ウクライナのロケット弾「ヴィリハM」、反攻時に実戦試験へ
ウクライナの長射程ロケット弾「ヴィリハ」シリーズは4つの改修版が製造されており、ウクライナ軍の反攻作戦時に実戦投入することで試験が行われることが見込まれている。
筆者:ボフダン・トゥゾウ(キーウ)
ウクライナ国家防衛産業複合体連合の第一副総裁であるイヴァン・ヴィンニク氏は、高精度ミサイル「ヴィリハM」の製造開始を発表した。ヴィンニク氏は、改修されたロケット弾は、ウクライナ東部と南部で想定されているウクライナ軍の反攻作戦時に実戦で試験されていくと話している。
ヴィンニク氏は、現時点で製造者は、射程を150キロメートルまで延長する目的で、ロケット弾「ヴィリハM」の改修作業をしていると伝えた。同時に同氏は、改修版の準備ができる時期と製造数については言及しなかった。
また同氏は、「私たちは、完全な試験は反攻時に実戦で行われることを期待している」と発言した。
なお、現時点でも、前線ではロケット弾「ヴィリハ」は広範に使用されており、ロシア占領軍に対する実際の戦闘で成功裡に使用されているという。
ヴィンニク氏は、「確かに、ロケット弾『ヴィリハ』は戦闘で使われている」と述べた。同氏はまた、ロケット弾の高い精度は、GPSのシグナルを利用した、ロケット弾の飛行方向修正を支援する数十個の小型横型エンジンによって構成される「ガスダイナミック・ダイナミック」を使用することで実現できていると指摘する。
なお、「ヴィリハ」とは、ウクライナの300ミリ口径の高精度弾薬搭載戦術ロケットシステムであり、ソ連製の多連装ロケットシステム「スメルチ」をベースに製造されたもの。同システムの開発は、国産防衛産業の15社の連携により行われた。
今次戦争にて使用されているロケット弾「ヴィリハ」は、最大射程70キロメートル、弾頭重量250キログラムのもの。比較として、例えば、ウクライナが同盟国から提供されている高機動ロケット砲システム「ハイマース」と「M270 MLRS」のロケットは、最大射程92キロメートルだが、弾頭重量は「ヴィリハ」の約3分の1の91キログラムである。
ヴィンニク氏は、改修版ロケット弾「ヴィリハM」は、射程最大110キロメートルで弾頭170キログラムであるため、すでにロケット弾GMLRS M30/M31(ハイマースとMLRS用のロケット弾)を凌駕していると述べる。ヴィンニク氏が、雑誌「ウォー・ゾーン」で話したさらなる改修版「ヴィリハM1」は、同じ重量(170キログラム)の弾頭を使う場合は、より長射程の最大150キロメートルであり、弾頭重量が236キログラムの場合は、射程は110〜120キロメートルとなるという。
さらなる改修版「ヴィリハM2」も開発されている。同改修版は、射程200キロメートルであり、米国製造のロケット弾「GLSDB」と同程度の射程となる。ただし、西側製品と違い、ヴィリハM2は、はるかに大きな弾頭を搭載するため、敵に与える破壊力も大きくなる。
ロケット発射システム「ヴィリハ」搭載のいずれのロケット弾は1つ1つが個別の目標に照準を合わせることができる。ロケット弾「ヴィリハ」と「ヴィリハM」は、誘導式であり、ロケット弾の先端部分に搭載されている特殊エンジンにより飛行を調整することが可能となっている。1セット12発のロケット弾は、48秒で全て発射される。
ロケット弾の発射台からの発射速度は、秒速30メートル。他方で、これだけでは空気力学上のロケット弾の制御には不十分なため、小型の反動推進エンジン(編集注:サイドスラスター)で飛行を安定させている。ロケット弾には、このような反動推進エンジンが制御装置の周りに90個搭載されており、全てが一瞬で作動するようになっている。
ロケット弾の飛行第2段階では、高度30〜40キロメートルに達し、この段階では制御がされない。他方、最終段階となる第3段階にて、ロケット弾が降下を始めると、空力操舵が作動し、制御システムが操舵指示のためにナビシステムと慣性システムを統合している。ロケット弾の軌道の最終段階で、速度はマッハ3.4(時速3675キロメートル)に達する。これにより、敵による同ロケット弾の撃墜は困難となる。
攻撃目標物により、ロケット弾は異なる弾頭を装填することができる。例えば、2019年5月には、クラスター弾頭を搭載したロケット弾「ヴィリハP」の実験が行われている。
「ヴィリハM」は、相当精度の高い武器だとされているが、他方で製造業社は目標物からの最大許容誤差のデータを公開していない。複数のデータによると、その誤差は10〜15メートルである可能性がある上、この数字はロケット弾の目標物までの飛行距離には左右されないようである。2017年5月には、オデーサ州訓練場からのロケット弾発射試験の際に、ヘルソン州の訓練場の目標物に15メートル未満の誤差で着弾している。
2023年、ミサイル「ヴィリハ」を使用した証拠が提示されているが、それはウクライナ軍によりこのミサイルの生産が再開されることを示すものかもしれない。この推測は、国産の軍事産業複合体の活動強化という一般的な傾向に合致している。国営企業「ウクルオボロンプロム」は、昨年年末に82ミリ口径、120ミリ口径の迫撃砲のものや122ミリ口径、152ミリ口径の榴弾砲のもののような、火砲システムの弾薬製造を発表している。
現時点では、ウクライナ軍が「ヴィリハ」システムを何台保有しているのか、同システムのロケット弾がいくつ残っているのか、あるいはいくつ製造されたのかに関する情報はない。しかし、米国の政治家が長射程ミサイル「エイタクムス(ATACMS)」をウクライナに提供する可能性について過度に長考する中で、「ヴィリハM」が被占領地解放のための代替的手段になるかもしれない。
※修正更新(12日8時9分):ジェットエンジン→反動推進エンジン