ゼレンシキー大統領、就任から2年 専門家の評価

ゼレンシキー大統領、就任から2年 専門家の評価

ウクルインフォルム
政治専門家たちはおおむね、ヴォロディーミル・ゼレンシキー大統領の就任2年目の活動を5段階評価の「4」と評価している。

執筆:ミロスラウ・リスコヴィチ(キーウ)

2年前の2019年5月20日、ヴォロディーミル・ゼレンシキー氏が国家に忠誠を誓い、ウクライナ大統領に就任した。それ以降、成功もあれば、新型コロナウイルスの世界的拡散で経済や国民生活に決定的な困難が生じたように、予期せぬ状況のせいで実現できなかったこともある。私たちは、困難こそあるが、今のところは耐えている。尊厳革命(編集注:マイダン革命)にて宣言された、ウクライナの欧州連合(EU)・北大西洋条約機構(NATO)加盟の方針は変わっていない。さらに、最近ロシア政権の回し者に対して強力な制裁が科され、ロシアの主要なエージェントであるヴィクトル・メドヴェチューク氏には国家反逆罪の容疑がかけられている。

ウクライナと国民は、この2年で何を得ることができただろうか。何が変化し、何が実現できたであろうか。そして、どのような問題に注目すべきだろうか。ウクルインフォルムが政治専門家に質問した。


「私たちは、若干混沌とはしているが、2014年に人々が選んだ正しい道を進み続けている」

ヴォロディーミル・フェセンコ政治専門家(政治分析センター「ペンタ」所長)

ゼレンシキー大統領の2年目は、困難で、通り一遍のものではなかった。この1年は、感染の波が1度収まった頃に始まったのだが、秋になると第2、第3の波が国を襲い、その勢いは第1の波より更に大きな脅威をもたらした。そのため、大統領も政府も、感染による社会・経済への否定的な被害と対峙せざるを得なかった。そして、それが大統領の立場に相当痛みのあるダメージをもたらすこととなった。特に、昨年5月ごろから今年の1月にかけて、大統領の支持率低下が見られた。さらに、憲法裁判所の判決や、汚職対策関連法を巡る緊張が生じ、非常に困難な地方議会選挙といった、その他の多くの課題が生まれた。地方選挙では与党「人民奉仕者党」は首位を維持できたが、しかし支持率低下は実感されている。選挙後、地方政治では、同党は他党との連携を余儀なくされている。つまり、地方での大統領勢力の影響力は維持できているが、状況は大統領とその勢力にとってはるかに困難なものとなったのだ。それにより、昨年はゼレンシキー氏の弱体化が感じられていた。しかしながら、その後、今年の2月以降になると、私たちはまた大統領の決断力を目にすることになった。大統領が、攻勢に転じ、愛国的立場を示し始めたのだ。何よりまず、それは親露勢力、メドヴェチューク氏に対する行動だ(編集注:同氏と繋がりの深いTVへの制裁発動など)。結果、大統領と人民奉仕者党の支持率はまた伸び始めている。現在、私は、ゼレンシキー氏の主要な政治的達成は、あらゆる困難の中にありつつも、政治家間の支持率でトップにいることだと思っている。一般市民も、エリートも、強い大統領を目にしてきた。ゼレンシキー氏が国家安全保障国防会議(NSDC)を通じて制裁という「魔法のステッキ」を見つけたことにより、エリートの間には一定の恐怖さえ生じている。もちろん、この「魔法のステッキ」の効果が及ぶ範囲は限定的であるが、しかし大統領は自らの力を示してきた。さらに、脱オリガルヒ(大富豪)政策の発表も行われた。脱オリガルヒは非常に難しい課題であり、やるべきことは多いが、しかし意思は確定したことになる。もし、このプロセスが実際に動き始めたら、ウクライナ政治の根本的基盤の一つ(オリガルヒ政治)の崩壊となろう。

また、この困難な時期において、大統領がパートナー関係を維持し、強化したこと、成功裏に外交・政治イニシアティブを進めたことも指摘したい。特に、英国との大きな合意への署名、トルコとの活発なコンタクトである。確かに、ドンバス情勢は困難であり、緊張が続いている。しかし、それは私たちのせいではなく、ゼレンシキー大統領がプーチン露大統領に対して妥協しなかったこと、クレムリンの要求を受け入れなかったことの結果である。そのために、ロシア連邦はウクライナに対して圧力を強め始めたのだ。しかし、そのウクライナにとって困難な時期に、米国やその他のパートナー国との間で戦略的に重要なコンタクトが行われたことも非常に意味がある。私は、ウクライナ外政に変更がなく、一貫性があることも、ゼレンシキー大統領の2年目に明確に示されたことだと思っている。重要なことは、過去数か月にわたり、私たちはウクライナ欧州大西洋(統合)問題の活性化を目にしていることだ。この立場は、非常にはっきりと形成されている。

