バイデン氏のウクライナ関連発言集
米大統領選挙にて当選を確実にしたバイデン氏は、ウクライナへの殺傷性武器の供与を約束している。同時に、彼はウクライナの汚職との闘いに懸念を抱いている。
アメリカ国民は、当然のことながら、何よりも自分たちのために大統領を選出するのだが、同時に私たちウクライナ国民も、米国大統領が私たちの国にとってどのような計画を抱いているのかについて、全く無関心ではいることはできない。攻撃力を持つ帝国的振る舞いをするロシアと戦う上で、同盟国である米国に私たちはどれほど期待できるのであろうか。
おそらく今の職を離れることになるであろうドナルド・トランプ氏は、結局その質問に対して明確な答えを出すことはなかった。彼は、一方で、私たちにジャベリン(対戦車ミサイル)を供与し、新独露ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」に対する断固として反対した。しかし、他方では、プーチン露大統領とたわむれ、ウクライナの苦しみと問題に大きな関心を抱くこともなかった。
では、バイデン氏はどうだろうか。私たちがその答えを得られるのは、彼が選挙にて最終的な勝利を得て、新しいポストにてウクライナへのシンパシーを示す行動を取った時であろう。現時点で私たちができることは、バイデン氏が米国副大統領であった時と大統領選挙期間中に、どのような文脈でウクライナについてどのような発言をしていたか、どのような約束をしたか、どのようなウクライナを望んでいたかを思い出すことである。
1.バイデン政権は、ウクライナへの殺傷性武器の供与を保証している
バイデン氏は、大統領選挙に勝利した場合に、ウクライナへ殺傷性武器を供与するために仕事をすると約束している。バイデン氏は、自身の選挙運動用サイトにて掲載した、ウクライナの第29回独立記念日の際の祝賀メッセージの際にてそのように述べていた。
バイデン氏は、メッセージにて「私は、大統領として、クレムリンに対して、自らの対ウクライナ侵略とウクライナ占領を終わらせねばならないことを明確にする。バイデン=ハリス政権は、ウクライナが必要な経済サポートと、殺傷性ある兵器を含む軍事サポートを得られるようにするとともに、同時にウクライナに対して、自らの成功のために決定的に必要な重要改革を進めるよう促していく」と発言した。
なお、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ大統領政権時、米国政権はウクライナに致死性武器を供与しなかった。ウクライナが対戦車ミサイル「ジャベリン」などの殺傷性ある防衛用兵器を米国から供与されたのは、トランプ政権になってからのことである。
2.ウクライナへの軍事支援の提供は、汚職対策改革の実行が条件
外交問題評議会(CFR)が民主党候補者を対象に実施した、主な外交問題に関する立場を問う質問にて、ジョー・バイデン氏は以下のように答えている。
バイデン氏は、「私は、ウクライナを外政の優先課題とするであろう。軍事分野では、私は、ウクライナの防衛能力を強化するために、武器を含め、米国からの安全保障支援を提供する。私はまた、オバマ・バイデン政権時代に始めたウクライナ軍の効果的な訓練を拡大する」と述べていた。
バイデン氏は、経済分野では、ウクライナへの西側の直接投資とウクライナのロシアからのエネルギー面での独立を拡大させるために仕事をすると発言した。特に、同氏は「ノルド・ストリーム2」が2020年内に完成する場合、それはウクライナのロシア産ガスへのアクセスを著しく難しくするだろうと指摘している。
同時にバイデン氏は、ウクライナへの米国の支援は、独立した汚職対策検察・裁判官の任命を含む、汚職対策改革が実現されることを条件に供与されるべきだとも述べている。
更にバイデン氏は、ロシアとの協議においては、フランスとドイツに並んで、米国がこれまでよりもはるかに大きな役割を担うという案を支持すると発言した。
バイデン氏は、「外交が機能するように、私たちはモスクワに対するより大きなテコを必要としている。それはつまり、ウクライナにて続ける戦争へのより大きな代償をロシアに払わせるために、欧州のパートナー国、同盟国とより緊密な協力をしていくということだ。私たちの戦略的な目的は、民主的で、一体となり、主権あるウクライナの進化を支持し、国際秩序を恒常的に攻撃しているクレムリンに代償を払わせることである」と発言している。
3.ロシアは米国の主要な敵
バイデン氏は、ロシアを米国の主要な敵と呼んでいる。
バイデン氏は、ロシアは米国の国家安全保障に脅威をもたらしており、米国と他国との関係を破壊しようとしているとの確信を述べている。
