先日、外務省傘下の外交アカデミー学長であるセルヒー・コルスンシキー学長が、新駐日ウクライナ大使に任命された。コルスンシキー氏は、ずっと日本に関心を抱いていたと言うが、大使となって訪日するとは思っていなかったと述べる。
他方で、コルスンシキー氏は、駐トルコ・ウクライナ大使(2008〜2016)を務めていた頃、田中信明当時駐トルコ日本大使と親しかったと述べ、その頃から自身の今後の運命の片鱗を感じていたとも述べる。
今回私たちは、コルスンシキー新大使に、本年秋からの駐日ウクライナ大使としてのミッションや優先課題について尋ねた他、ウクライナ外務省が最近強調する対アジア戦略や、ウクライナ・日本間の軍事技術協力の可能性、日露関係への見解、北方領土に関するウクライナの立場などについても質問した。
ウクライナは現在、アジアのどこに経済的優先課題があり、どこに明確な政治的結び付きがあるのかを見定めている
セルヒー・コルスンシキーさん、昨年12月に新駐中国ウクライナ大使が任命される前までは、専門家界隈は、あなたを駐中ウクライナ大使候補だとみなしていました。実際には、今年の4月の大統領令で、あなたは駐日大使に任命されています。当時の専門家の予想には根拠があったのでしょうか?
ありました。その(駐中大使への)任命は、一つの可能性として検討されていたものです。私は、中国にも日本にも強い関心を抱いていました。私は、トルコから帰ってきてから、あえてこの二つの国を訪問しています。まず2016年12月に日本へ行き、それから約1年後に中国へも行きました。私にとって、このアジアの二つの経済大国の内側からの景色を知ることは、非常に興味深いものでした。
私は、この地域を特に深く研究してきました。というのも、トルコでの勤務が終わった時、アジアに対して最大限の注意を向ける必要があることを理解したからです。
最終決定は(駐中大使ではなく)別の任命(駐日大使)になりました。中国へは、別の経験豊富な人物が赴任し、すでに勤務しています。私は、自分の日本大使への任命を大変嬉しく思っています。
あなたは、中国問題へ多くの注意を向けていますね。中国のテーマは、あなたにとってなぜそれほど重要なのでしょうか?
それには客観的な理由があります。過去40年間、鄧小平の時代から、中国はとんでもない経済発展を実現しました。8億人が貧困から抜け出し、GDPは30倍に膨れ上がったのです。それは理論的には不可能ですが、しかし実際に実現されたのです。それが一つ目。
二つ目の理由は、中国が経済プロジェクト「一帯一路」を通じて世界的な拡大政策を展開していることです。ウクライナは、そのプロジェクトのほぼ外に置かれる状態となってしまっていますし、私たちは、中国と欧州諸国との協力枠組み「17+1」にも入れていません。ウクライナには、実質的に中国の投資がないのです。ウクライナへの投資額は笑える程度の少なさです。ベラルーシへの中国の投資が60億であるのと比べれば、ウクライナは1億7600万。これは真剣な規模ではないでしょう!
なお、私は、2年前に米国・中国・ロシアの3国による地政学的トライアングルについて書きました。しかし、現在私たちが目撃しているのは、米国と中国の2国対立であり、実質的に冷戦に匹敵するものとなっています。三極が、二極となったのです。
この二つの「極」は、今後その他の国を自らの側へと呼び寄せるでしょう。
つまり世界は、中国側に集まって中国にコントロールされる国と、米国側に集まる国とに分かれるでしょう。世界は、「米国+」と「中国+」に分かれるのです。ただし、物理的な国境の周りに同盟を作ったソ連と違い、中国は自国国境の周りに同盟を組む相手がいません。その点で状況が異なります。
「米国+」と「中国+」に分かれる世界において、ウクライナが米国を志向する側になることは明白です。私には、それ以外の選択肢は考えられません。なぜなら、そのことが私たちに安全を供給するからです。現在、ウクライナにとって重要な問題は安全保障です。なぜなら、もし私たちが安全を失ったら、経済も失ってしまうからです。他の出口はありません。私たちは民主的世界とともにあり、G7とともにあるのです。
あなたが今おっしゃっているのは、世界の地政学的傾向についてですが、それは地域政治にも影響を与えています。ドミトロー・クレーバ外相は、これまで繰り返し、自身の優先課題の一つはアジア外交だと強調してきました。ウクライナが日本を含めたアジア市場に貿易面での大きな潜在力を持っているのは確かでしょう。同時に、アジアの地域関係は、中国の急速な経済発展にともない、欧州と同じぐらい複雑になっています。ウクライナは、対日関係をはじめとして、どのようなアジア戦略を持っているのでしょうか?
