露発のマレーシア航空機撃墜事件の偽情報は5つに分類可能=EU対策チーム

ロシア発のマレーシア航空機MH17撃墜捜査・裁判を巡る偽情報キャンペーンは、主に5つのテーマに分類できる。

ロシア発プロパガンダ/偽情報発信メディアは、マレーシア航空機MH17撃墜捜査を行う国際共同捜査チーム(JIT)の活動の評判を落とすことを目的にしており、3月9日にオランダにて始まった本件公判の合法性に疑問を持たせようとしている。

EUvs偽情報が9日、特集記事を公開した。EUvs偽情報は、EU対外行動庁により偽情報の発見とEU市民の偽情報からの保護のために創設された専門家チーム。

発表には、「MH17案件に関しては、私たちの偽情報データベースに幅広く掲載されており、期間中、200以上(の偽情報)が登録されている」と書かれている。

EUvs偽情報の専門家たちは、記事にて、ロシアの偽情報をその内容から体系化し、5つのテーマに分類している。以下にEUvs偽情報が分類した5つのテーマとそれぞれに対する分析を掲載する。


テーマ1「その捜査はバイアスがかかっている!」

このテーマは、複数の言説から構成されている。

・「ロシアは捜査への参加が認められなかった!」

航空機事件捜査は確立された原則にて行なわれる。航空機事件の捜査は通常、事件が発生した国、航空機が出発した国、航空機製造国、航空機登録国が加わる。MH17の場合、これらに該当するのは、ウクライナ、オランダ、米国、マレーシアである。必要に応じて、捜査には、その他の関心を抱く国からの参加申し込みを受け入れることも可能である。

・「ロシアによって提出された証拠が無視された!」

ロシアが捜査の一環で提示したデータは全て、JITにより厳密に分析された。

・「JITは証拠をいじっている!」

公判は公開して行なわれ、証拠は分析のために全ての関係者によってアクセス可能となる。いかなる証拠の改ざんもすぐに見つけられることになろう。

・「JITは、アマチュアがソーシャルメディアから集めたデータをもとに結論を組み立てている!」

JITは、独自にデータを収集し、分析してきた。べリングキャットの調査チームが行なったのは、JITが収集したデータの補強である。

・「捜査は『ロシア嫌悪』にもとづいており、しっかりした証拠の上にもとづいていない!」

公判のポイントは、捜査官が集めた証拠を公の場で評価することである。証拠の一貫性は、裁判にて精査される。

テーマ2「ウクライナに罪がある!」

・「ウクライナが対空ミサイルでMH17を撃墜したのだ!」

JITは、2014年7月17日、MH17が、ペルヴォマイスキー近くの農地の地対空ミサイルシステム「ブークTELAR」から発射された9M38シリーズ・ミサイルにより撃墜されたと結論づけた。その際、そのエリアは親露武装集団により支配されていた。「ブーク」は、ロシア連邦領から持ち込まれ、MH17を撃墜した後に、ロシア連邦に戻された。

・「ウクライナの戦闘機がMH17を撃墜したのだ!」

その地域にはウクライナの戦闘機は飛んでいなかった。

・「ウクライナは上空を閉鎖していなかった!」

ウクライナの上空が撃墜前に閉鎖されていなかったとの主張は、誤っている。紛争地域上空は、全ての航空交通に対し、高度3万2000フィート未満を飛行することが禁止されていた。MH17は、高度3万3000フィートの空間を飛行していた。その際、装備が脆弱だと思われていた親露分離主義者が、その高度の航空機を撃墜できる能力を持つ洗練された兵器を入手すると想定する根拠はなかった。

テーマ3「西側諸国に罪がある!」

・「MH17は、英国とウクライナの偽旗作戦だ!」

根拠のない陰謀論である。

・「MH17の乗客は、自己の数日前から既に死んでいたのだ!」

それは、BBCのシャーロック・シリーズの犯罪ドラマ「ベルグラヴィアのスキャンダル」から拝借したストーリー展開である。

テーマ4「ロシアは倫理的にそのような残虐行為をし得ない!」

ロシアが裁判にかけられているのではない。JITが起訴したのは、3名のロシア国籍者と1名のウクライナ国籍者である。残念ながら、ロシア政権は、捜査に完全には協力しなかった。

テーマ5「誰も真実を判明させられやしない!」

JITの予備報告書により、堅牢な証拠が示されており、298名の人々の殺害に責任のある4名の個人の関与を示している。公判にて、その証拠が確かめられることになり、4名の個人は弁護権を有している。


EUチームは、これらはJITの活動や集められた証拠の信頼を落とす試みであると指摘しつつ、このような目的を持った偽情報は、ロシア政権がいわゆる「ハイブリッド戦争」をどのように行なうかの理解を示すものだとコメントしている。

とりわけ、この点を説明するために、EUチームは記事の中で、ロシア戦略分析研究所による、外政上の目的達成のための情報利用に関する発表物を引用している。とりわけ記事では、ロシアの軍事理論家アレクサンドル・バルトシ氏の発言が以下のように紹介されている。

「マスメディアやソーシャルネットワークにおける偽情報とプロパガンダは、いわゆるハイブリッド戦争の主要な特徴である」「予防的かつ先鋭な、国家の利益に合致するナラティブは、情報分野において外国軍のインパクトを決定的に弱めることができる。なぜなら、彼らは通常、情報空間の残った自由な空間を埋めようと努力するからだ」

EUチームは、MH17公判が近づくにつれて、この「予防的に先鋭なナラティブ」という手段が「高度に可視化」されていると指摘している。

ドミトロー・シュクルコ、ブリュッセル