ヴァシリ・ハミャニン駐インドネシア・ウクライナ大使
ASEANでウクライナがプレゼンスを増せば増すほど、ロシアのプレゼンスが減っていく
03.07.2024 15:45

私たちの国家間連携のメカニズムに関するイメージや、記事の見出しから私たちが下す結論は、常に現実と一致しているわけではない。そして、残念ながら、世界はウクライナの周りを回っているわけではなく、私たちには当然なことでも、誰かには証明せねばならず、それも常に理解してもらえるわけでないという、不可避の「発見」が起こるものである。しかしながら、そういうことも、何人かのブロガーたちが言うように、「知らないよりは知っておいた方が良い」。

それは地政学上の現実にも通じることだ。そのことについて、ヴァシリ・ハミャニン駐インドネシア・ウクライナ大使がウクルインフォルムへのインタビューで話してくれた。彼は、現インドネシア政府の政治的慎重さ、選出されたプラボウォ・スビアント大統領の勇敢な行動、ロシアとの活動を求めるインドネシア人のこと、ウクライナがASEANの分野別対話パートナー地位を得た理由について語った。

聞き手:ナジーヤ・ユルチェンコ(キーウ)


インドネシアにはあらゆるレベルで非常に多くの親露派がいる

大使、最近のスイスでの「平和サミット」の総括から話を始めましょう。ゼレンシキー大統領は選出されたプラボウォ・スビアント大統領とのシンガポールでの会談の際に、インドネシアによる「平和サミット」への首脳レベルでの参加への期待を表明しました。そのシグナルは、ウクライナ外務省幹部からもインドネシア側に伝えられています。しかし、実際に私たちが目にしたのは、インドネシアは「サミット」に大使レベルで出席し、結論文書のコミュニケにも加わりませんでした。事前に外交活動をしたにもかかわらず、どうして期待する結果がもたらされなかったのだと思いますか?

シンガポールでの(首脳)会談は、極めて肯定的なものでした。しかし、客観的な否定的要因も作用したのです。インドネシアをその「サミット」に何としてでも欠席させようとする非常に強い抵抗がありました。

それは、「サミット」失敗を目的とした中国の努力のことですか?

いいえ。インドネシアは、全てのことを自分で決める国です。そして、何らかの圧力があっても、時にはそれまでの意向とは異なる決定を下すような国です。

話は国内の抵抗のことです。その抵抗はロシア連邦が築いてきたもので、その前にはソヴィエト連邦も築いてきた巨大なイデオロギー面の作業と関連するものです。そのために甚大な資金が何十年にもわたって注がれてきたのです。

だから、インドネシアにはあらゆるレベルで親露派が非常に多いのです。

何かをほのめかす意図はないですが、いくつかの例を示します。

2022年2月24日から今日まで、インドネシア外務省もルトノ・マルスディ外相も、ウクライナに哀悼を表明したことは一度もありません。ミサイル攻撃があろうと、人が亡くなろうと、建物やインフラが破壊されようと、児童が追放されようと、ロシア軍がブチャやイルピンやボロジャンシクやイジュームやマリウポリで犯罪を犯そうと、哀悼は一度もないのです!

公平を期すために、ジョコ・ウィドド・インドネシア大統領の極めて勇敢な行動のことは思い出しておくべきです。彼は、2022年6月29日に、グローバルサウスの国の首脳としては、初めてウクライナを訪問した人物です。インドネシア政府からのウクライナの病院の1つの再建のために2023年12月に提供された人道支援についても忘れないでおきましょう。

しかしながら、昨年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃の後、ウクライナはルトノ外相の議題からは完全に消えています。

つまり、対ウクライナ戦争は現時点でインドネシアの外政において不在であり、他方で私たちの国への侵略の言説の中にロシアは一度も出てこないのです。同時に、インドネシアの議員や政治家を含む最高レベルの政治エスタブリッシュメントは、欧州や中東をはじめとする紛争や戦争が経済、環境、世界のあらゆるものに非常に大きな悪影響をもたらしていると常に述べています。

それでも、誰もロシアのことには言及しないのです。誰に質問しても、誰もが「私たちは世界の全ての国との間でバランスの取れた関係を維持したいと思っており、私たちは全てのパートナーと友好関係を維持している」などと述べます。

控えめに言って、彼らの立場はそのような何からも距離を取る「中立」的なものです。

「平和サミット」の話に戻ると、つまり、インドネシア大使が出席したことは、一定程度肯定的なものだったということでしょうか?