問題点は、ヴォロディーミル・ゼレンシキー大統領が、ウクライナ史全体を通じて、最も「普通でない大統領」、という点だろうか。ウクライナでは、国家におけるあれほどまでに高いポストに政治の外からの人物が就くということはこれまで一度もなかった。そしてそれは、ゼレンシキー氏自身にとっても挑戦であった。言うまでもなく、問題もあるし、過ちもある。これまで同様、例えば、人事政策は欠点だと言えよう。さらには、業務の一貫性、体系性も必ずしも常に十分とは言えない。ご存知の通り、第6大統領(ゼレンシキー氏)は、感情的で、衝動的で、即興や、迅速で一般的でない決定や、電光石火を好む人物だ。それは時には良い結果をもたらすが、しかし毎回ではない。私は、「NSDCの制裁」という魔法のステッキについて指摘したが、しかし経済問題、戦争と平和の問題、外政問題は、一瞬で問題を解決することはできないし、これらの分野では時間と体系的努力が必要である。

ゼレンシキー大統領の中では、二つの人物が闘っている。一つは古典的な大統領としてのゼレンシキー、もう一つは一般的でない行動をする人間ゼレンシキーである。そして、彼はしばしば、その二つの間の境界線上で行動することがあり、そこに彼にとっての巨大なリスクが存在する。しかし、いずれにせよ、彼のそのリスクは、残念ながら、ウクライナの政界にはびこる古典的ルール、とりわけ汚職、非効率、一般国民の利益との乖離、といった政界の問題が温存されていることと関係するものである。同時に、重要なことは、ルールを破壊するだけでなく、新しいシステムを作ることであり、それについても考えなければいけない。

私のゼレンシキー大統領の就任2年の総合評価は、「奇跡は起きなかった、しかし同時に、破滅も起きなかった」というものだ。私たちは、慣れ親しんだスタイルで進んでいる。つまり、若干混沌とはしているが、生き生きと2014年にウクライナの人々が選んだ正しい道を進んでいる、というものだ。

「前任者達と異なり、ゼレンシキー氏の最初の2年間の支持は安定している」

ペトロ・オレシチューク政治専門家

広範にまたがる問題を短く総括するというのはかなり難しいが、有権者の動きを政治的に指摘することは可能だ。現大統領と彼の政党の支持は、一定期間低下したことがあった。それは、昨年の地方選挙と関係していたし、公共料金引き上げのテーマが浮上したこととも関係があった。他方で、その後状況は安定している。今は、ゼレンシキー氏の支持率は上昇している。つまり、大統領は過去1年、最初の深刻な支持率低下に苦しんだが、その出口は見つけたということだ。私は、それは年初に採択されたいくつかの重要な決定によって実現したのだと考えている。それら決定により、ゼレンシキー氏と彼の政治勢力の活動は新たな推進力を得た。前任の多くの大統領たちと異なり、支持率の点では、ゼレンシキー氏は、最初の2年間を安定して乗り切ったことになる。

コロナウイルスの世界的拡散、つまり、非常に困難な1年が経過した。しかし、この期間、ウクライナの今後の発展にとって重要な意味を持つ複数の決定が複数採択されている。何よりまず、農地改革である。人によっては異なる考えもあるかもしれないが、同改革が最も意味ある決定であろう。さらに、地方自治体改革である。その改革に従って地方選挙が実施された。ウクライナの被中央集権化は、不可逆的なものとなったのだ。これらの改革全てがウクライナをより明白な欧州型民主主義へと押しやっている。最近、ウクライナ大統領とリトアニア、ラトビア、ポーランドの大統領が、ウクライナのEU加盟を支持する共同宣言に署名したことも思い出して欲しい。トルコもまた、ウクライナのNATO加盟への支持を宣言した。もちろん、そのプロセス自体は、容易でもなければ、すぐ実現するものでもないが。

