エギルス・レヴィッツ氏は、3年前にこの国の大統領の権限を手に入れた。ラトビアは、議会共和国であるが、国家元首のポストは大きな重みを持つ。レヴィッツ氏の大統領任期は激しい時期に重なった。まず、コロナウイルスの世界的拡散、それからロシア侵略である。侵略の矛先はウクライナに向けられたものであるが、しかしそれは、欧州全体、世界においても地殻変動をもたらしている。その際に、ラトビア大統領は、あらゆる場面で、最も活発で原則的なウクライナの同盟国として行動している。
聞き手・写真:オレフ・クドリン(リガ)
中東欧はロシアの脅威をより良く感じている
私は、ウクライナ人として、ラトビア大統領に、ウクライナへと提供されている多様な支援について感謝したいです。
その支援は、私たちラトビア人にとっては、自明なものです。なぜなら、私たちは現状をよく実感しているからです。私たちには、ロシアの帝国主義について個別に説明する必要がありませんし、だからこそ私たちの支持は自然なものなのです。ウクライナのことは、政府としても社会全体としても支援しています。
ラトビアは、すでに2億5000万ユーロ近くの軍事支援を提供しました。それは、今年の私たちの軍事予算の約3分の1です。GDP比で計算すれば、GDPの約0.8%であり、ラトビアとエストニアが支援国の中でウクライナへ最も多くの支援を提供しています。なお、それは軍事支援だけの数字であり、難民への支援は別になります。また、NGOが大量の人道支援を提供しています。しかし、支援規模で最大のものは軍事関係です。ラトビアは大きな国ではないものの、(対ウクライナ)軍事ドナー国のリストの中では、上位に入っているのです。絶対的支援額では、最も多いのは米国の250億、それから英国の25億ユーロ、ポーランドの18億、ドイツの14億、ノルウェーの5億、ラトビアとエストニアがそれぞれ約2億5000万ユーロです。
私たちは、戦争が長引いているのを目にしています。同時に、クレムリンは、エネルギー、食糧、その他の危機を引き起こしています。それら危機に対して、民主的世界はどの程度準備ができているのでしょうか。ロシアの侵略へ抵抗するウクライナをサポートする長期戦略はありますか。
先週、私はマドリードで北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に参加しました。戦争はすでに4か月続いています。NATO加盟国、民主的な国々は、戦争が長期のものであることを理解しました。それは、マドリードで採択された、NATOの新しい概念を含めた文書でも認められています。概念では、ロシアがNATOの主要な対抗者であることが確認されています。それは確かに新しい概念です。そこからウクライナを長期にわたって支援しなければならない、何よりも軍事的な意味で、それから経済的な意味で、という理解があらわれています。
同時に、西側諸国の社会の区分という重要な問題も出てきています。というのも、経済面での困難、エネルギー分野の困難が現れている、あるいは現れ始めているからです。それは、ウクライナとの連帯にとって一定の挑戦となります。肯定的なことは、西側の主要な政治勢力が、ウクライナには長期支援が必要であることを理解していることであり、彼らはそれに際して連帯を示していることです。他方で、各国にはポピュリズム勢力も存在しますし、それら勢力はウクライナ支援の必要性を否定しています。しかし、幸運なことに、それら勢力はマイノリティであり、それぞれの国の政策を定める立場にありません。
東欧の立場といわゆる「旧欧州」の立場はどれだけ近づけることができていますか。
現在欧州全体で扱われているウクライナ支援問題は、(全面的)戦争の開始から、東欧と中欧の国々こそが、支援の主導権を得ていました。ポーランド、バルト諸国、ルーマニア…。なぜかというと、中欧と東欧の国々は、現存の脅威の根源からより近いところに位置しているからです。つまり、それらの国は、ウクライナの問題を、地理的にロシアから遠すぎる西欧の国々よりよく理解しているのです。思うに、私たちはそれら、より西の国々、「旧欧州」を、ロシアの脅威は東欧だけのものでなく、皆のものであり、NATOの全ての加盟国にとっての危険であるということにつき、説得できたのでしょう。その認識の例が、私が喚起した、マドリードの首脳会談の決定です。その問題は、他の場でも議論されています。例えば、「ブカレスト9」などです。最近(編集注:6月10日)、ブカレストでそのフォーマットでの会合がありました。それらは全て、中欧と東欧の国々のリーダーシップなのです。