私の視点は多くの人とは異なるかもしれませんが、しかし、国内情勢を知った上で言うと、私は、それは大きな成果だったと思っています。

思い出して欲しいですが、事前に開催された「平和サミット」に関する4回の(首脳)補佐官級会合には、インドネシアの代理人が出席したのは、ジッダ会合だけでした。その点に関しては、招待すること以外、何も行いようがありませんでした。

さらに、「サミット」では、大使たちは自国の大統領に任命された特使地位を有していました。つまり、彼(インドネシア大使)は単に大使であるよりも高いレベルでした。

「平和サミット」の後、インドネシア外務省からは何の公式のコメントもありませんでした。しかし、積極的な報道関係者が外務省代表者に質問することで、「サミット」への特使の出席はインドネシアによる国際法と国連憲章遵守への断固としたコミットを反映しているものであり、インドネシアの主な視点は、紛争解決にその他の関係者を関与させるべきで、共同コミュニケが包括的でバランスの取れたものとなれば、それはもっと効果的となるだろう、という回答を「絞り出させ」ました。それが意味する可能性があるのは「ロシアも出席していたら良かった」という願望です。

ともあれ、そのような立場は、メディアを通じてのみ出されたものです。インドネシア外務省はそのコメントを公開していません。少なくとも、私は目にしていません。

祝日と伝統とグローバルな外交

ウクライナの専門家の中には、ウクライナが「平和サミット」でイスラム教を主要宗教とする国々の出席を目にしたいと思っているなら、イスラム暦を見るべきだ、なぜなら、今年の「サミット」の開催は、犠牲祭の開催と一致していたからだという意見を述べる者がいました。あなたは、グローバルサウスの中のムスリム多数派の国の「サミット」への出席欠席に宗教要因はどれだけ影響を及ぼし得たと思いますか?

私は、その文脈では「影響はなかっただろう」と思っています。ただし、私も最初に日付を見た時は「犠牲祭はどうだろうか?」と質問しましたが。

ともあれ、祝日があり、国、地域、伝統がある上で、グローバルな外交があるわけです。ところで、「サミット」にはサウジアラビア、カタール、UAE、トルコ、その他のムスリム多数派の国が出席していました。

中国とブラジルはスイスの「サミット」の前に、全ての和平計画を議論し、ウクライナとロシアが出席する平和会議の開催への支持を表明していました。インドネシアではそのアイデアがどのように受け止められましたか? そのような会議が開催されたらインドネシアは出席するのでしょうか?

現時点では、それについて確実なことを言うのは非常に困難です。なぜなら、インドネシアでは大統領選挙と議会選挙があり、10月末に新しい政府の組閣があるからです。

政治的慎重さのような性質は、この国の現政府の特徴です。

プラボウォ・スビアント氏の和平計画は勇敢な行動

あなたは現インドネシア政府の政治的慎重さについて話していますが、しかしインドネシアの新たに選出されたプラボウォ・スビアント大統領は1年前、国防相として、ウクライナのための独自の「和平計画」を提案していました。あなたは、プラボウォ・スビアント氏が今年10月に大統領職に就任してから、彼からの新しい和平イニシアティブが出てくると予想していますか?

彼は今も国防相であり続けており、今年の「シャングリラ対話」でも、去年独自の和平提案を発表したと話し、1年後に改めてその案は発展させられると述べていました。

プラボウォ・スビアント氏は、安全保障フォーラムの演壇でも、シンガポールでのゼレンシキー大統領との会談時にも、そのことについて話していました。

私は、昨年アジア安全保障フォーラムから戻ってからプラボウォ氏と話したのですが、それによって彼がどういう意図でそれを話していたのかをよく理解することができました。

私はその時、その和平イニシアティブについて質問してきた記者たちに対して、ゼレンシキー大統領の「平和の公式」は当時すでに半年以上話し合われており、それは実践的な性格を帯びて、大きなチームが活動しているのに対して、私たち自身は4、5項目話したインドネシア国防相の短い演説から、彼の提案を理解しようとしているだろうか?と話しました。(編集注:それだけの情報で)コメント、説明、発展が望めるものでしょうか? 私には、彼が何を言いたかったのか、提案したかったのかについてのイメージがありますが、大半の人にはそのイメージはありません。

しかし、とても大切なことは、プラボウォ・スビアント氏が今でもインドネシア政府の中で、本件に関して自ら主導して少なくとも何かしらのことを発言し、ウクライナの和平計画についての議論と協議のためのプラットフォームを実質的に発展させた唯一の高官であり続けているという点です。

もしかしたら彼は、大統領になったら、自らの提案を実現し始めるかもしれませんね? というのも、彼のアイデアの内の1つの、彼の言うところの「係争地」における住民投票に関するものは、ウクライナでは私たちを少し貶めることになりました。

それは何も貶めていません! 私はもう多くの人に説明してきましたが、プラボウォ・スビアント氏の行ったことは、本当に偉大なことです。

彼は、ウクライナが関心を抱いている問題についての議論に加わったのです。私たちはその時すべきだったことは、「プラボウォさん、興味深い見解ですね。どういう意味なのか説明してもらえないでしょうか。もしかして、そこは少し違うのでは? 議論することを提案します…」と述べることでした。それこそが議論なのです!

