ロシアプロパガンダの幻想・神話の除去が勝利の鍵 チェレヴァティー・ウクルインフォルム新総裁寄稿

ロシアプロパガンダの幻想・神話の除去が勝利の鍵 チェレヴァティー・ウクルインフォルム新総裁寄稿

ウクルインフォルム
この度ウクルインフォルムの新総裁となったセルヒー・チェレヴァティー氏が、国営通信社の社会の基盤となる信頼ある情報源としての役割について語った。

筆者:セルヒー・チェレヴァティー・ウクルインフォルム総裁/ウクライナ軍大佐

ロシアのプロパガンダは、国際情報空間や国内情報空間で「神話」を広めるために、私たちの情報面の防衛における隙間を常に探している。敵は、一方で私たちの戦略的パートナー国の姿勢を変えようとし、他方でウクライナ国民の意識と気持ちに影響を及ぼそうと、全力で努力している。

国際情報前線では、ロシアはウクライナ政権のあらゆる機関の信頼を失墜させることに賭けている。それは特に英語空間とフランス語空間で顕著だ。加えて、敵はグローバル・サウスの国々の情報空間に積極的に働きかけており、ウクライナはあたかも汚職にまみれている、ウクライナ人など存在したことはなかったのだから存在はあり得ない、ウクライナにはファシズムが横行している、ウクライナ領は「ロシアの固有の土地」だとかいう愚かな神話を流している。そして、それら全てが世界のウクライナ人についての受け止め方に影響を及ぼしている。それは一般市民だけではなく、政治エリートの代表者の受け止め方にも影響を及ぼす。そして、それが私たちの解放戦争におけるウクライナへの武器供与や政治的サポートにもすでに直接影響を与えているのである。

私たちは、自由な国家ウクライナの偉大な民が持つ「団結」という個性的な記号の伝達を通じて一緒に勝利する。私は、個別のアクセントが、前線の情勢展開に関し、基盤となる信頼ある情報源としてのウクライナの役割に置かれるべきだと考えている。

第二次世界大戦期、米国のフランクリン・ルーズベルト大統領は、「戦時情報局」を開設し、それがラジオや印刷メディア、さらにはハリウッドの映画会社まで、国民の強力な情報手段を団結させていた。その戦略の結果の1つが、敵の情報を評価する最初の規則であり、それにより1944年には日本の間違ったプロパガンダ発信を効果的に特定することができ、結果、その後のアジア太平洋地域における戦闘の展開を見定めることができたのだ。

現在私たちは、最新かつ最も効果的な技術が投入された人類史上最も大規模な情報戦の最中にある。かつてのプロパガンダ担当者は、このような情報システムの影響力や標的設定、人の心理や生理すらの理解など、夢見ることしかできなかったであろう。私たちは、この情報戦に勝たねばならないのだが、しかし、そのためには、私たちは、ウクライナにおいて独立し、しばしばバラバラとなっている国の、とりわけ地域の情報プラットフォームを統合し、同期させることのできる調整センターを作らねばならない。

イデオロギー戦争も、空間におけるコントロールの確立と戦闘の混沌の管理が必要な前線

私は、全面侵攻の当初から、キーウ州の防衛・解放の際の情報面の抵抗を率いる中で、敵との情報戦における積極的で攻めの情報戦術運用の支持者だった。私のチームにより作られた歌「バイラクタル」は、ロシアのプロパガンダが広めたナラティブ「3日でキーウ陥落」を木っ端微塵にした。さらにそれは、敵を嘲笑い、前線や後衛のウクライナ人に自信をもたらすことになった。

戦争の中で直接得られた情報戦の経験は、国内・国際のレベルでの情報活動に関する課題への明確な理解を形成した。一方で、国内には「防護情報システム」のような、技術的に外からの「ロシア的な」ものの侵入を防ぐものを作らねばならない。同時に、「個々の情報面の注射」から「大量破壊情報」に至るロシアのプロパガンダに対する社会の「情報免疫」を鍛えねばならない。

