までに、「ムカチェヴォ〜ヴェルケ・カプシャニ」間電力連系線の再建・現代化を終わらせる計画だという。
政府間協議で提起されたもう1つの分野が、輸送である。シュミハリ氏は、双方は年内にキーウ〜コシツェ間の直接旅客鉄道網の開通につき合意したと伝えた。さらに、チョプ〜チョルナ・ナド・ティソウ間の輸送鉄道ルートの発展も計画されているという。
またシュミハリ首相は、スロバキアの商業界がウクライナの復興に参加することへの期待を表明し、スロバキアの商業界と政府の代表者がベルリンでのウクライナ復興会議に招待された。そして、その結果として、秋には、ウクライナ・スロバキア共同企業フォーラムが組織される予定である。
武器の提供は「レッドライン」 ただし、商業ベースなら大丈夫
フィツォ首相は、ウクライナへの軍事支援の停止を訴えた上で、政権に就いている。実際、スロバキア軍によるウクライナへの武器や機材の供与の能力は今では著しく制限されているが、スロバキアはこれまでに、自国の戦闘機MiG、防空システム、ヘリ、榴弾砲のウクライナ軍への供与をはじめ、総額6億7000万ドル以上の軍事支援を供与してきた。
一方、フィツォ首相の立場は、ウクライナがスロバキアの企業から武器を購入することは排除しない、というものだ。それもまた、「新しいプラグマティズム」政策に沿ったものである。
クレーバ宇外相は、「スロバキア政府には一定の『レッドライン』がある。私は、その1つとして、スロバキア軍在庫からのあらゆる武器の供与の拒否を見ている。しかし、その際、あなたも今日スロバキア首相の発言を聞いただろうが、彼らは、ウクライナがスロバキアで軍用品を購入するという案には完全にオープンなのだ」とコメントした。
そして、実際、スロバキア首相はその日、「商業ベースでは」スロバキアはウクライナと軍事分野で協力する分野があることを認めた。
フィツォ氏は、ミハロフツェにて、「私は、その点については秘密を作りたくない。私たちは、決して嘘はついてこなかった。商業ベースでは、スロバキアは軍事分野でも協力する準備がある。そして、その精神で、今日の私たちの協議に出席したスロバキア国防相とウクライナ国防次官が協議を行った」と伝えた。
これを背景に、フィツォ氏は、ウクライナに対して地雷除去分野の支援の提案を申し出た。同氏は、「これは、専門知識のことではなく、具体的な地雷除去機の話だ」とし、「私たちは支援したい。訓練でも、その機材のサービスを行う人員の準備でも支援したい」と発言した。
シュミハリ氏はまた、本件は「技術機材の共同生産やすでにできている地雷発見・処理機材の供与の話だ」と補足した。さらに同氏は、「私たちは、ロシアの地雷ごみから私たちの大地を洗浄する大国家連合へのスロバキアのパートナーたちの参加に感謝している」と発言した。
欧州統合とウクライナの「平和の公式」への支持、「ロシアによる力行使」は非難
ミハロフツェでの政府間協議では、ウクライナと同国の「平和の公式」(編集注:和平案)の政治的支持についても話し合われた。
フィツォ氏は、「スロバキアは、ウクライナにとって良好で、友好的な隣国でありたいと思っている。私たちは、あなた方が戦っているその不幸においてあなた方との連帯を示したい」と強調した。「不幸」とは、ロシアの対ウクライナ「不幸」のことである。
フィツォ氏は、ウクライナに対して、「あなた方の主権と領土一体性を支持する瞬間を見出せるように」といういささか回りくどい言い方で祈念しつつも、ロシアによる力の行使については直接的に非難し、ウクライナ支援の必要性に関してもまっすぐ言及した。
また同氏は、「諸君、私は、ロシアのウクライナにおける力の行使が国際合意の違反であることには何の疑いもないことをただまっすぐ言いたい。私たちはスロバキアにて、そのような立場に基づいており、その立場を変えることはない。繰り返し言わせて欲しいが、ウクライナは支援を必要としており、ウクライナは、連帯が示されることを必要としている。そのために、私たちもここにいる」と発言した。
同時に、プラグマティックなフィツォ氏は、「その支援と連帯に関しては、様々な見方があり得る」とも補足した。
その他フィツォ氏は、スロバキアはまた、ゼレンシキー大統領のイニシアティブであり、スイスで開催される「グローバル平和サミット」へ参加するとも伝えた。そのイニシアティブは、国際的に認められた全ての領土をウクライナが回復することを想定している。
その際フィツォ氏は、「私たちは、スイスでの6月15、16日の大きな『平和サミット』の準備について話した。私たちは、そのサミットに参加するし、私たちは、それが双方にとって興味深い、有益な瞬間を最終的にもたらし得るプロセスの始まりだと思っている」と発言した。
また、フィツォ氏は、ウクライナのEU加盟について「完全に支持する」と表明した。
同氏は、「私たちは、あなた方の道に障害を据えるような国ではなく、反対だ。私たちは、支援し、加盟交渉に関する自らの経験をあなた方に与えたいと思っている。スロバキアは、ウクライナが速やかにEU加盟国になることを望んでいる。なぜなら、それはあなた方の国の展望と平和的な発展にとっての保証となるからだ。私たちは、あなた方のために拳を握り続けている」と発言した。
クレーバ宇外相は、ウクルインフォルムの特派員とのやりとりの中で、スロバキア政府がウクライナとEUの間の加盟交渉の迅速な開始を支持していることを認めた。
クレーバ氏は、「EUに関しては、問題はない。私たちは今日、ブラナール大臣(スロバキア外務・欧州問題相)と非常に実りある対話を行ったし、欧州議題のあらゆる問題について話し合った。彼らは、ウクライナ・EU間の交渉の迅速な開始を支持している」と伝えた。
そして同氏は、「そのため、もっと対話しなければならない。より多く対話をして、より多く共同プロジェクトが生じれば、誤解はもっと少なくなる。政治的な発言は、いつでも生じるものだ」と総括した。