ビュルゲンシュトック(スイス)でどうして、(「平和の公式」から)10項目ではなく、3項目が協議されたのでしょうか? おそらく、なぜなら皆が10項目を協議することに同意しなかったからであり、おそらく、議論の準備は完全にはない、という指摘があったからでしょう。

彼(プラボウォ氏)も同様です。彼は、「わかりました。あなた方の声を聞きました。これとこれは除外しましょう。でも、これについては話し合いましょう。もしかしたら、その点については何かしらできるかもしれませんから。たとえば、私は、国連平和維持軍の展開は支持しています」と言うかもしれないのです。

それは、よもや悪いことでしょうか? そういう風にして多くの問題は解決されるものなのです。仮にそこに「ブルーヘルメット」(国連平和維持軍)が展開されたら、それは少し違った状況になるでしょう。そう思いますよね?

ええ。

そういうことを一挙に否定してはいけないのです。もう一度言いますが、彼は、議論の場に加わった(編集注:インドネシアで)唯一の人物です。「プラボウォ・スビアントの和平計画」は、勇気ある行動でした。私が彼に近付いた時に最初に述べたことは、「大臣、私はあなたに心から感謝している」でした。

私たちはその時彼と2時間にわたって話し合いましたし、私は、彼がどういうつもりだったのかを理解しています。

インドネシアにはロシア、中国、北朝鮮、イランに大きな親近感を覚えている人々がいる

西側世界では、ロシア、イラン、中国、北朝鮮の接近は、世界を核戦争の混沌へと沈めたがっている悪の枢軸の形成だとみなされています。インドネシアではロシアの核の脅迫が脅威だと受け止められていますか?

いいえ。インドネシアでは、ロシア、中国、北朝鮮、イラン、シリア、キューバに対して大きな親近感を抱いている人々の輪があります。ここでは、それらの国の大使館や外交官は大変な心地良さを感じているでしょう。

インドネシアの外政はずっと「積極的かつ自由」だと宣言されています。私は、「先端部」を避けるという強力な傾向があると感じています。例えば、インドネシアでは、東南アジアの非核ステータスの維持をずっと支持しています。しかし、それが技術的にどうあるべきなのか、私はあまりわかりません。

つまり、インドネシアにも関係しかねない、大戦時世界大戦が近付いているとか、世界の安全保障が脅威に晒されているとかといった、西側世界にあるような警戒心はないのですね?

当然、社会にはそういう意見はあります。時々、インドネシアの政治家も、もしかしたら世界は核戦争の危機に瀕しているのかもしれないと述べています。しかし、それは、脅威や不安定化要因としてロシアをみなしたりすることとは一切関わりがありません。

ここではしばしば、集団的西側のダブルスタンダードについて話されていますし、ロシアのことは考慮されるべきだと言われています。私が、そうではないと説明すると、会話は「では、プーチンが突然核ミサイルで攻撃してきたらどうするのだ?」という話に繋がります。そこで私は、「では、仮定の独裁者に突然攻撃されるかもしれないという恐怖感だけで、インドネシア領の何らかの島を明け渡す準備が、あなた方にはあるのか?」と質問します。そうすると、疑問が全て取り除かれるのです。

では、核戦争ではなく、朝鮮半島や台湾での通常戦争については、インドネシアには懸念はないのですか?

懸念はあります。しかし、私は、具体的に何かをしようとか、本件に関して意味のある話をしようとかいう実際的な準備は目にしていません。

カーテンの向こう側で何かが行われていて、何かが話し合われている可能性は十分にあります。しかし、オープンな番組で聞こえるのは、インドネシアは戦争に反対、核紛争の可能性に懸念、ということだけです。しかしながら、私は、その言葉の裏に具体的な行動があるというようには、見ていませんし、感じていません。

インドネシアはロシアと仕事をしたがっており、そのことを隠していない

ロシアのマスメディアは、ロシアとインドネシアの間の貿易量が今年の第1四半期に17%増えたことや、インドネシアがウクライナの穀物の代わりにロシアの穀物を輸入していることを誇っています。これはつまり、インドネシアでは、ロシアとの間では全てがうまくいっていて、さらに良くなっているということでしょうか? インドネシア・ロシア間の友好について、どのように予想していますか?

全面侵攻前、インドネシアのウクライナとの間の貿易量は約13億ドルで、ロシアとの間では30億ドルでした。現在、彼ら(編集注:インドネシアとロシアの間)の貿易量は17%増加していますが、そのような2つの大国にとってそれはほとんど何の意味もありません!