私は、自らの発表の中で繰り返し、ウクライナが2014年以降、アジアに十分な注意を割いてこなかったことにつき、批判的見解を示してきました。
現在、外務省がアジア戦略を作成しており、私もその作業に加わっています。国を代表するアジア研究者を交えた本件最初の協議では、アジアが非常に多様であることが示されました。アジアでは、個々の国が伝統的・歴史的繋がり、社会経済の繋がりを持っています。そして、ロシアもアジアにプレゼンスを持っています。私たちは、その事実からも避けられません。
その上で、私たちは現在、どの国にプラグマティックな経済的優先課題があり、どこに明確な政治的な結び付きがあるのか、という観点で、アジアの国々を分類しています。
中国は、昨年、ウクライナにとっての最大の貿易相手国となっています。言うまでもなく、私たちはその事実を無視することはできません。
他方で、より持続可能な戦略的関係の観点からは、日本がウクライナにとっての極めて重要かつ潜在的なパートナー国であることも、私たちはよく理解しています。
私は、ウクライナは日本との関係では、新しい協力要素を生み出せると考えています。
私は、米国で勤務しながら、経済、社会経済発展と技術の発展の繋がりに関心を抱きました。日本は、戦後、技術と知的財産によって発展してきました。そのため、私は、日本との関係での第一の優先課題は技術分野関係だと考えています。
日本とウクライナの技術潜在力を比べるのが困難なのは確かです。しかし、宇宙、軍事技術、医療、その他の多くのことが、ウクライナにとって非常に有益なものとなり得ると思っています。
ウクライナ日本科学技術協力委員会の会合が最後に開かれたのは2017年年末です。あなたは、物理・数学博士として、おそらく、日本との学術面の繋がりを発展させるつもりでしょう。あなたは、どの分野が優先されるべきだと思いますか?
現時点で具体的計画について話すのは困難です。何よりまず、日本へ行って、日本側の見解を聞かなければなりません。
私は、ウクライナ側が、日本側の関心分野を発展させたいという、非常に積極的な願望を抱いていることを知っています。私は、何かを提案するより先に、その願望を分析するつもりです。
しかし、科学分野が優先課題の一つであることは、明言します。その分野にこそ展望があると思っています。
具体的には、今週、チョルノービリ(チェルノブイリ)・福島プロジェクトに関する会合が予定されているのですが、私たちのチョルノービリ原発事故後の問題解決の経験は日本にとって有益となり得るものであり、プロジェクトは興味深く重要なものです。
ロシアという共通の脅威がウクライナと日本を団結させている
ウクライナ・日本間の初の安全保障協議が2018年10月12日に開催され、同日、ウクライナ国防省と日本防衛省の間で、『防衛協力・交流に関する覚書』が署名されています。それ以降、東京の政治家は、ウクライナとの二国間関係に関して、この覚書に言及し続けています。今後、ウクライナと日本は、安全保障と防衛の分野において、どのような協力が期待できると思いますか?
