ウクライナ政治の中のメドヴェチューク:据える場所に困る人物
専門家は、プーチンの親戚がウクライナ政治にいることは、プーチン自身の重要な要求であるとの確信を持っている。彼の将来の役割は何であろうか。将来の国会議長?ドンバス問題副首相?首相?それとも大統領であろうか?
ヴィクトル・メドヴェチューク(編集注:メドヴェチュークの実娘の宗教上の代父がプーチン露大統領。クチマ大統領政権時の大統領府長官)がウクライナの公の政治に戻ってきた。このことは、以下の3つの出来事で確認できる。1:メドヴェチュークがヴァディム・ラビノーヴィチの政党「生活党」に加入したこと(専門家は、加入は形式的なことに過ぎず、メドヴェチュークは以前から同政党を資金面で支援していたと説明する)。2:二つのテレビ局(112局とNewsOne局)の買収の噂。3:その112局が、「偉大な政治家との偉大なインタビュー」と題してメドヴェチュークのインタビューを放送したことでの(買収の)間接的裏付け。
事実、調べてみれば、メドヴェチュークはウクライナ政治を去ったわけではなかった。彼は、「ミスターX」のように、公の場には出ずとも影響力を有し続けていたのである。
そのため、重要な新しいことは、彼が公の空間に戻ってきたことなのである。「偉大なインタビュー」において「偉大な政治家」と呼ばれたメドヴェチュークは、アゾフ海におけるロシアの攻撃的態度の解決、ミンスク・プロセスとドンバス問題(編集注:ウクライナ東部ドンバス地方情勢の解決問題。ミンスク・プロセスとは、ミンスクで締結された停戦と政治的解決に関する諸合意の履行プロセスのこと)、ウクライナ・ロシア間の貿易やインフラ接続といった国家にとっていくつかの非常に難しい問題について、自らの計画や提案をはっきりと強調した。そのため、私たちは次のように言わなければならない。具体的で、ウクライナの人々の耳には心地よくない提案を抱えて、ロシアの利益の代弁者、ウラジーミル・プーチン露大統領の親戚がウクライナの公の政治空間に戻ってきている、と。どうしてそのようなことになったかに関する評価は、ひとまず置いておこう。代わりに、今しなければならないことは、「メドヴェチュークを『彼にとって最適な場所』に据えることは可能なのか」、「それは今必要なのか」という具体的な質問への答えを見つけることであろう。このウクルインフォルムの質問に政治専門家に答えてもらった。
アンドリー・イェレメンコ(社会学研究者、社会分析企業「Active Group」創始者)
「メドヴェチュークの計画は、ロシアの利益を議会で防衛することだ」
メドヴェチュークをウクライナ政治から追い出すことはできない。私たちは、捕虜の交換、停戦合意といった問題があり、これらの問題はウクライナとロシアの政権間のコンタクトを必要とするのであり、私たちは、いずれにせよ、メドヴェチュークと協力せねばならないし、クレムリンの要求は、そのメドヴェチュークが交渉者であることなのである。これは所与のものであり、私たちはそれを排除できない。ウクライナ政治においてメドヴェチュークがクレムリンの代表者であることもまた、所与のことである。
メドヴェチュークは、1997年の国会選挙でザカルパッチャ州イルシャウシク選挙区で勝利した。どのようにして勝ったかは、話さないでおこう。その後、彼の政党「ウクライナ社会民主党(統一)」は、全くうまくいかなかった。1998年の得票率は、4%、2002年は、実質的に無制限に行政資源を利用し(メドヴェチュークは、クチマ大統領時代の大統領府長官であった)、また政治技術者達の最も高価なサービスを利用して、得た得票率はたったの6%であった。これは、現在のオレフ・リャシュコの急進党と同じ状況である…。選挙での失敗は、メドヴェチュークの戦略の特殊性で説明できる。彼の戦略は、あまりに複雑なスキームであり、一般人に対しては効果がないのである。
