西側報道機関、ロシア・プロパガンダ団体による偽情報拡散活動の詳細入手
バルト諸国のニュースサイト「デルフィ」など西側複数報道機関は、ロシアの「社会デザイン・エージェンシー(SDA)」なる団体がクレムリンの注文を受けて、西側諸国で偽情報キャンペーン「ドッペルゲンガー」を策定、実施していたことを示す文書を入手した。
デルフィが調査報道記事を公開した。
デルフィの他、ドイツのSüddeutsche Zeitung、NDR、WDR、ラトビアのRe:バルティカの記者たちがロシアの「社会デザイン・エージェンシー(SDA)」の文書を入手したという。この文書は、欧州議会選挙や、米国、フランス、ウクライナ、イタリア、イスラエル、ラトビアへの影響工作計画を示す内容だという。
デルフィは記事にて、この文書により、同エージェンシーが大規模な「プロパガンダ工場」であることを示すものだと指摘しており、同エージェンシーが2024年の最初の数か月、ボット集団がソーシャルメディア向けの3400万件のコメントと4万点のコンテンツを作成したと伝えている。また、Re:バルティカは、同偽情報キャンペーンは体系的でよく準備されたものであるとし、プロパガンダ拡散社はまず各国の情報空間を分析し、重要プレイヤーと、強化・拡散すべきメッセージを定め、その後コンテンツ計画を策定した上で、ボットが製造を開始するのだと説明している。
同エージェンシーは、ラトビアに対しては、「バックグラウンド」という文書を策定。同文書には、情勢分析とともに社会に対する影響行使の計画が提案されているという。その目的は、ラトビアの価値観をロシアに有利な形に反転させつつ、「平和的な社会革命」を起こすことにあるという。作戦開始は、2022年後半が予定されていたという。
Re:バルティカの情報では、当初ラトビアでは、同エージェンシーの偽情報キャンペーンは、最初はロシアを試合をするために訪れたラトビアのホッケー選手を防衛するボットの情報拡散の形で現れたという。
プロパガンダ担当者たちは、歴史的文脈の情勢を分析しつつ、2014年春のウクライナにおける出来事、クリミア占領、クレムリンが支えた東部での戦争は当初、ラトビアのロシア語話者住民の間で人気があったと指摘しつつも、他方、現在ではそれらを支持しているのは「貧しく、教育がなく、反ワクチン派」だけだと残念そうに指摘しているという。例えば、リガでソ連の戦士の像が撤去された時にも、目立った反応が起きなかったことが指摘されているという。
同エージェンシーの文書には、民族的ロシア人のラトビア住民に政治的リーダーがいないことも指摘されている。かつて人気があったニルス・ウシャコフスは欧州議会に当選した時に傍流に追いやられたとし、彼の政党もリガ議会で権力を失って以来、低迷していると書かれている。また、文書には、ソ連の記念碑の撤去に反対したダウガフピルスのアンドレイス・エルクスニンシュ市長が肯定的な人物として挙げられているという。
同エージェンシーの文書にはまた、ラトビアの民族的ロシア人である住民たちが、ロシアの対ウクライナ侵攻に対して、例えばブチャでの虐殺のニュースなどに、「過度に否定的」に反応していることへの不満が記されているという。ラトビアで「ロシアの世界(ルスキー・ミール)」のアイデアに人気があるのは、年配の世代のみで、若者は欧州空間にかなり統合されていると指摘されているという。また同エージェンシーは、ロシアから移ってきた野党勢力もそのようなリベラルな空気を伝えていると分析している。
同エージェンシーは、情報作戦の展開時にラトビア社会で広められるべき「メッセージ」を詳細に記述している。例えば、「ラトビアは西側を支えながら、国際安全保障のレベルの低下に加わっている」「ロシアとの対立は生活費の上昇に繋がる」「暖房シーズンへの準備に困難が生じるだろう」「ラトビア人は凍えるリスクがある」「ロシア語を話す住民へのジェノサイドがラトビアで起きている」などといったメッセージだという。
さらに、同エージェンシーは、民族的ロシア人のラトビア住民がウクライナからの難民に対して嫌悪感を抱かせようと、難民が地元住民よりも優れた環境で暮らしているなどと強調することを提案していたという。また、「私たちも難民だ」というキャンペーンも計画されており、その際はロシア語話者住民が、自分たちもソ連崩壊後のラトビアにおける難民なのだと主張して、社会的平等を要求することになっていたという。Re:バルティカは、同計画は、まずソーシャルメディアを利用して、それによって実際の行動を引き起こすことが想定されていたと伝えた。
また、ラトビアでロシア語話者政治プロジェクトを再開させるアイデアも策定されていたという。