私は、現時点では詳細を話す用意がありません。私は、この覚書の詳細について知る人々を含め、ウクライナの防衛産業の代表者らと面会する予定です。
私は、オープンソースから知った範囲の情報から、日本が現在ロシアとの北方領土対話が実質的に止まっていることを非常に懸念していると考えています。更に、私が理解している限りでは、ロシアは、中距離・短距離ミサイルや航空機を含む新型兵器を北方領土に配備しています。それらは、実質的に日本への真の脅威を生み出すものです。
更に、日本にとって存在に関わる脅威である、北朝鮮の問題も最終的な解決には至っていません。
そのような状況下、浮かび上がってくる質問は、日本が今後も米軍の支援を当てにし続けるのか、あるいは自国の防衛能力を発展させたいと考えているのか、というものです。
ウクライナにはミサイル開発の経験があり、国際義務に反しないのであれば、この方面でも(日本と)議論すべきでしょう。
更に、宇宙・航空産業関係の開発もありますし、日本が関心を持つ航空機のエンジンもあります。私は、これらのテーマもまた非常に詳細に話そうと思っています。
私は、トルコ駐在時、これらの議題に多く携わってきました。私は、現在ウクライナ・トルコ間の軍事技術協力が異なるレベルに入っていることを大変幸せに思っています。そして、私は、日本との間でも本件について話す上で何の制限もないと思っています。
残念ながら、ロシアという共通の脅威がウクライナと日本を団結させています。ロシアはどこにも消えません。そして、地域情勢、特に北朝鮮が、残念なことにこの方面の懸念となっています。
すなわち、各国が自らの安全をどのように保障するかについて決定を下さなければならなくなっており、そこから各国が自らの国防政策を見直しているのです。そのような中で、どのような方面で私たちが団結できるかが見えてくることでしょう。
日本は、クリミア占領とウクライナ東部侵略の開始後に、ロシア連邦に対して種々の制裁を科したアジアで唯一の国です。同時に、安倍晋三首相は、ドンバス戦争開始後もウラジーミル・プーチン露大統領との友好関係を維持しています。それが日露間の領土問題解決のためだというのがわかっているとはいえ、安倍首相が今年のモスクワでの対独戦勝式典に参加しようとしているというのは、私たちに懸念を抱かせます。日本側は、9月3日に戦勝式典が開かれた場合、安倍首相は式典に参加できないと伝えたそうですが、それは「別の日なら参加できる」ということを意味しているともとれます。本件は、ウクライナ問題を巡る国際社会の団結に関わることなのですが、あなたは、日露間の友好的な関係について、ウクライナが日本と政治対話をすべきだと思いますか?
まず指摘したいのですが、G7の複数の国、具体的には、ドイツ、フランス、イタリアがロシアと緊密に協力していますが、ウクライナは、その協力の完全停止の問題を提示したことは一度もありません。同時に、私たちは、ロシアのウクライナに対する行動を一義的に非難するという、非常に明確な政策が継続されて欲しいと思っていますし、クリミア占領とドンバス地方へのロシア軍駐留によって科された厳しい制裁が維持されて欲しいと思っています。
私たちは、日本がその政策を維持していることについて大変感謝しています。
私はまた、日本外務省の今年の「外交青書」において、北方領土の表現が軟らかいものから厳しいものに変わったことに注意を向けたいです。今年の外交青書では、日本が4島への主権を一義的に表明し、それらの返還を主張する内容になっています。
私はそこから、日本が、積極的経済協力のような、ロシアに対する友好的で妥協的な提案には一切効果がないことを明確に認識したのだと思っています。ロシアは他国の関心を利用する侵略国なのです。
私が驚くのは、その島々(北方領土)がロシアにとっては実質的には何の利益もない土地であり、活用もしていないという事実です。同時に私たちは、プーチンが政権にいる間、アムール川の島々のかなりの領地を中国側に明け渡したことも知っています。それらは、ソ連時代に軍事衝突にまで発展したことのある領土なのですが、プーチンはそれらを静かに明け渡したのです。
そのことから、私たちは、ロシアの北方領土に対する政策は、合理的な思考とは一切関係のないものだと理解しています。仮にそこに何らかの高価な資源が埋まっているとか、世界最大の領土を持つロシアにとって、何らかの目的で必要不可欠な場所だというなら、私たちは、ロシアがその地にこだわる理由も理解することができたでしょう。しかし、実際には、その(ロシアがこだわる)唯一の理由は、日本の関心を引く問題を維持することであり、その上で時々「ロシアも解決したがっている」というふりをすることにあるのです。そのようなものは政策ではなく、政治屋の行動です。その問題は、ロシアが意図的に開いたままにしている「傷口」なのです。
私たちにとっては、それは明白なことです。プーチンは、日本に対して、最初に(平和)条約に署名して、それから(領土につき)交渉しようと言っています。そんな署名は信じてはいけません。日本がもし(先に平和条約に)署名したら、その時は島のことは永遠に忘れなくてなりません。誰もその議題(領土問題)に戻ることはありません。
率直に言って、私は、日本の政治家とロシア関係について多くの政治対話をしなければならないとは思っていません。ロシア自身が、自らの真の意図について、あらゆる幻想を打ち砕くような、平和の希求とは一切関係のない行動をとっているからです。
日本は、クリミアの違法併合を認めていませんが、ウクライナの北方領土に関する立場はどのようなものですか? ウクライナは、北方領土を「ロシアに占領されている日本の領土」と認めていますか?