同氏は米国の報道機関へのインタビュー時に、「私は、私たちの安全保障と同盟の破壊計画の観点から、米国にとって最大の脅威はロシアだと思っている」と発言している。
加えて同氏は、プーチン露大統領が「あらゆる手を使って」バイデン氏に関する偽情報を拡散しようとしていると指摘した。同時に同氏は、中国については「真剣な競争相手」という表現をしている。
4.対露制裁はロシアがクリミアを返還するまで続けなければならない
2017年1月16日、バイデン氏はウクライナ訪問時に、こう述べている。
「ロシアがミンスク諸合意における自らの義務を完全に、ここは強調するが、完全に履行するまで、制裁は続かなければならないことを、そして、クリミア関連の対露制裁は、ロシアがクリミアをウクライナに返すまで続かなければならないということを、私たちは欧州連合(EU)とG7のパートナー国とともに(ロシアに)理解させている」
5.ウクライナは縁故主義と泥棒政治を復活させたがっている人々を排除せねばならない
バイデン氏は、ウクライナに対して、汚職との闘いを継続し、汚職対策機関の活動を強化するよう呼びかけていた。
同氏は、「あなた方がこれから汚職対策機関を強化させること、そして、縁故主義と泥棒政治を復活させたがっている人々を排除することが、非常に重要だ」と述べている。
バイデン当時米副大統領は、ウクライナの汚職は現在まで「ウクライナの民主主義を内側から食い荒らし続けるがんである」と形容しつつ、同時に、尊厳革命(マイダン革命)後に創設された捜査機関である国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察(SAP)が状況に影響を及ぼせる可能性があると指摘していた。
6.ウクライナは改革実行のためにIMFとの協力を続けなければならない
バイデン氏は、米副大統領時代にウクライナに対して、国際通貨基金(IMF)との協力を続け、銀行システムを浄化し、またロシア産天然ガスからの独立を達成するためにエネルギー分野の改革を行うよう呼びかけていた。
バイデン氏は、「ウクライナが自らのダイナミックで現代的な経済の潜在力を開花させるためには、まだまだ多くの仕事をしなければならない。ウクライナ経済の強靭性を確保する断固とした改革を実行するためにIMFと協力を続けなければいけない。そして、銀行システムを浄化し、ウクライナのロシア産ガスへの依存を解くべく、エネルギー分野の改革を実行しなければいけない」と述べていた。
同氏はまた、ウクライナに対して、国営企業の透明な民営化を行い、投資にとって魅力的なビジネス環境を作り出すよう呼びかけていた。
バイデン氏は、「それは簡単ではない。これまで行われたことも、簡単ではなかった。あなた方は、改革継続のために、まだまだ多くのことをしなければならない」と強調している。
7.ウクライナのためにNATO・EU加盟の扉を開いておくことが重要
バイデン氏は、2017年1月18日、ダボスでの演説にて、米国はウクライナの側に立っていると述べつつ、ウクライナのEU加盟の扉を閉めないように呼びかけていた。
同氏は、「私たちは、ウクライナが欧州の道を然るべくして進み続ける限り、ロシアの侵略に抵抗しているウクライナの側にあり続けるべきである」と述べている。
同氏はまた、EUと北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟の「扉」を開いたままにしておくことが重要だと述べている。同氏は、「国民がEUの巨大なプロジェクトの一部になることを望み続けている、ウクライナやバルカンのような欧州の国々にとっては、それ(編集注:EU・NATO加盟可能性)は彼らに自国に長くはびこったネオリベラリズムを拒絶させ、彼らを汚職と闘わせ、21世紀に進ませるための手段なのだ」と説明している。
8.ウクライナの人々よ、あなた方は勇敢である
2014年11月21日、バイデン氏は、キーウを訪れた際のウクライナ国民に対する呼びかけで、こう述べている。
「ウクライナの人々よ。あなた方は、信じられない人々だ。あなた方は勇敢である。あなた方は再びそのことを全世界に示したのだ。あなた方の勇敢さと犠牲心のおかげで、ウクライナ人は勝利したのである。あなた方は、自らの国を根本的に良い方向へと変えるチャンスを勝ち取った。はるかに良い未来を勝ち得たのだ。」
9.米国は、強固で団結したウクライナを支持している
2014年4月22日、バイデン氏は、ウクライナの首相との会談の後、次のように述べている。
「いかなる国であれ、他国の領土を奪う権利など持っていない。そのため、私たちはロシアによるクリミアの不法占領を受け入れない。世界がそれを受け入れることはない。ウクライナは、今もこれからも一つの国である。米国は、強固で団結したウクライナを支持している。」
