国連総会委、クリミア人権侵害決議案を採択
国連総会第3委員会(人権)は14日、ロシアの占領下にあるクリミアの人権問題に関する決議案「ウクライナ領クリミア自治共和国・セヴァストーポリにおける人権状況」を採択した。同決議案には、クリミア問題に関して「侵略」の定義が始めて使用されている。
賛成67、反対23、棄権82の賛成多数で採択された。日本も賛成した。ウクルインフォルムのニューヨーク特派員が伝えた。
同決議案の提出は、ウクライナであり、40か国近くが共同提案国となっている。反対した国は、アルメニア、ベラルーシ、ブルンジ、カンボジア、中国、コートジボアール、キューバ、北朝鮮、エリトリア、インド、イラン、カザフスタン、キルギス、ミャンマー、ニカラグア、フィリピン、セルビア、スーダン、シリア、ウガンダ、ベネズエラ、ジンバブエ。
被占領下のクリミア人権侵害決議は、2016から毎年採択されており、今回で4本目となる。今回の決議案は、これまでの3本の決議を踏襲する部分の他、複数の項目が新たに追加されている。
同決議案は、ウクライナ外務相のセルヒー・キスリツャ外務次官が提示した。
今回の決議案では、とりわけ、1974年12月14日付国連総会決議「侵略の定義」に従って、「侵略」の用語の使用が提案されている。この「侵略の定義に関する決議」は、ある国により他国の主権、領土一体性、政治的独立に対して武力が行使されることを侵略と定義しており、領土や利益が武力による獲得の対象となってはならないと再確認している。
また、今回のクリミア人権侵害決議案には、これまでの決議同様、「クリミアの武力による奪取は違法であり、国際法に反するもの」であり、「これら領土は速やかに返還されねばならない」と書かれている。
同決議案は、国連事務総長による次回の国連総会での同決議に基づいた報告を定めている。
また、これまで同様、ロシア政権が政治囚に対して、偽の自白証言を得るために行っている拷問や、クリミア住民への暴力行使事例への非難も含まれている。今回の決議案には、「ロシア連邦の政策・行為が恒常的な脅威を作り出し、クリミアでの居住を不可能にし、住民を半島外に退去させている」との新しい文言が加えられている。
更に、今回の決議案には、国際人道法により禁止されている、個人・集団の強制移住の事例や被占領地(クリミア)から占領国領(ロシア)あるいは他国への追放行為が喚起されている。本文には、「ロシア連邦は、クリミアの人口構成を変えることを目的とした政策・行為をとっている」と書かれている。
また、この人口構成変更の試みについて、「占領政権は、追放を行ったり、占領地に自国民を移住させることはできない」と再確認されている。
決議案では、テロリズムとの闘いを口実とした、市民イニシアティブ「クリミアの連帯」の活動家を含む、人権保護従事者の大規模な拘束やその他の弾圧行為が非難されている。「クリミアの連帯」は、クリミア半島における人権侵害事例を記録し、政治的動機で迫害されている犠牲者の親族の支援をしている。
また、2019年9月7日に、ロシアとウクライナが被拘束者を解放したことについては、肯定的な評価が記載されている。また、「ロシア連邦に対して、違法に拘束する全てのウクライナ国民を解放し、安全なウクライナへの帰還を保障するよう要請する」と書かれている。
同決議案にはまた、ロシアによるクリミア併合の試み、併合合法化の試みが非難されており、とりわけ、ロシア国籍の強制付与、違法な選挙実施、クリミアの人口構成の変更が非難されている。
ロシアに対する要求の中には、新たに、ソーシャルメディア等でクリミア占領に関してコメントや投稿をするような犯罪ではない行為・考えによるクリミア住民の逮捕・刑事追訴を控えること、そのような行為で既に逮捕・拘留されているクリミア住民を全て解放することが含まれている。
また、ロシアに対しては更に、欧州安保協力機構(OSCE)ウクライナ特別監視団(SMM)との協力が要求されている。その際、ロシアには、クリミア自治共和国・セヴァストーポリ市を含む、ウクライナ領全域へのSMMの安全かつ障害のないアクセスを保障することが求められている。
国連加盟国に対しては、クリミアの人権侵害事例を非難することを含め、クリミアの人権保護のためにウクライナと二国間・多国間で協議を続けるよう呼びかけられている。
なお、今回第3委員会で採択された決議案は、手続き上、今後12月、国連総会にて審議されることになる。
クリミア人権決議は、2016~18年にも採択されているが、ロシアはどれも履行していない。
写真:ヴォロディーミル・イリチェンコ駐国連ウクライナ大使