私が知る限り、ウクライナは本件について一度も公式な声明を出していません。しかし、おそらく、本件について非常に丁寧に考える時が来ているのだと思います。
本件は、ソ連の継承問題が関わっています。というのも、ロシアは当時自らを勝手にソ連の継承国だと宣言しましたが、当時ウクライナはそれについて反対しなかったのです。その点から、本件には機微があり、領土に関する文書の扱いに関して、法律専門家、国際関係専門家による真剣な作業が行われなければなりません。
私は、その問題について既に丁寧な分析を始めており、様々な専門家の意見があることを知っています。
思うに、ウクライナにはその島々(北方領土)の所属について、日本の見解に対する共感があります。しかし、私は、公式な立場を決めるのはもう少し後になると思っています。私は、日本へ行ってからより深く分析して、本件につきより明確な返答をすることを約束します。
ウクライナは日本企業がEU向け生産拠点を中国から移動させる上での最適の場所
ウクライナ・日本間の貿易は、日本製品の輸入の方が著しく多く、ウクライナからの輸出は主に原材料です。あなたは、著名な経済学者として、このバランスの欠いた状況を是正するには、どうすると良いと思いますか?
それは非常に難しい問題であり、日本だけに関係する話ではありません。ウクライナには、30年にもわたり、同じ輸出構造が残っています。つまり、ウクライナの輸出は農産物、鉄、化学品であり、状況は全くもってひどいものです! 私たちは、生産と輸出の構造を根本的に変えるべきです。
私は、ウクライナを農業国と定義するとして、しかし、食料品を輸出したいのであれば、加工食品を輸出すべきだと考えています。ウクライナの土地では、一定の技術を維持すれば、全くもって良質の有機農産物を生み出すことができ、それを輸出することができます。そして、それはこれまでとは全く異なる価格が設定できるのです。
私には、どうしても理解できないことがあります。例えば、どうしてトルコに油を、瓶に詰めて売る代わりに、タンカーで売っているのか、ということです。瓶に詰めて売った方がはるかに得ですし、その場合にはウクライナに雇用が生まれるし、国内の税収が増えるのです。しかし、現実にはウクライナの油は、トルコのメルシン港に運び込まれて、トルコ国内で瓶に詰められているのです!
トウモロコシも同じです。私たちは原材料を売り、それがトルコで粉末にされ、トウモロコシ粉となって売られているのです。
つまり、国家に輸出政策がないのです。輸出政策は存在しなければなりません。私は、今はもう理解が生まれていると期待していますし、ビジネス界がすでに理解していると思っています。前述のような製造が行なわれ始めています。また、ウクライナの食料品は高質ですが、日本が要求する品質、つまり、証明書のレベルは、同国の特別な製造文化を表しています。そのため、品質は非常に重要な点です。それが一点目。
二点目は、私たちが輸出分野として見ていない分野、つまり、IT分野です。ウクライナの情報技術分野の専門家たちは、日本でもその他の国の市場でも利用可能な製品を開発する能力を持っています。例えば、私はウクライナのスタートアップ企業の一つの代表者と面談したのですが、彼らは日本市場向けに英語学習のアプリを提案していました。彼らの情報では、日本では英語学習の需要が大きいのだそうです。
三点目ですが、私は、日本の投資がウクライナの高度技術製品の生産に入ることを夢見ています。
私は、外務省に26年務めており、その間常に経済に携わってきました。その間、私たちは、なぜ私たちは、民主的な国からではなく、ロシアのような国からの投資を優先しなければならないのか、という議論を何度となくしてきました。
私は、金銭というものは必ずビジネス文化とともに入ってくるものだと説明しています。私たちにとって重要なことは、正しいビジネス文化、秩序、公正さ、質を定める文化、全てが時間通り、基準通りに実行されるような文化が入ってくることです。ロシアの人たちが慣れ親しむ、賄賂だとかオフショアといったものが消えてなくなるような文化です。
例えば、ボリスピリの共同事業(ボリスピリ国際空港ターミナル「D」建設等プロジェクト)には、トルコの企業が3社と日本のコンソーシアムが参加していましたが、その際、日本の代表者たちは、このプロジェクトを右にも左にも変更することを一切認めなかったと聞きました。そして、私たちは今、その素晴らしい結果を目にしているのです!