10.ウクライナには強力な民主的コントロールシステムが必要
2015年12月、バイデン氏はウクライナ最高会議(国会)にて演説を行なっている。
「ウクライナは、自らの未来を選択できるだけの十分な力を持っている。ウクライナは、強力な民主的コントロールシステムを抱きつつ、防衛の面でも、経済の面でも強力でなければならない。米国は、その闘いにおいてあなた方とともにある。」
11.私はキーウにおける汚職との闘いの後退を心底懸念している
2018年、バイデン氏は、キーウで過去に行なった協議を回想した発言を行なっている。
その際同氏は、「私は、キーウにおける汚職との闘いの後退を心底懸念している」と述べている。
バイデン氏は、短期間で重要な変革を導入できる例として、ヴィクトル・ショーキン当時検事総長の解任の出来事を挙げている。
バイデン氏は、「私は、キーウを12、13回訪問してきていたし、10億米ドルの信用保証を提案していることを発表しなければならなかった。私は、ポロシェンコ氏(当時大統領)とヤツェニューク氏(当時首相)から、検事総長に関して行動するという約束を得ていたが、彼らはその約束を実行していなかった」と回想した。
続けて同氏は、「私は、記者会見で『私たちはあなた方に10億ドルを渡さない』と言った。すると彼らは『あなたにそのような権限はない。あなたは米大統領ではない。大統領は与えると言っていた』と言うのだ。私は『彼(編集注:オバマ当時米大統領)に電話してみたまえ。あなた方は10億ドルを得られない』と答えた。更に私は『私は6時間後に出発するが、あなた方の検事総長がそれまでに解任されないのであれば、あなた方はお金を受け取ることはできない』と述べた。それで、その愚か者(編集注:ショーキン元検事総長)は解任されたのだ。同職には、当時信頼されていた人物が据えられた」と発言した。
バイデン氏は、その頃、ウクライナ政権はいくつかの非常に重要かつ不可欠な機構改革と人事変更を行なったと発言しつつ、「しかし、3つの重要な機構改革の内の1つが、現在後ろに追いやられつつある。反汚職裁判所(編集注:の設置)だ。しかし、彼らは、そのようなことはしないと約束している」と発言した(編集注:政権高官の汚職犯罪に特化して裁判を行う反汚職裁判所は、2019年9月に活動を開始している)。
12.もしかしたら、いつかあなた方は優しい静かな言葉で私を思い出すかもしれない
2015年12月8日、バイデン氏はウクライナ最高会議にて演説を行なっている。
バイデン氏は、その際、ウクライナにはロシアの侵略と汚職という二つの主要な問題があると述べている。
同氏は、最高会議議員に対して、あなた方はウクライナの未来への責任を負っていると説いた。
同氏は、「あなた方一人一人が、歴史上の挑戦への責任を負わねばならず、挑戦に耐えることのできる、団結した民主的なウクライナ国家を築かなければならない」と強調した。
バイデン氏は、ロシアからの侵略について、「ロシアの目的はウクライナを破壊することだ」と指摘し、米国はロシアによるクリミア併合の試みを決して認めないと強調した。
同氏は、「21世紀において私たちは、力でもって国境を変更することを認めることはできないのだ。それは、基本的なルールである。もし私たちがそれを抑えられなければ、私たちは全てを破壊してしまうことになる。ロシアは、その基本的なルールに違反したのであり、今もまだ違反し続けているのだ。現在ロシアは、ウクライナの主権領土を占領している。私ははっきりと言いたい。米国は、ロシアによるクリミア併合の試みを認めていないし、今後も決して認めることはない!」と発言した。
同時にバイデン氏は、汚職との闘いと改革も外国の侵略への抵抗に劣らず重要であると強調した。
同氏は、「あなた方には、もう一つの闘いがある。歴史的な、汚職との闘いだ。ウクライナは、人々が希望を失うようなことを許してはならない。国家汚職防止庁を作るだけでは不十分だ。検事総局のシステムの改革も必要だ。その闘いを進めるため、罪人を罰するために、あなた方には裁判改革の実行も必要だ。そこにこそ民主主義の原則があるのだ」と強調した。
バイデン氏は、その演説の終わりに、自身の発言をウクライナの政治家に対する「指示」だと受け止めて欲しくないと述べている。同氏は、その際、ウクライナの国民的詩人タラス・シェウチェンコの詩『遺書』を引用した後、その一節を言い換えて、こう述べている。
「もしかしたら、いつかあなた方は、優しい静かな言葉で私のことも思い出してくれるかもしれない。」
マルヤナ・ラブチェニューク/キーウ