現在、メドヴェチュークから何らかの強力なキャンペーンが出てくるとは思わなくていいであろう。確かに、彼らは、いくつかのテレビ局を傘下に置いたが、一方で、人々が112局やNewsOne局を見たとしても、そのあとチャンネルを変えてウクライナ局やらプラス局やらを見るのであり、そうすることで大なり小なり客観的ビジョンを得るのである。
メドヴェチュークの計画は、議会に入り、内側からロシアの利益を防衛することである。しかし、問題は、メドヴェチュークと選挙の関係が非常に難しいことである。メドヴェチュークが生活党に入る前は、生活党が(比例選挙で議席獲得に最低限必要な)5%の得票率を得ることに疑いはなかったが、彼が同党に入ったことで、私はこれを疑い始めた。しかし、メドヴェチューク当選の可能性はあるし、彼には資金もある。しかし、行政資源や情報空間が彼に対してネガティブに働く中で彼が選挙を戦うということを忘れるべきではない。
ヴォロディーミル・フェセンコ(政治学者、政治研究所「PENTA」所長)
「メドヴェチュークは、アンチ・カリスマ的人物。このことは、彼だけでなく。彼の政党に対しても否定的に作用する可能性がある」
メドヴェチュークがウクライナの公の政治に戻ったということは、始まりに過ぎない。彼が最高会議(国会)に入り、「灰色の枢機卿」(編集注:黒幕的政治家の意)という彼の昔からの役割を担うことは、彼にとってだけでなく、彼の「ロシアの友人達」にとっても重要なことである。私は、彼が首相や国会議長になるとの考えには同意しない。これらのポストに就くために必要な賛成票は得られないであろう。公の場で「あの」メドヴェチュークを支持することは、大きな政治的リスクである。しかし、問題はそれだけではないかもしれない。彼は、議会内の委員会の委員長になるかもしれないし、そうなると、「灰色の枢機卿」の地位だけでなく、機能面での権限も得ることになる。ただし、これは今のところ仮定に過ぎない。しかし、危険はある。彼が、議会においてロシアの利益を追求する手段となる可能性、小選挙区当選議員をまとめあげる可能性、これら議員を通じてロシアの利益にかなった決定を追求する可能性は残っているのである。
では、何をすべきか。ポロシェンコ大統領は、形式的・法的観点から、状況を正しく説明した。大統領は、メドヴェチュークが二つのテレビ局を得ることを妨害することも、メドヴェチュークのテレビ出演を警告することもできない。それは非民主的行為である。さらに、メドヴェチュークの登場により、ユリヤ・ティモシェンコ(編集注:元首相。現在、祖国党党首)の立場が弱体化するかもしれず、ティモシェンコのファンは信じないであろうが、ティモシェンコとメドヴェチュークの繋がりが批判されていくことを、大統領勢力が望んでいる可能性も否定できない。
もう一つの見方もある。メドヴェチュークの公の場での活発な言動が、彼自身にマイナスに働く可能性がある。彼は、あまりに「アンチ英雄」的であり、ウクライナ政治において政治的悪の具現となっている。同時に、生活党をはじめとするメドヴェチュークが自らを同化させる政治勢力にとっても、彼の言動の活発化はマイナスに働くであろう。
制限に関して言えば、メドヴェチュークはミンスクで行われている三者コンタクト・グループ(編集注:ウクライナ・ロシア・欧州安全保障協力機構(OSCE)の三者がウクライナ東部ドンバス地方の情勢について議論するグループ。違法武装集団も出席している)にも加わっている(編集注:三者コンタクト・グループの中の捕虜解放等の問題を扱う人道問題作業部会にウクライナ代表の一人として参加)が、メドヴェチュークが公の政治の場で活動を活発化していることを考えると、彼の三者コンタクト・グループへの参加は目的にそぐわない。彼は自らの参加を政治的宣伝に利用するのかもしれないが、(編集中:三者コンタクト・グループのような国家間の)交渉の場に参加する人物は、国家のために作業すべきであって、特定の政治勢力のために活動すべきではない。