また、安倍内閣が日本企業を中国の生産拠点から撤退させることを支援しており、そのために20億ドルを割いたことが知られています。欧州連合(EU)向け生産であれば、ウクライナは、それらの企業拠点の移転先として最善の場所です。ウクライナには、能力ある労働力があり、土地があり、更にはEUとの自由貿易協定が発効しているからです。最初は、何らかなの小型の製品生産も良いでしょうが、しかし次第にそれを大きくして、うまくいけば、かなり重要な製品生産拠点となると良いでしょう。
そのような機会は、模索した上で、実現しなければなりません。同時に私は、極端な野心を抱いているわけではありません。私は、一つ一つのプロジェクトが信頼と丁寧な作業を必要とすることを理解しています。
例えば、私が最近日本のビジネス代表者と話をしていると、彼らは私に「まずこれまでに資金を出したものを実現させましょう」と述べるのです。全くの正論です! つまり、ボルトニッチ下水処理場改修事業が成功すれば、それから次の何十億レベルのプロジェクトについて日本と話せるようになるというわけです。
私は、日本の文化のことを知っています。日本の文化というのは、非常にていねいで、全ての細部に注意を向けます。私たちは、輸出構造を変えるべく、彼らとともに付加価値のある製品を作ることにつき、学び始めるべきでしょう。
その道は容易ではないですが、しかししなければならない仕事です。
私はすでにウクライナ大統領傘下の国家投資評議会の代表者と数回会談をしました。同評議会は、コロナウイルスによる制限が消え次第、日本を含めた国々との積極的な協力を再開したいと強く願っています。
大統領に自分の意見を伝えることに、問題を感じたことは一度もない
日本人は、ウクライナとロシアの間の文化、伝統、メンタリティの違いをはっきりと区別できていません。日本の専門家の中には、ドンバスの戦争を「内戦」と呼ぶ人すらいます。あなたは、この日本社会におけるウクライナについての理解の不足の解消に向けて、何かしらの「レシピ」を持っていますか? 日本の人たちにどのようにウクライナを紹介するつもりですか?
それは、科学・技術分野と並ぶ、最優先課題の一つです。
私の知る限り、日本にはウクライナのプレゼンスがあります。日本ではウクライナのヴィシヴァンカが知られており、ウクライナ大使館が文化プロジェクトを実施しています。しかし、私は、ドンバスで起きていること、クリミアで起こったことを説明するために、政治学者、大学関係者、シンクタンクの代表者たちと積極的に会う必要があると理解しています。私は、トルコでもそうしてきましたし、トルコではロシアと私たちの対立についてより良い理解が得られたと思っています。私は、同様のことを日本でも行ないます。
私は、日本の報道機関との協力にも大きく期待しています。ウクライナにはロシアとの間に一切共通点がなく、ウクライナは独自の歴史を持ち、自らの世界観やアジア観を持つ国であり、独自に外政、日本との関係を組み立てられるだけの完全な能力を持つ国だということを日本の社会に幅広く説明するためです。
あなたは、様々なウクライナ大統領の下で長年外交官として働いてきた経験があります。あなたの考える、それぞれの大統領の外政アプローチの大きな違いは何でしょうか?
外交には、そのようなことを議論する自由はありません。私たちの役割は、大統領が定める外交政策を実現することです。
しかし、どのような外交官であれ、その課題は、駐在する国で起こっていることに関して正直な評価を下すことを恐れないこと、損害を出しうる行動をとらないように大統領を説得することにあります。私には、駐在先の国で、国を動かすような機微やメカニズムを深く理解する事例が一度ならずとありました。私がこれまで駐在した3つの国の仕事には、簡単なことは一度もなかったです。
確かに、私は、過去6名のウクライナ大統領の中で、ともに仕事をしたことがないのはレオニード・クラウチューク氏(初代大統領)だけです。誰との方がより楽で、誰とがより大変だったかについては話しません。唯一言えることは、私は、大統領に自らの見解を表明することで、問題を感じたことは一度もないということです。そして、多くの場合、それは有効でした。
私は、何らかの政党の党員ではないですし、完全に専門的な人間です。私の唯一の目的は、利益を出すことです。日本ともそうあれば良いと強く期待しています。
私にとって、日本との仕事は挑戦です。日本は、協力する上で、ある種の独特さを持っています。しかし、私は「絶対にできない」「うまくいかない」といった言葉は好きではありません。私が好きなのは、「できる」「うまくいく」という言葉です。ですから、行動して、前に進まなければなりません!
