オランダのマレーシア機MH17事件裁判は、新型コロナウイルスの世界的感染が続く中も止まっていない。公判の傍聴はオンラインのみとなっており、次期公判は6月となるが、世界の比類ない関心と捜査官の徹底した仕事は、客観的判決と正義による勝利への希望を与えている。MH17事件をめぐるオランダの雰囲気、判決の予想について、2014年7月のマレーシア機撃墜事件の被害者遺族により設立された「MH17航空惨事基金」(MH17 Aviation Disaster Foundation)の代表、ピット・ブルーグ氏(Piet Ploeg)と話をした。
プルーグさん、コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)や付随する多くの問題により極めて困難な状況ですが、今もオランダ社会はMH17案件への関心を失っていませんか?
Covid-19のパンデミックがオランダにとっての最も喫緊のテーマとなっているのは確かです。それは、その悲劇が一人一人に関係することだからです。しかし、MH17案件の裁判プロセスへの関心は高いままで、今でも通りを歩いていると、裁判をめぐる状況への質問を受けます。その悲劇は、オランダ人の集合的記憶に刻み込まれています。どんなオランダ人でも、MH17機撃墜時に何をしていたか尋ねられたら、必ず全てのことを思い出すでしょう。
MH17案件は、オランダのマスメディアで詳しく報じられますか?
ええ。ただし、基本的には目立った出来事があるときです。特に、公判が始まった時は、ほとんど全てのマスメディアが本件に注意をむけました。遺族と話したり、ルポをしたり、事件を再現したり、このテーマでトーク番組をしたりと。
ロシアのプロパガンダが市民の考えに影響を及ぼそうとしているのを感じることがありますか? もしそうであるなら、それと対抗するには何をすべきでしょうか。
何よりまず、ソーシャルメディア上で感じますね。それから、ロシア発メディアや、ロシア政府、オランダや各国のロシア大使館による、「ニュース」の中でも。また、ツイッターのロシア語での大量のツイートでも目立ちます。そこでは、国際共同捜査チーム(JIT)の捜査に疑問を投げかけたり、MH17事件についてウクライナを断罪したりといったものが見られます。私たちは、マレーシア首相の発言にも注意しています。彼は、JITの捜査を偏っていて、政治的だと述べていました。
社会の注意をそらそうとしたり、社会の見方を分断しようとしたりという様々な試みが見られますが、遺族やオランダ国民の大半は、JITの捜査を強く信頼しています。2019年春の世論調査では、95%の遺族が、JITがよく作業をしていると答えています。私の観察から言えば、プロパガンダや偽情報はうまくいっていないと思います。しかし、ロシア系住民へのプロパガンダの影響力がどの程度かは、想像し難いです。
私の考えでは、これらの試みに対抗するのは困難です。しかしながら、私たちの「MH17航空惨事基金」は、遺族に対して偽情報に関する警告を出しています。時にはツイッターを読まないのも良いでしょう。
では、オランダ社会は、この悲劇において誰が主な罪人だと考えていますか?
最初は、分離主義者だと思われていました。しかし、今はこの惨劇の基本的罪人としての国はロシアだという考えにシフトしています。
オランダ社会には、オランダの司法に対して信頼がありますか?
あります。圧倒的多数の人がオランダの司法の公正さ、裁判システムの独立に対する確信を有しています。それについては過去数年行われてきた複数の分析があります。オランダの司法は、社会の信頼度の国際ランキングで上位を占めています。
あなた自身はどう考えますか? オランダ政権は、この事件を徹底して解決しようとしていると思いますか? どのような結果をあなたは期待していますか?
二つの機関、検察と裁判所を区別せねばなりません。検察は、もちろん、徹底して、本件を最後まで証明することに尽力していました。全ての努力と手段は、その目的を達成することに向けられていました。私は個人的に、検察が徹底的に捜査をし、容疑者の起訴に向けできることを全て行なっていると確信しています。
裁判機構は、別の機能を持ちます。裁判は、検察側とプラートフ容疑者の弁護士の主張が提示する証拠に関して決定を下します。裁判所は、それを独立し、政治的な繋がりとは無関係に決定を下します。私は、裁判所にとって最も重要なのは、裁判所が捜査、起訴の内容をもとに、よく調べられた決定を採択することだと思います。裁判所が公正の原則を維持し、決定に関してあらかじめ発言しないことが重要です。
私個人は、どのような決定になるか、今のところわかりません。言うまでもなく、検察は、圧倒的な証拠を提示するでしょうが、しかし最終的総括にて、それらに評価を下すのは、裁判所の特権です。私は、もちろん、起訴が真の罪人の刑事責任を追求すること、そして、最終的には罰せられることを期待しています。しかし、待たなければなりません。
今のところ、起訴されているのは個人だけです。あなたは、今後国家としてのロシアに対する容疑が示されると思いますか?
いくらか前に、オランダとオーストラリアの政府が、ロシア連邦に対して、同国のMH17事件における役割につき、公式な断罪を発表しました。それはつまり、国家としての責任です。外交的協議が、オランダ、オーストラリア、ロシア連邦の間で続いています。そして、これらの協議もまた、将来あり得る裁判の前提条件となるものです。裁判があり得るのは、おそらく、協議にて合意に至らなかった場合でしょう。また、仮に将来、国際刑事裁判所にてロシア連邦に対する手続きが開始されたとしても、私は驚かないでしょう。
約400名の遺族も欧州人権裁判所にて、ロシアを相手に訴訟を起こしています。オランダ政府もまた、手続きに介入する権利行使を決めました。実質的に、オランダ政権は、遺族の訴訟をサポートしています。つまり、ロシア連邦に対しては、複数の訴訟が既に起こされているのです。
オランダ社会やあなた個人は、ウクライナやウクライナ政権につき、同国が本件を最後まで証明しようとしていると信じていますか?
JITの報告を信じるなら、私は、ウクライナはMH17案件に関する自らの合意を守っていくのだろうとの結論を出さなければなりません。協力合意が更新されたことは、そのことを示す最新の出来事です。
しかしながら、ウクライナ政権が証人であり、容疑者であるツェーマフ氏に関して下した決定(編集注:ウクライナ政権は、2019年9月、ロシアとの被拘束者交換の際にツェーマフ容疑者をロシア側に引き渡している)、そして、本件捜査に関する検察を繰り返し交代してきたことは、いくらか相反する印象を抱かせます。MH17案件がウクライナにとって非常に重要であるにもかかわらず、国内利益の存在も見られます…。
ロシアのあり得る捜査を先延ばしさせようとする試みに対して、オランダ社会とウクライナは何をすべきだと思いますか?
実際のところ、オランダ社会は、本件について何もできません。唯一あるとすれば、それは、一貫してJITと裁判所を信じることです。私たちは、これまでロシアが積極的にこのプロセスに反対してきたこと、これからも反対していくことを知っています。そして、それが意味することは、プロセスは更に時間がかかるということです。しかし、オランダには、「正直さは、他の何よりも長生きする」ということわざがあります。それはつまり、どんな時も嘘はいずれ暴かれる、真実は常に真実である、ということです。私たちには、確信と忍耐があるのです。
ドミトロー・ジテューク=スニツアレンコ、Defense Express (ウクルインフォルムに寄稿)
写真:イリーナ・ドラボーク