「米国などの国はウクライナに対して、長射程ミサイル『エイタクムス』、クラスター弾、戦闘機F16、攻撃機A10といった現代的装備のウクライナへの供与を遅らせるべきでない…」「カホウカ水力発電所での出来事の後、その他の潜在的な大規模脅威がある中で、ウクライナができるだけ早く勝利し、ロシアからさらなる損害を加える時間と機会を奪えるようにすべく、同国には全ての必要なものを提供するべきだ…」米国の北大西洋条約機構(NATO)常駐代表(2008〜2009)であり、元米ウクライナ問題特別代表のカート・ヴォルカー氏がワシントンで開かれた米国・ウクライナ作業部会会合の際に、ウクルインフォルムへのインタビューの際に、そのような見方を伝えた。
聞き手:ヤロスラウ・ドウホポル(ワシントン)
写真:ニーナ・リャショノク
ウクライナの反転攻勢
ウクライナ軍は現在攻勢を行っており、被占領地を解放しています。あなたはウクライナの反転攻勢の流れと展望をどのように評価していますか。
私は、全てのことが非常に慎重に、そして現段階では十分良好に行われていると思っています。彼ら(編集注:ウクライナ軍)は、戦力を最大限節約しています。彼らはどちらかといえば様々な方面での攻撃に対するロシア人の反応を調べており、何より、自らの行動をロシア人の反応に応じて適合している、とでも言いましょうか。ウクライナの部隊は、迅速に前進して、今よりはるかに多くの領土を解放するために、彼らがどこの優位を得られるかを明らかにしようとしているのです。現在ウクライナ軍は確かに一定の印象的な成功をあげました。しかし、私は、それは彼らの主要な目的ではないと思っています。彼らは、攻勢時にいくつかの自治体を解放することができましたし、それは良いことです。私は、現段階では彼らは当初期待していたよりも多くのものを得たと思っています。同時に、私の考えでは、主力の投入はまだまだはるかに先のことだと思います。彼らは現在、攻撃が最も生産的となる場所を評価しようとしているところです。
あなたは、ウクライナは反転攻勢作戦を成功裡に遂行するために、米国やその他の国から十分な支援を得たと思っていますか。
彼らは成功裡に反転攻勢を行う可能性を得るために十分得ました。それは火砲、高性能弾薬、装甲車、特に戦闘車、戦車などです。防空も極めて重要です。しかし、それは、私たちが全てのことを行ったことは意味しません。私たちは、より多くの努力を費やすことができたはず。そして、私たちは、現段階でより多くのことはしなければなりませんでした。
残念なのは、私たちが、ロシアを挑発させたくない、核のエスカレーションやら何やらを引き起こしたくない、という気持ちから、ウクライナに対して(一定の装備品の)提供を控えたことです。私は、それが、私たちが行ってきたことが、行うことができたこと、行うべきだったことよりも少なかったことの理由だと思っています。
長射程ミサイル「エイタクムス」供与の展望
少なかった、というのはウクライナへの「エイタクムス」供与のことですか。
そう、「エイタクムス」やクラスター弾のことです。もっと前に航空機も供与すべきだった。そして、私は、今私たちがF16で行っていることに加えて、(攻撃機)A10を供与するのも役に立つと今でも思っています。F16に関しても最も迅速にできたはずです。つまり、供与すべきだったものはたくさんあるのに、それが今でも行われていないということです。
オクサーナ・マルカロヴァ駐米ウクライナ大使は、最近のインタビューにて、米国政権のミサイル「エイタクムス」のウクライナ供与に関するレトリックは、以前の「とにかく忘れなさい」から変わっており、今ではその問題はもう協議されていると述べていました。あなたはその点についてどう思いますか。どうして米国政権は本件を長らく動かずにいたのか。今になって何が変わったのか。
本件もまた、米政権がロシアを挑発しないようにしているからです。彼らは、ロシアが核兵器を使用するのを恐れている。彼らは、他方面でのエスカレーションの可能性を懸念している。そのため、彼らは非常に、非常に慎重なのです。そのため、結果、彼らは、可能なことを行わなかったのです。私は、彼女(マルカロヴァ大使)の言っていることが正しいことを期待していますし、米国が今それを検討していることを期待しています。しかし、私は、今のところ何も聞いていません。
新しいウクライナ支援
先月あなたは、米国政権が600億ドルの対ウクライナ大規模支援を検討していると言っていましたが…。
いいえ、それは正しくないです。そうではなかったし、それについては誤って報じられていました。その時私は、状況がどう展開するかについて意見を聞かれたのであり、私は、どうなるかという意見を述べたのです。私は、その議論の有無については認めません。
わかりました。米議会には、左翼と右翼に反対する意見がある中で、ウクライナの新しい支援パッケージを採択するだけの両党からの十分な支持がありますか。
