ウクライナ軍が現在支配するスジャの現状

ウクライナ軍が現在支配するスジャの現状

ウクルインフォルム
ウクルインフォルムの記者たちは、ウクライナ北部スーミ州と隔てる国境から約10キロメートルの場所に位置するロシアのスジャ市に滞在した。

執筆:ミロスラウ・リスコヴィチ

写真:キリロ・チュボチン

私たちは、防弾チョッキを着て、防弾車両に乗っている。数人の軍人が同行して町へ向かう。

「揺れるから、ヘルメットも被りなさい。大きなコブができて、私みたいになりますよ…」と大きなサングラスをかけた禿げた兵士が笑う。

グループのリーダーは、「皆乗ったか? 停車は4か所。最初の3つまでは10分以内で、ガス測定所、検問所、郊外だ」と伝える。

「出発!」運転手が叫ぶ。

最後の停車場は、スジャ市の中心で、そこまで到着する時間は少し長めに取られていた。

車は確かにかなり揺れた…。両手で取っ手をしっかり掴み、装甲車の小窓から外を見ると、灰色の煙と灰色の建物が見える。

「ガスステーションに着くぞ。皆、準備するように」

ガスプロム・ガス測定所

測定所の事務所、測定器の設置されている広場は、激しく破損している。ただし、クルスク州での出来事があっても、天然ガスの輸送は続いている。数枚写真を撮って、車に戻る。

「この先はスジャ近郊となります」

「何があるんですか?」

「まあ見てみましょう」

そこには、ロシアナンバーで敵の特別なマークのついた、焼け焦げたロシア軍の車両(戦車や歩兵戦闘車)が数台あった。

「この戦闘車はウクライナの方角へ向かって走っていました」

「仲間を助けるためにですか?」

「そう。しかし、たどり着けませんでした」とサングラスの軍人は再び笑う。

スジャ近郊の焼け焦げたロシアの装甲車両

そして、スジャだ。送電線は切れており、あちこちで銅線が垂れ下がっている。道路は銃弾で覆われ、木の枝、ゴミ、そして…ロシア兵の腐乱死体が散乱している。一軒家を除いて、町は総じて大きな被害を受けていない。町の通りはほとんど人がいない。

スジャ市中心部

店は、放置されているが、荒らされてもいない。

スジャ市の店

アスファルトには大体ほぼ30〜40メートルごとにロシア軍がスジャに向かって放っている迫撃砲弾やFPVドローンの着弾による小さな穴がある。さらにロシア軍は、町に向けて誘導航空爆弾も放っている。町にはまだ自国の民間人が残っているというのに。電気も、水も、ガスもなく、約100人が。

スジャへの道は、銃弾で覆われ、木の枝とゴミが散らかっていた

残っているのはどんな人か? 主に高齢者と、様々な理由でロシアのコントロールする地域へ出発するのが間に合わなかった人だ。どうして間に合わなかったかについて、彼らは「政権は私たちに警告しなかったからだ」と説明する。ウクライナ軍人は、彼らに食べ物とペットボトルの水を渡し、それから戦闘圏での身の振る舞い方を指導している。

高齢の女性(名前は名乗らなかった)は、「私たちは見捨てられたのだ!」と不満を述べる。

「誰についてのことですか?」

「地元政権ですよ…。彼らは全てを知っていたのに。スジャにウクライナ軍が入ってくるよりずっと前に、彼らは物を集めて出て行ったのだから」

「あなたは、何かおかしなことが起こっていると疑わなかったのですか?」

「最初は疑いませんでした。後になってからは、もう遅かったのです。若者は何とかして、自分の車で避難しました。もし町に家族や親族が住んでいる場合は、彼らも連れ出していました。私にはここには誰もいません。私はだいぶ歳を取っています。もう80歳です。私のような人は、ここには2、30人います。私たちは皆、地元の寄宿学校の地下に隠れています」と手でレンガの3階建ての建物を示す。

