ウクライナはイランによる752便撃墜を知りつつ、敵対を避けて慎重に行動した=米紙
米ワシントン・ポスト紙は、イランでのウクライナ航空機PS752便撃墜に関するウクライナ政権の行動を分析した特集記事を公開した。
(キーウ)土曜日、イランがウクライナの旅客機をミサイルで誤って撃墜したことを認める驚くべき発表があってから数時間後、ウクライナは、独自に大きな告白を行なった。前日に撮られた、小さな穴の開いた航空機の残骸の写真は、その航空機がイランのミサイルで攻撃された可能性を示していた。
イランが水曜日のテヘラン近くにてウクライナ国際航空752便がミサイルで撃墜されたことを認めるよりずっと前に、ウクライナはそのことを認識していたのだ。しかし、ウクライナのリーダーたちは、慎重な外交的道を選んだ。
国家安全保障国防会議(NSDC)のオレクシー・ダニロウ書記は、ワシントンポストに「これら全てを否定するための議論はもはや存在しなかった」と述べた。
航空機が墜落し、登場していた176名全員が死亡、その直後に、米国関係者やカナダ、英国の首脳が、世界に向けて、その航空機はイランが撃墜した可能性があると彼らが考えていることを伝えた。ウクライナのヴォロディーミル・ゼレンシキー大統領は、彼らに情報の共有を求めたが、しかし、ウクライナとしての結論は一切発表しなかった。ダニロウ氏はそれを「戦略的決定だった」と述べる。
同氏は、「私たちは、米国やカナダの人々より先に、その結論に達していた」と述べつつ、しかし、ウクライナは現地の捜査官により重要な証拠を全て集めておきたかったのだと説明した。
ウクライナの高官たちは、現場での更なる協力を確保することを目的に、イランによる鋭い批判を避けようと慎重に行動していた。
キーウ(キエフ)の国際危機グループの専門家であるケトリン・クヴィン=ジャジ氏は、米国の無人機攻撃によりイランの革命防衛隊司令官カセム・ソレイマニ中将を殺害した後、米国・イランの間にはまったゼレンシキー大統領の前には「イランとの西側パートナー国との間で、どちらとも対立を起こさずに協力する」という難しい課題が生じていたのだと説明する。
航空機墜落から4日後、ゼレンシキー氏は、イランのハサン・ロウハニ大統領と「賠償金問題を含め、司法的・技術的協力につき合意した」と発表した。
ヴドロ・ウィルソン記念国際科学センターの研究員であるニーナ・ヤンコヴィチ氏は、「そして、またしてもゼレンシキーは、外交的バランスを維持し、状況から上手に抜け出すことに成功したのだ」と言う。同氏は、「政界の新人である彼は、ウクライナの国益を守るために、対立するサイドをどのように和解させるかについて、明確な理解があったのであろう」とコメントした。
現在、イランとの問題は一定程度解決済みである。2014年7月のマレーシア航空機撃墜におけるロシアに関しては、同じことを言うことができない。マレーシア航空機は、ウクライナ東部の分離主義者支配地域から発射されたミサイルにより撃墜され、搭乗していた298名が死亡している。
オーストラリア、ベルギー、マレーシア、オランダ、ウクライナからなる捜査チームは、地対空ミサイル・システムを管理するロシア軍部隊を特定し、本件に関与した可能性のあるロシア国民とウクライナ国民を起訴した。ロシアは、この事件へのあらゆる関与を否定し続けている。
ダニロウ書記は、「航空機が欧州の首都を飛び立ったのは5年以上前だが、欧州はまだこの事件の捜査を終えておらず、誰に罪があるか特定できずにいる」と述べる。「私たちは、何が起きたのか理解するのに、はるかに少ない時間で済んだ」。
マレーシア航空機事件で仕事をした経験のある人物を含む、45名の専門家と捜索・救助隊員からなるウクライナのチームは、9日の朝にはテヘランに到着。彼らは、ウクライナ航空機の事故原因と遺体特定のためにイランを訪れた。10日には、ヴァディム・プリスタイコ外相が記者に対して、「この手の事例でよくあるように、捜査チームは作業条件に満足していない」と述べている。
外相は、「彼らは短期間で更なるアクセスを得たがっている。彼らはより多くの情報とデータが必要だ。この要請が受け入れられているとは言い難い」と述べていた。
ソーシャルメディア上に掲載された事故現場の写真には、NATOでは「SA15Gauntlet」として知られるロシアの地対空ミサイル・システム「トール」の一部が写っていた。2005年、ロシアはこの地対空ミサイル・システムをイランを含む複数の国に輸出している。同システムは、短距離・中距離の対象物を攻撃するために製造されたものだ。
9日、ダニロウ氏は、フェイスブックの自身のアカウントに、捜査官が事故現場を更に調べなければならないと書き込んでいた。
捜査官が抱えていたその他の問題として、事故現場がすぐにブルドーザーでならされてしまったというものがある。機体の破片は近隣の格納庫に移動された。ウクライナは、10日までブラックボックスへのアクセスを得られなかった。プリスタイコ外相は、捜査官は機体の残骸とそこに残る化学残留物を分析した他、病院を訪れ「事件で亡くなった人々の遺体を分析した」と述べた。
ゼレンシキー氏は、遺体特定のために、搭乗していた11名のウクライナ人の遺族のDNAサンプルが集まったと伝えた。
ダニロウNSDC書記は、「現在この世界に存在する最新技術、迅速な情報交換、情報リソースを用いた作業が、非常に複雑な問題に対しても解答を見つけ出す可能性を与えている」と言う。「私たちは、彼らが行なったのではないとするオプションがもはやあり得ないことを、彼らが理解したのだと思っている。」
「私たちがここで得た情報の分析…、テヘランではなく、ウクライナで得た情報の分析が既に、もはや彼らは否定できない、という事実を示していた。」
昨年春の選挙で大きな支持を得た41歳のコメディアンのゼレンシキー氏にとって、国際社会の更なる分断を回避するというのは、大きなハードルであった。彼はトランプ大統領の弾劾手続きに引き込まれ、ロシア、フランス、ドイツとの間でウクライナ東部の親露分離主義者支配地域の紛争終了について協議を行なってきている。
そのゼレンシキー氏は、ウクライナ国民への呼びかけ動画は、厳かながらも、勝利に満ちていた。彼は、「私たちは、体系的に仕事をした。ヒステリーを起こさず、事故状況についての真実を知るべく結果を出すという一つの目的のためにだ」と述べていた。
一枚目の写真:AA