ウクライナ人に対するジェノサイド問題の新しい裁判所を設置しなければいけない
有名な法律家であるあなたに質問です。あなたは、報告書「ロシア連邦のウクライナにおけるジェノサイド条約違反の独立した法的分析と防止義務」を読みましたか? ジェノサイド専門家によるその仕事へどのような評価が下せますか。
法的評価と政治的評価が下せます。ロシアが確かにウクライナにてジェノサイドを行っているという証拠は存在します。また、バルト諸国の議会は皆、現在ウクライナでジェノサイドが行われているとする決定を採択しました。同様の決定は、カナダも採択しました。もしかしたら、ポーランドやその他の国も採択するかもしれません。また、法的側面に関しては、国際裁判所(編集注:国際司法裁判所(ICJ))が存在します。しかしながら、手続きの観点では、本件の審理は、同裁判所の管轄ではありません。現時点では、キーウが提訴しています。ウクライナは、ロシアを、ジェノサイドを行っているとして非難していますが、その際ロシアはウクライナをドンバスでジェノサイドをしているとして非難しています。その行為はジェノサイド条約違反です。
つまり、真のジェノサイド組織者による「鏡の中の非難」が、ジェノサイドの兆候の一つというわけですね?(編集注:「鏡の中の非難」とは、加害者が、実際には自分たちが犯そうとしている残虐行為につき、ターゲットとする集団がそれを計画していると非難し、その集団を存在上の脅威として描き、その集団への暴力を、自衛であり不可欠だと正当化する行為。)
そうです。その提訴は、現在ハーグの国際裁判所で審理されています。すでに3月初頭に最初の裁判会合がありました。法的評価であり、法学の視点では重要なものなこととして、ロシアはジェノサイドを止めなければならないとする判決が採択されたのです。もちろん、ロシアは気にかけません。しかし、重要なことは、そのような判決がすでにあるということです。それは、暫定的判決であり、最終的な決定のためには、さらに数か月待たねばなりません…。ロシアがウクライナに対して始めた戦争に関しては、現在、いかなる国際裁判所も、その件を審議することはできません。もしかしたら、ウクライナのイニシアティブにより、その問題を審理する新しい裁判所が設置されるかもしれません。なぜなら、新しい裁判所が設置された、ユーゴスラビアやルアンダの前例があるからです。私はそれ(新しい裁判所の設置)を支持しています。そして、マドリードでもそれについて話しました。本件を扱う国のグループが作られるためには、この考え、このイニシアティブを発展させていかねばなりません。なぜなら、国連では、この問題は、残念ながら(ロシアの拒否権により)安全保障理事会を通過しないからです。
国家行政改革のアドバイス
ラトビア国会の春会期の最終会議の際、秋の議会会合を念頭に、あなたは、ラトビアの改革の必要性に関する興味深い演説を行いましたね。ウクライナの人々のために、いくつか主要な点を教えてもらえませんか。
ウクライナのためですか…。効果的に国家の改革を行うためには、政府はそのための先鋭的で明確な手段を有すべきです。その手段が国家管理です。なぜなら、何よりも、改革実現を担う国家管理が必要だからだという結論は、論理的なものだからです。ラトビアでは、すでにその点で多くのことが行われてきました。私たちのところでは、国家管理は、十分に機能しています。しかし、改革は決して止まらない。改革は継続して、新しい課題を履行しなければならない。それは恒常的なプロセスです。
例えば、ラトビアは、私たちがまだ良く機能する国家管理を有してなかった1990年代、「国家行政改革大臣」というポストがありました。その人物の課題は、国家行政自身を改革することでした。もしかしたら、ウクライナにとっても、そのようなポストが有効かもしれません。つまり、その職の人物は、社会全体のあらゆる改革を扱うのではなく、その手段の作成、国家行政改革を扱うのです。それはもちろん、国家管理がより効果的に機能するような、国家高官の訓練、国家の機構組織の正しい整理、汚職の根絶などが想定されます。私の提案の一つは、独立した機関となる国家評議会の創設です。採択される法律が持続可能な政策に合致するかという、法律に関する結論を提案するような機関です。それが立法プロセスと国家行政の活動を改善するかもしれません。