インドネシアは現時点でロシアに対して、保有するあらゆる物を送っています。なぜなら、ロシアは、制裁によって多くの物を購入することができないからです。例えば、パーム油輸出は何倍にも増加しましたし、一部の衣服・靴、機材、電子類も増えています。ロシアは同国に対して、鉱物肥料と穀物の輸出を少し増やしました。しかし、それは、私たちが考えるような数字では全くありません!

そう、インドネシア人はロシア人と貿易をしており、ロシアの石油を安く買いたいと率直に話していますが、しかし、彼らはそれを精製することができません。彼らが実施してきたロシアの石油の精製プロジェクトは、制裁によりもう2年半にわたって中断しています。

インドネシアはロシアと仕事をしたがっており、それを隠していません。彼らは、ロシアとの間で観光を発展させて、モスクワからバリへの直通便を再開したがっています。

つまり、長年にわたって培われてきたイデオロギー上のメカニズムは1日で覆すことはできませんし、ロシアは現在もそれを維持するために何百万と資金を投入し続けているのです。
 

ASEANを通じて多くの効果的なプロジェクトを推進できる

大使、2022年11月、大統領があなたを兼任で駐ASEAN大使に任命し、その後今年3月1日には、イーホル・ポリハ氏が外務省ASEAN担当特別代表となりました。これは単なる代わりですか、それとも強化ですか?

現在、ウクライナがASEANのセクター別対話パートナー地位を獲得するための強力なプロセスが進行しています。私はインドネシアにいますが、ASEANの地域には他に国が9か国あり、それぞれと別の大使がやりとりをしています。国によっては大使館がありますが、ない国もあります。特別代表の課題は、これら全ての努力を調整することです。私は、その任命を非常に正しい、必要な決定だったとみなしています。

どうして、私たちはASEANのセクター別対話パートナー地位を得ようとしているのですか? その地位は私たちに何をもたらすのですか?

貿易、経済、投資、IT、安全保障、人道地雷除去、教育など、様々なセクターにおけるパートナーシップです。

セクター別対話パートナー地位を得ると、ASEANの全ての行事への扉が私たちの前に開きます。というのも、現在は私たちには、その内のいずれの行事へもアクセスがないのです。

例えば、ASEAN首脳会議に、私たちは招待されたら出席ができます。しかし、パートナー地位をえたら、私たちはどこでも出席できるようになるのです。

それは、実際的な観点から非常に重要です。なぜなら、ASEANを通じて、多くの効果的なプロジェクトを推進できるからです。私たちはもう、IT、食料安全保障、地域の平和維持の分野でそれを行い始めています。

よって、ASEANでウクライナがプレゼンスを増せば増すほど、ロシアのプレゼンスが減っていくわけです。

ジャカルタにて、6月26日に初の重要な行事がありました。東南アジアにおける友好協力条約、「TAC」の参加国大使会議です。

ウクライナは2022年に、その条約に署名した50番目の国となりました。しかし、参加した国全てがASEANのパートナー国ではありません。今年、加盟国は、TACに加わった国が何の行事にも参加していないというのは正しくないと判断し、始めて全ての署名国のための特別行事を組織したのです。

私は、演説の機会があることを期待していますし、活動しています。

(演説の)3分間で何について話すことができますか?

私たちが言わなければいけないことです。私たちのASEANとの協力や、セクター別対話パートナー地位獲得への支持、今も私たちが戦っているロシアの侵略についてです。

大使、私たちは、あなたと前回のインタビューを1年半前に行いました。私は、この間、ウクライナ・インドネシア関係は、ウクライナや私たちの問題への理解の観点では、あまり進展がないと思っています。あなたは、力、希望、そしてインドネシアが変わるかもしれないという楽観的観測を、何から得ていますか?

その点にはいくつかの要素があります。私に力を与えてくれているのは、私たちがとにかく生き残らねばならない、耐え抜かねばならず、それ以外はあり得ないという事実です。私たちは、最後まで戦わねばならない。可能な人が、可能な場所、可能な手段でもって。

楽観的観測については、私が今一番希望を抱いているのは、プラボウォ・スビアント氏に対してです。

私は、新しい議会の構成を気に入っています。そこには、実質的な反共産主義的イデオロギーの政治勢力が、前の議会以上の票を獲得しています。彼らとは、基本的に、私たちにとって自明なことについて話すことができるでしょう。

そして、もちろん、私は、ウクライナとインドネシアの具体的内容と国家イデオロギーに裏打ちされた新政権と彼らとの建設的な対話に希望を抱いています。

私はまた、プラボウォ氏自身が経験豊かな外交官であり、西側全体の心理をよく知っていることから、彼は巧みに運営し、重要な決定を採択できることを期待しています。

つまり、私は、非常に肯定的な変化に本当に期待しているのです。

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