「全部で何人残っていますか?」

「数えていません。しかし、思うに、100人未満でしょう」

「子供はいますか?」

「私たちの学校の地下には、3人の子供が隠れています。彼らは大体12〜15歳です」

「もう1つ質問があります。あなたはここで誰からも酷い目に遭わされていませんか?」

「誰も酷いことはしていません。それどころか、ウクライナ軍人は私たちを助けてくれています。彼らは良い人です。彼らには感謝しています」

スジャ住民のニーナおばあさん

近くをまた一人の高齢の女性が通る。ビニール袋で赤い雑種の犬を追い払っている。「あっちいけ、あっち行けと言っているだろう。こいつめが」

「あなたの犬ですか?」

「いいえ、私に付いてくるんです」

「ここの生活はどうですか? あなたのお名前は?」

「私は、ニーナばあさんです。74歳です。薬が見つからないのです」

「総じて、全ての物はありますか? 食べ物は持っていますか?」

「あとで『マグニト』に入ります。地元のスーパーです。石鹸と砂糖と水が要るので…」

「お店は営業しているのですか?」

「いいえ。私たちは、必要な物をただ取っているだけです。盗みですよ、あなたがそう言いたいのであれば」

「でも、ウクライナ軍人は、あなた方を何か支援してくれていますか?」

「ええ、彼らは助けてくれています。彼らが見捨てずにいてくれたことには、とても感謝しています」

「でも、どうしてスジャに残ったのですか? どうして避難しなかったのですか?」

「うまくいかなかったのです。私は、全てが始まったように、全てが終わると思っていたので」

「子供やお孫さんは?」

「息子はピーテル(編集注:サンクトペテルブルク)に住んでいます。娘はもう死にました。孫の1人が南部にいて、もう1人がここにいましたが、彼女はひい孫と一緒に出て行きました。他の近しい親族は私にはいません…。端的に言って、ここに残ることに決めたわけです。ここでは、誰も酷いことをしませんし、私も誰にも悪いことはしていません」

「あなたは、今起きていることに罪があるのは誰だと思いますか?」

「私は、誰が誰に攻撃しているのか、どこから撃ってきていて、ミサイルが飛んできているのか、わかりません…」

スジャ市中心部

彼女のその言葉の後、とても大きな爆発音が鳴り響いた。私の落ち着いた表情が、怯えた彼女を少し驚かせたようだ。私はもう似たような音に慣れている。彼女は、違う。

「あなたは、自分のところの大統領に何か言いたいですか?」

「何を彼に言うというのですか? 私は彼の政治を気に入っています。彼がロシアの首脳になってからというもの、年金は安定し、何でも買うことができるようになり、全て手に入るようになりました。プーチンが悪者だったら、今年彼が再選することはなかったでしょう。しかし、皆が彼を選んだのです」

「つまり、あなたは、彼がウクライナに対して始めた戦争を支持しているのですか?」

「私は殺人には反対ですよ」

レーニン像 スジャ市中心部

中心広場へ向かう。文化会館の前には、レーニン像が立っているのだが、しかし、顔の半分が欠けていて、悲しそうではある(なお、夕方、特派員たちが、キーウへ戻ってから、スジャでは非共産化が始まったとの報道が現れた。ソ連の指導者の像は消えてなくなった)。そして彼の視線は、最近まで「ロシア郵便」が営業していた建物に向けられている。イリイチ氏が「郵便、電信、電話、橋、駅を奪え」とかつて言っていたことからすれば、それは極めて象徴的である。

「ロシア郵便」 スジャ市中心部

遠くから、紺色のシャツを着た地元の男性が、私に手を振り、ウクライナ語で話しかける。「若者よ、少し良いですか?」私は彼のところへ急いで向かう。彼は、ロシア語でなく、ウクライナ語を話す最初の地元住民だ。

スジャ市の住民

「何か欲しいものがあるのですか?」

「ガスボンベが欲しいのです」

「何のために?」

「こういう小さいやつです」 男性は再びロシア語を話し出す。

「確かに、あなたのところにはガスが来ないのですね…」

「そうです…。旅行用のこういうガスボンベを探しているのです」

「どうやって助けたら良いかわかりません。あなたは地元民ではないのですか? スジャ出身ではなく?」

「スジャ出身ですよ」

「では、どうして私にボンベのことを聞くのですか? あなたの方が、それがどこで見つけられるかよく知っているでしょう。もしかしたら、ほらあそこの、スーパーマーケットとか? 地元の人が色々な物を取っていくのを見ましたよ」

「というのも、ガスボンベが必要だったことは、これまでなかったのです」

「うーん…」

「多分、『ピャチェロチカ』(編集注:別のスーパーマーケット)へ行きます」

「あなたがウクライナ語で私を呼ぶのを聞いたのですが、(ウクライナ語を)話すのですか?」

「ええ、近くに住んでいますからね」

「では、現在の状況についてのあなたの考えは?」

「時にはもっと酷いこともありますよ」

「その『もっと悪い』ことに罪があるのは誰だと思いますか?」

「神のみぞ知るでしょう…。おそらく、政権ですね」

「どの政権?」

男性は、意味のわからないことを呟いたので、私はもう一度聞いてみたが、しかし、それでも何も分からなかった。そして、彼は、多分ガスボンベを探しに走って行った。

スジャ市

5月1日通りに沿って進み、それから、ロジ・リュクセンブルク通りへと曲がる。レーニンに到着するためだが、像のことではなく(それはもう見たので)、スジャ寄宿学校のある通りのことである。そこの地下には、町に残った人の大半が隠れているという。道すがら、女性軍人に会う

「ウクライナに栄光あれ! あなたはジャーナリストですか?」

「英雄たちに栄光あれ! ええ」と、防弾チョッキの「PRESS」と書かれた文字を指差す。

「お名前は? どこから来たのですか?」

「私はミロスラウです。通信社『ウクルインフォルム』の記者です。キーウからです」

「私はSです」(名前と彼女が所属する旅団は、安全の観点から、公開しないように頼まれた)