経済面でも、この1年は厳しいものだった。ウクライナを、コロナウイルスとの闘いにおける指導者と呼ぶことは難しい。しかし、私は、今評価を下すのは控えようと思う。私は、直に全てうまくいき、この困難な状況を脱出し始めるのではないかという希望を抱いているからだ。

総合すれば、行われたこと全てが期待されていたものとは言えないし、期待されていたことの全てが実現されたともとても言えない。プロセスは、遅く、困難もあるが、それでも前に進んでいる。そのため、私のゼレンシキー大統領の評価は「良」である。

「私は、大統領とチームは課題を概ねこなしたと思っている」

ヴァレンティン・フラドキフ政治専門家

コロナウイルスによりゼレンシキー大統領は、過ちを真剣に正さなければならなくなった。それが現政権の優先的活動方針であったと思う。私は、彼らは課題を概ねこなし、進展は目に見えるものだという考えをどちらかといえば支持している(昨年の状況と今の状況を比べてみて欲しい)。

第二には、「大型建設」プロジェクトの実現だ。通常、大型建設という場合、道路や橋の修繕といったインフラプロジェクトに注意が向けられる。ただし、そのプロジェクトには、病院や学校、幼稚園といった、社会・文化分野の施設も対象となっていることは忘れてはならない。ウクライナでは、全てが破壊され、盗まれ、管轄替えばかりが行われるといった状況を生きてきたのであり(例えば、昨日はスポーツ学校だったものが、今日はナイトクラブになったりしていた)、大型建設プロジェクトはウクライナの現実からすれば奇跡の類である。大型建設プロジェクトを批判する者は、調達価格、速度、質の面を批判するが、実現された部分は彼らの目には入らないようである。第三には、農地市場開設に向けた根拠が作られたことである。これは重要である。その点では、ゼレンシキー氏に対して然るべき評価を下すべきだ。なぜなら、彼が勇気を持ってそれを前に進めたのであり、潜在的リスクを恐れることなく自ら責任を負うことにしたのだから。

外政面に関しては、戦争開始以降、最も長い停戦が維持されたことが挙げられる。確かにその停戦は不完全ではあったが、しかしウクライナ軍人、民間人の何十人の命を救うことになった。加えて、新しい通貨検問地点の開設努力などの和平イニシアティブである。ゼレンシキー氏は、国際社会に対して、ウクライナは平和的情勢解決のためにあらゆる努力をしているが、実現できていないのはロシア連邦の破壊的立場のせいであることを示し、説得することができた。ウクライナ国境付近の最近の緊張についても思い出すことができよう。マッティ・マーシカス駐ウクライナEU大使が、ウクライナ外交官や大統領が効果的に仕事をしていると述べていたこと、特に彼らの努力のおかげで情勢が沈静化できたと述べていたことを指摘したい。最後に、戦争と平和の文脈では、現在活発に推進されているクリミア・プラットフォームも思い出すべきだろう。同プラットフォームはとても肯定的なものである。なぜなら、最近までクリミア問題が議題に上がることはあまりなかったからだ。ウクライナのEU・NATO加盟に関する2国間宣言署名というアイデアも見逃せない。EU・NATO加盟国がこのような宣言に署名すればするほど、欧州の官僚機構が(編集注:ウクライナの加盟に反対するための)根拠を見つけることは難しくなる。私はこのアイデアを賞賛している。

問題点は、大体これまでと同じである。何より、汚職関係の問題だ。確かに、政権最高レベルでは汚職は減少した。しかし、大統領と首相が現金入りのスーツケースを持ち出さないことは、そのスーツケースが消滅したことは意味しない。つまり、汚職との闘いは不十分である。さらに、これまで同様、国民との対話の不足が見られる。その点では、もう一度農地改革を見てみよう。私は、最近ラウンドテーブルに参加し、ある世論調査の結果を発表した。その結果によれば、大半の国民がウクライナでそのような改革が行われていること、農地市場が開設されようとしていることを知らないことが明らかになった。しかも、それを知っている者も「聞いたことがある」程度である。つまり、認識の深さ、レベルは、非常に低い。残念ながら、政権はしばしば類似のことを社会に伝えることができていないのだ。その点は、改善しなければならない。

最後に、ゼレンシキー氏は、国の社会経済状況を改善できなかった。コロナウイルス感染症のせいでうまくいかなかったというのは理解するが、とはいえ、である。

総じて、私は、一定の前借りの意味も込めて、大統領の2年目は「良」と評価する。

トップ写真:大統領府


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