あなたは、今すでに日本を感じている、と言うことができますか? 日本について、まだ感じとれていないものがありますか?
ほんの少しだけ感じ始めています! 私は以前も日本の映画や日本の作家の本がとても好きでした。最近は、夏目漱石の『夢十夜』を読みましたし、黒澤明の『羅生門』を観ました。日本語の勉強も始めました。
しかし、私はある国を知るためには歩き回ることを好みます。私は、日本を訪問した時、会津若松市を訪れました。そこで、会津藩の若い侍の話を聞きました。彼らは、会津藩が戦争に負けたのだと思い、自害したそうです。飯盛山には、彼らをたたえる記念碑が建てられています。非常に興味深い場所です。なぜ若い侍の墓に150年経った今も花が捧げられているのか。それを理解するためには、その場所を自分で見て、話を聞かなければならないのです。
もう一度言いますが、それは私たちの文化とは全く異なる文化であり、私はその文化を非常に肯定的に感じています。もっと知りたいと思わせる文化です。
それから全くもって素晴らしい日本食については、今日は話さないでおきましょうか!
日本について話している時のあなたの目は、輝いています。あなたは10冊の小説の著者でもありますが、日本でも新しい作品のための資料集めもするつもりですか?
私はすでに依頼を受けています! 現在ウクライナ外政の本を書いており、もうすぐそれがハルキウのヴィヴァト社から出版されるのですが、その出版社は私にアジア外交についての本の出版も依頼しています。
新しい小説については、私はまだ準備がありません。私は、外交の側面を学ぶことに大きな興味を抱いています。なぜなら、アジア外交の技術というのはウクライナではほとんど知られていませんから。
私は、アジア外交について多くの資料を入手しており、現在研究しているところです。もうすでに、アジアの地域関係について、いくらかのことを理解し始めていると思っています。
今のところわからないのは、日本の内政の機微です。それが非常に複雑なことは知っています。政治の伝統、憲法上のニュアンス、議会との独特な連携、政治決定メカニズムなどは現地で学ぶ必要があると思っています。
しかし、重要なことは、私も、日本側も、互いを知ることを望んでいることです。
私は、例えば、在ウクライナ日本大使館との協力に、非常に肯定的な驚きを感じています。大使も、ウクライナ語を話す外交官も、非常に肯定的に仕事に向き合っています。
あなたは、日本へ赴任するのは10月以降になると言いましたね。私たちは今年、何かしらの重要な二国間行事を期待することができますか?
今そのことについて話すのは難しいです。ウクライナ大統領によるアジア外遊の準備というアイデアを恐らく聞いたのではないかと思いますが、コロナウイルスが全ての計画をひっくり返してしまいました。
もちろん、私は、ビジネスレベルの対話を活性化させるために、ゼレンシキー大統領がビジネス代表者の一団を引き連れて日本を実務訪問をすることに関心があります。言うまでもなく、私は、その実現に向け、できることを全て行なうつもりです。
しかし、何よりまず私が日本に到着して、信任状を奉呈しなければなりません。それには、ある程度時間がかかります。国家元首との対話というのは、外交官にとって、然るべきメッセージと願いを述べる機会となります。
私は、(日本からの)招待があり、コロナウイルスの第二波が来ない、あるいは来たとしてもこれまでより軽いものとなるなら(そうであることを祈ります)、アジア外遊の際に、大統領が日本をもう一度訪問することになると期待しています。それから、議会、政府、商業界とのコンタクト確立の仕事もしていきます。その分野では、できるだけ多く活動するにこしたことはありません。
ナジーヤ・ユルチェンコ、平野高志、キーウ
写真:ヘンナジー・ミンチェンコ