「多分、寄宿学校へ行くのですね? 連れて行きますよ」

「ありがたいです」

私は彼女に、地元住民のウクライナ兵への態度や、彼らの話していることや、ウクライナ軍がスジャにどれだけ長くいるのかについて質問する。

「地元住民については…、彼らは、町から逃げ出した(地元の)政権について文句を言っていますね。避難を呼びかける連絡が一切なかった、私たちは見捨てられたんだ、と」

「あなた方に対しては、占領者に対するように接していますか?」

「実のところ、そんなことはありません。占領者とは呼ばれていません。しかし、少し怖がられています。『通っても良いですか』などということをいつも聞かれます。私たち軍人は、彼らに近付いて、『調子はどうですか』とか、食べ物や水や他の物は必要でないかとか、皆元気かと尋ねると、彼らはすぐに身分証明書を見せます」

「私が話をした人たちは、あなた方のことをとても肯定的に評価していました」

「そうですね、それは私たちがオークではなくて、普通だから、人だからでしょうね。ただし、本当は、心の中にはロシア人に対する大きな憎悪が燃えているのですが」

「でも、私たちはオークではない…」

「そして、私たちは国際法、条約には違反しません…。しかし、同時に、色々なおかしなことも聞かなくてはいけない。ちょうど昨日、男性が広場で私たちのところへやってきて、『お酌』を始めたのですが、『座って、盃を交わして、あらゆることについて合意しましょう』と言うのです。その前には、女性が『でたらめ』な物語で私たちを苦しめました…」

「町中にはウクライナ語を話す人が沢山いますか? というのも、私自身が見かけたのは一人だけなので。その方も大して話せず…」

「人々は、私たちとスルジク(編集注:ウクライナ語とロシア語の混ざった話し言葉)で話そうとしています。『ウクライナからの親族よ』『ハルキウからの兄弟よ』などと言います」

「プーチンについては彼らは何と言っていますか?」

「何も言いませんね。『内政』『兄弟』『悪いのはロシアでもなく、ウクライナでもなく、NATOとアメリカだ』とか。おかしな話です」

「あなた方はここにずっといるのですか?」

「ロシアは私たちの領土を占領しました。それを何とかして取り返さないといけない。そのために、私たちは今のところここにいます」

「あなたは、クルスク州を、たとえば、ヘルソン州の一部とハルキウ州の一部と交換できると思いますか?」

「見てみましょう…。無線で呼ばれています。行かなければなりません。寄宿学校はほらあそこです。手書きで、『地下には民間人がいる。軍人はいない』と書かれているところです」

「どうもありがとうございます! 気をつけて!」

スジャ寄宿学校

また爆発が聞こえる…。スジャから数キロメートルで、「グラート」が使われている。寄宿学校の地下にいる人々は、この大砲の音を聞く中で、私たちと話すことを嫌がった。しかし、難民としてウクライナのスーミ市へ行くかどうかと尋ねると、全員がきっぱりとこう答えた。「なぜだ?」

「絶対に行きませんよ…。私には、そこには誰もいないし、お金もないですし。何もないのです! ここに住みます」と言うのは、56歳のスジャ市民で、名前をアンドレイという(少なくとも彼はそう名乗った)。

「しかし、ここは安全ですか?」私がそう質問すると、その瞬間に複数回の爆発が聞こえた。迫撃砲チームが活動している。「それはあなたの権利ではあるのですが。ともあれ、あなた方をここに置き去りにしたプーチンにそのことを考えさせましょう」

「『置き去り(ザリシウ)』とはどういう意味かわかりません」(日本語編集注:記者は住民に対してウクライナ語で話しているが、住民がウクライナ語の動詞の意味を知らなかった場面)

「あなた方の言葉では、『置き去り(アスタヴィル)』です」

「ええ、私たちには、誰も全く警告しませんでした」

「何について警告しなかったのですか?」

「ウクライナ軍人が町に入ってくるということについてです」

「あなたのロシアがウクライナに侵攻したことくらいは、知っていましたか? それとも、それも『誰も警告しなかった』ですか? テレビは見ていますか?」

「今は見ていません。電気がないので…」

「今の話をしているのではないですよ」

「私たちにはテレビでは1つのことを述べていますが、あなた方には、おそらく全く違うことを話しているのでしょう。ところで…、ウクライナ軍のあなたの若者たちにはとても感謝しています。彼らは私たちを見捨てなかったし、よくしてくれるし、とても助けてくれています。食べ物や水、全ての必要な物を持ってきてくれています」

「あなた方の軍は、略奪をし、強姦をし、殺戮をしています」

「私は信じませんよ…。もう行きます。私はまだどこかでガスボンベを見つけないといけないので。電気も水もガスもない…。しかし、あなた方の若者は助けてくれています」

同行者は、私たちに対して、もし数分間、(ロシア側の)通過検問地点「スジャ」へ行きたいのであれば、装甲車に戻るようにと急かした。

「行きたいですよ…」

「であれば、急いだ、急いだ! もう戻らないといけませんよ」

その(ロシアの)徴兵兵が守っていたロシアの国境検問地点に残っているのは、廃墟であった。ウクライナの榴弾砲と無人機が、見事に役目を果たしたのだ。

通過検問地点「スジャ」


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