セルヒー・キスリツャ国連ウクライナ常駐代表
国連事務総長とICCが逮捕状を出した人物の会談は、例外的な場合のみ可能
アントニオ・グテーレス国連事務総長がBRICS首脳会議のためにロシアのカザンを訪問したことに対し、ウクライナとその同盟国から激しい批判が寄せられている。グテーレス事務総長の代理人は、BRICS諸国が世界人口の半分を占めていることから、グテーレス事務総長の訪問は「重要」だと説明し、さらには、グテーレス氏がプーチン氏との会話でロシアの侵略に関する立場を表明したと主張している。国連のトップが侵略国を訪問し、戦争犯罪人と会談することは妥当なのだろうか? この件について、ウクライナの国連常駐代表であるセルヒー・キスリツャ氏と話し合った。
聞き手:ヴォロディーミル・イリチェンコ(ニューヨーク)
キスリツャ代表、ニューヨークでも、ウクライナ国内でも、国連事務総長がBRICS首脳会議に出席するため、戦争犯罪人プーチンの招きでロシアを訪問するという決定の道徳的、法的、政治的側面について、多くの発言やコメントが聞かれています。国連にこの問題を規制する規則はあるのでしょうか?
ええ、この問題が生じたのは今回が初めてではありません。
20年以上前、国連は国際刑事裁判所(ICC)との関係に関する協定を締結し、それは2004年9月13日の国連総会で確定されています。
この協定に定められた一般的義務に従い、国連事務総長は2013年、国連事務局の代表者とICCの逮捕状対象者との間で行われる可能性のある会合に関するガイドラインを発表しました。
このガイドラインは、2013年4月3日付の事務総長から総会議長と安全保障理事会議長への共同書簡によって周知されています。
その文書には次のように記されています。「ICCが発行した逮捕状の対象となる人物が、ICCへの軽視を示し、その権威を弱めようとする目的で、意図的に国連高官と会おうとする可能性がある。国連とICCはそれぞれの権限を持つ別個の組織であるものの、この2つの組織には、国際社会によって懸念される最も重大な犯罪に対する不処罰をなくすという共通の目標がある。さらに、国連・ICC関係協定に従い、国連は、裁判所と検察官を含むその諸機関の活動を妨げたり、その決定の権威を損なったりするような行動を控えることが求められる」。
ご覧の通り、プーチンが国連事務総長へとBRICS首脳会議出席のためのロシア訪問の招待状を送ったのは、正にその目的(編集注:ICCの権威弱体化)のためでした。
一般的なルールとして、国連幹部と、ICCが逮捕状を発付した人物の会談はあってはならないのです。
そのような人物とは、儀礼的な会談も、通常の表敬訪問も行ってはいけません。それは、レセプション、写真撮影、祝祭日の祝賀行事への参加なども同様です。
ガイドラインによると、事務総長と副総長は、重要な安全に関する問題を含め、国連とその関連機関、プログラム、基金が当該国で職務権限を遂行する能力に影響を及ぼす「根本的な問題に対処する目的」がある場合に限り、このような人物と直接接触することができることになっています。
国連のマンデートに従った重要な活動を遂行するためなら、ICCが逮捕状を発付した人物とも、必要な範囲でのみなら直接交流することが可能です。
しかし、国連事務総長は、GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)や上海協力機構のような国際機関のトップとは、会うことができるのですよね?
国連総会が、GUAMや上海協力機構、その他の地域機関と国連の協力に関する関連決議を採択しています。
しかし、国連とBRICSの協力に関しては、そのような文書の存在を私は知りません。
例えば、上海協力機構であれば、2023年9月1日の決議に、次のように記されています。国連総会は「国連のシステムと上海協力機構との対話、協力、協調を強化することの重要性を強調し、国連事務総長に対して、既存の機関間フォーラムやフォーマットを利用して、その目的のために上海協力機構事務総長との定期協議を継続するよう求めた」とあります。
GUAMについては、2022年11月21日の決議により、国連総会が「国連事務総長に対し、GUAM事務総長と定期協議を開催し、その目的のため、国連事務総長と地域機関のトップとの年次協議を含む、関連する機関間フォーラムやフォーマットを利用すること」を提案しています。
(しかし)安保理も国連総会も、国連事務総長に対し、BRICSとは連携の指示を出していません。ましてや、ICCが逮捕状を発付している人物からの招待に応じるよう指示したことはありません。
ガイドラインには、たとえ例外的な状況、すなわちそのような人物との接触が絶対に必要な場合であっても、可能であれば、ICCの逮捕状の対象ではないグループまたは関係者の代表者と接触するよう試みるべきだ、と書かれています。
事務総長事務所は、その戦争犯罪との会談の必要性を正当化していましたか?
私たちは、国連から、ICCが逮捕状を出した人物との間で、BRICS首脳会議でどのような「根本的問題」を解決する必要があったのかにつき、明確な情報が提供されるのを待っています。繰り返しますが、それ(編集注:根本的問題)はガイドラインにある「重要な安全に関する問題を含め、国連とその諸機関、プログラム、基金が当該国で任務を遂行する能力に影響を与える」問題のことです。
事務総長副報道官のこれまでの発言からは、この質問に対する答えとなるものを、私は聞いていません。記者の質問に対し、事務総長はBRICS首脳会議に出席し、出席する首脳と一連の二者間会合を開くが、それはとりわけ黒海の安全な航行の回復に関する問題を推進するためだと答えていました。(しかし)ご存知のように、「黒海穀物イニシアティブ」はもうかれこれ1年以上機能していません。
さらに、副報道官が言及した事務総長による4件の二者間会談のうち、2件は独裁者であるプーチンとルカシェンコとのものでした。
事務総長がICCの逮捕状を持つ人物と会談したい場合、裁判所自体に知らせる手続きはありますか?(ちなみに、私たちがキスリツャ常駐代表に話を聞いた10月25日、ウクライナはICCのローマ規程の批准書を国連事務総長に寄託している)。
ええ、例えば、2016年の「ICCとの協力に関するマニュアル」には、重要な接触についてICCに通知する手順が定められています。定められた手順に従うと、国連法務局は逮捕状が発付された人物と面会する意向をICC検察官とローマ規程締約国総会議長に事前に書簡で通知して、そのような面会が不可欠だと考えられる理由を説明しなければなりませんでした。その書簡が読めたら面白いでしょう。