間違いなくあります。支持が十分あるということには疑いはありません。下院で数十票のみ、上院で2、3票がウクライナ支援に反対しているだけです。残りの人たちの間には、完全な支持があります。そのため、私は、支援が不足するというリスクは目にしていません。
債務上限や歳出削減を巡る議会での困難な協議があってもですか。
債務上限の協議の際に、ウクライナ支援継続の必要に関する問題は一度も提起されていません。基本的に(対ウクライナ)支援は定まっていますし、実際のところ誰もその問題をたくさん議論したがっている人はいないのです。なぜなら、彼らは、時が満ちる秋に本件に戻りたいと思っているからです。彼らは今の段階では(編集注:対ウクライナ支援継続の)議論を先鋭化したがってはいません。
カホウカ水力発電所爆破とその他の潜在的脅威
あなたは、米国政権はどうしてカホウカ水力発電所を誰が爆破したのかについて、認定を急がないのだと思いますか。おそらくウクライナはロシアが行ったことを直接示す説得力ある情報を提供していると思うのですが。
彼ら(編集注:米政権)は、誰が何をいつ爆破したのかについての事実を集めています。しかし、その際、私は、より戦略的なことを見失っているとも思っています。すなわち、ロシア軍がウクライナに侵攻したという事実がなければ、そのようなことは起こらなかった、ということです。
彼らが1年間ダムをコントロールしていたのであり、彼らがそこに爆発物を仕掛けていたのです。よって、何が起きているのかは完全にはっきりしていたはずです。そして、改めて思うのですが、米国は、どのように行動するかについて極めて慎重なのです。そういう段階に私たちはいるのです。
今日のワシントンでの会議の際、あなたは他の専門家達とロシアによる核兵器使用の可能性について話し合っていました。そこで、プーチンがその行為に踏み切る可能性はどれほどありますか。そして、その場合の西側の対応はどうあるべきですか。
何よりも、私は、それが起こる可能性は非常に小さいと思っています。私がそう思う主な理由は、それがロシアに軍事面で何ももたらさないからであり、一切の目的の達成の役に全く立たないからです。それは領土の制圧にも、領土の維持にも、戦争の勝利にも役立ちません。だから、私は、ロシア軍人がそれ(編集注:核兵器使用の決定)を支持しないと考えています。
さらには、核兵器使用がロシア軍にもたらす直接的被害についての明確な警告が伝えられています。そのため、私は、ロシアの軍人がそれを回避したがっていると思っています。加えて、決定はプーチン1人で採択されるのではなく、一連の鎖の一部となっている人数人で採択されます。そのため、私の考えでは、その可能性は非常に小さいです。
たとえそれが起きたとしても、私は、それは戦略核兵器ではなく、戦術核兵器となるだろうと予想していますし、私は、そうであっても、戦場の展開に大きな変化はもたらさないと思っています。
ザポリッジャ原子力発電所の潜在的危険についてはどう考えていますか。
思うに、そちらの方が蓋然性は高いでしょう。ロシア人は同原発に爆発物を設置しており、彼らはそこに弾薬を保管しています。私は、彼らはダムの時の状況と同様に、準備ができていると思います。もし彼らが避難しなければならなくなったら、彼らは退却時に原発を爆破し、原発をウクライナ人によって使えないようにするおそれがあります。
西側はその状況で何をすべきでしょうか。
言うなれば、急ぐことです。ウクライナへの武器供給を急ぎ、ウクライナ人の決定的勝利の達成を支援することです。ロシアからさらなる損害を生み出すための時間と機会を奪うために。
ウクライナのNATO加盟展望
来月ビルニュスにてNATO首脳会議が開催されます。あなたは、ウクライナのNATO加盟がロシアのさらなる潜在的侵略に対しての、最善の安全保証だという見方に同意しますか。
完全に同意します。私は、現在、ロシアがウクライナを再侵攻する意図を維持し、あらゆる機会でそれを実行するという見解以外の結論には達し得ないと思っています。よって、それを起こさないための最善の決定は、ウクライナのNATO加盟です。私は、それがビルニュスで実現するとは思いませんが、しかし、ビルニュス首脳会議がウクライナを明確な道筋に据えることになると思っています。
ウクライナは、単なる「NATOに加盟できる」という約束以上の、より断固とした立場をNATOから期待しても良いのでしょうか。
私は、今まさに本件についての深い議論が行われているところだと思っています。私たちの欧州の同盟国の多くが、ウクライナのNATO加盟についての自らの考えを提示しており、ビルニュスにて本件についてより多くのことを表明するつもりです。
私は、それはオスロでのNATO外務省会議の際にブリンケン米国務長官に提示されており、彼がそのメッセージをワシントンに持ち帰り、そこで現在、私たちが行えることについての検討が行われているのだと思っています。