ヴォロディーミル・ツィブリコ(政治学者)
「メドヴェチュークのすべての活動は、反国家的なものだ」
政党法という法律がある。「生活党」というメドヴェチュークが所属する政治勢力の収支は、関係者が丁寧に追わねばならない。もし、国家汚職防止問題庁(NAPC)が違反の兆候を摘発したら、それはその政党の国会選挙への参加を禁止する根拠となりうる。しかし、メドヴェチュークは、ビジネスやロシアの政治首脳部との繋がりという多くの「保険」を持っている。また、彼のもう一つの「保険」は、ドンバス地方で違法に拘束されるウクライナ人を解放を支援する役割である。この役割により、彼は、活発なウクライナ政治へと戻ってくることができたのである。
また、治安機関は、ヴォロディーミル・ルバンの案件におけるメドヴェチュークの役割を判明させねばならない(編集注:ルバンは、本年3月8日、ウクライナ東部ドネツィク州の政府管理地域と被占領地域の通過をコントロールする検問地点「マヨルシケ」で、大量の武器を運ぼうとしていたところを拘束された)。ルバンは、メドヴェチュークの補佐役である。そのため、ルバンがテロ行為準備に直接加わっていたことは、生活党や「ウクライナの選択」(編集注:メドヴェチュークの市民団体)にも質問が生じる可能性がある。つまり、ルバンは、メドヴェチュークとどのような繋がりがあるか、メドヴェチュークについてテロ準備の案件に関与していた人物として法的に述べることができるか、という質問である。ナジーヤ・サウチェンコ関連の出来事におけるロシア治安機関のコンサルタントとしてのメドヴェチュークの役割も、完全には判明していない(編集注:サウチェンコ元国会議員は、本年3月、テロと国家転覆の容疑で拘束された人物)。もし、メドヴェチュークの関与が判明すれば、それは国家反逆罪という話にもなりうる。
もちろん、メドヴェチュークは、公務員ではないし、彼を(そのような容疑で)断罪するのは簡単ではない。侵略国の特務機関との協力は、多大な努力を伴う裁判への証拠提出が必要であるが、これはメドヴェチュークをウクライナ政治の場から追い出し得るシナリオではないだろうか。
実際、メドヴェチュークの「排除」は、今やるべきである。なぜなら、第一に、ウクライナ正教会モスクワ聖庁が政治的に活発化していること。第二に、ウクライナにおいてその昔KGBが作ったネットワークが活発に活動し始めていること。このネットワークは、めったに活動しないが、メドヴェチュークの政治勢力の周辺のプロパガンダを拡散する人物を見ていると、メドヴェチュークの周りから離れず、彼の考えを伝えるだけのいわゆる政治の専門家のグループが見えてくる。
私たちの抱える状況は、反国家的活動と政治的闘争を分離するのが極めて難しい状況である。しかし、メドヴェチュークの活動は、政治的競争相手を装っているが、実際のところ、全て反国家的なものである。
ヴィクトル・ネボジェンコ(政治学者、社会学サービス「ウクライナ・バロメーター」総裁)
「メドヴェチュークの将来は、ドンバス回帰問題担当副首相であろう」
メドヴェチュークのウクライナ政治からの「排除」など、ありえないし、検討すらありえない。それは合意なのだ!プーチンの「欲していること」は、政権交代時にメドヴェチュークが第一副首相の座につき、ドンバス地方の再建・復興を担当することである。彼を大統領や首相の候補にはしなくていい。それはアメリカもクレムリンも支持しないであろう。皆は、メドヴェチュークに対して、「お前は3年間ウクライナ人をだましてきたのだから、そろそろミンスク諸合意を履行しに行きなさい」と言っている。その程度のささやかな役割であり、特別なものではない。そして、どうやらメドヴェチューク自身がその役割を気に入っているようである。
オレクサンドル・カルペンコ、キーウ