私は、軍の情報分析・コミュニケーション業務の幹部を20年以上経験する中で、いくつかのメディアプロジェクトを実現してきた。それら全てが、ウクライナ国民に強力な安全保障・国防分野を構築すること、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)へ加盟することの必要性への理解をもたらしてきた。それは、政権が交代しても、この問題に関して世論が曖昧であっても、私が明確に宣言してきた、私自身の市民としての立場である。

敵プロパガンダの幻想と神話を除去することが勝利への鍵

私たちは、情報活動の際に、何よりもまず、様々な幻想を作り出した上で、自らもその虜となっている敵と対峙していることを覚えておかねばならない。(編集注:ロシアに関する)偉大さの幻想、不敗の幻想、一体性の幻想、力の幻想である。情報空間への大規模な資金投入と完全な支配により、侵略者は様々な神話を作り出すことに容易に成功している。しかし、私たちは彼らの幻想を消滅させる。そのためには、情報活動は偏見を取り除き、一貫し、透明で、最も重要な目的であるできるだけ迅速なウクライナの勝利を目的とする原則に基づいて実現されなければならない。

この文脈で、私は、情報活動の主要な要素は次の4つの項目に分類すべきだと考えている。

・軍事活動を支え、軍人・民間人の士気を高め、敵の士気を下げることを目的とする情報発信

・カウンター情報戦略の発展、ロシア連邦による偽情報・フェイクと対抗するために、正しい情報による活動への市民団体やメディアの関与

・情報空間におけるロシアを凌駕する水準までの大幅な規模拡大

・敵の侵入からの文化遺産保護、歴史とアイデンティティの維持を促進する情報プロジェクトの支援

批判的な情報もまた、適量は不可欠であるし、それはハイブリッド戦争下にある国の情報機関にとって適切な対応である。しかし、ロシアのプロパガンダが攻撃のために情報面の口実と機会を常に模索していることは覚えておこう。私たちには、情報面の衛生とイデオロギー戦争における一体性が必要なのだ。

第一に、私たちはすぐに国外支局の組織モデルの質的な改変に着手する。特にアジア・太平洋地域に着目している。

第二に、私たちはアプローチを変える。今後、世界中がロシアが毎分のように犯している戦争犯罪とジェノサイド行為を把握するようになる。

第三に、私たちは、古典的なジャーナリズムのジャンルを大規模消費のニーズに適応させつつ、新しいデジタルプラットフォームにて、新しいメディアフォーマットを開始する。例えば、短時間の「リール」(編集注:フェイスブックの動画フォーマット)は、風刺と見事に融合させられるだろうし、特集記事をシリーズ化することも可能だろう…。情報世界は変化しており、信じられないほどにダイナミックで高速化しているのであって、だからこそウクルインフォルムも変わらねばならず、ただの通信社ではなく、特に国際レベルでは、国益を積極的に守っていくための手段に変貌させねばならない。

情報前線が私たちの編集室、スタジオ、テレグラム・チャンネル、インターネット空間から直接情報の消費者のところへと広がっているという認識を保つことが大切だ。その認識によって、民主的なメディア空間では不可避の内部議論を、統合的な情報の前線基地へと変えることができる。

そして、最も大切なのは、信念である。私たちの勝利への信念、私たちの力への信念、私たちの団結する能力への信念。どのような戦争であっても、そのような信念なくして勝利できたものはない。信念を失うと、私たちは内部の動員、動機を失うし、敵に主導権を渡してしまう。不均衡な対峙においては、勝利への信念こそが勝利の可能性をもたらすのだ。信念こそが、社会を動員し、適切な状態に保つのである。2022年に感じられ、今も戦闘部隊では感じられている信念である。

私は、私たちが強力な情報面の同盟として団結することで、私たちの共通の偉大な勝利への道を短縮できると心から信じている。


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