ゼレンシキー宇大統領の東洋大学等大学関係者への講演全文
ウクライナ大統領府広報室が講演全文を公開した。
ゼレンシキー大統領の講演内容は以下のとおり。
あなた方は4か月、「ウクライナ戦争」というタイトルのニュースを見聞きし、読んでいる。そのような省略は、出来事の全体像、物事の本質、ウクライナで起きていることの受け止め方を歪ませる可能性がある。本質を変えてしまうかもしれないのだ。
これは、「ロシア連邦が始め、ロシア連邦が続け、ロシア連邦が止めたがらない、ウクライナにおける戦争」である。ウクライナは、自らの大地と主権と領土を守っている。ウクライナは平和のために戦っている。そう、このような21世紀の残酷な逆説が、私たちにとっての現実である。
私たちは、武器を置くことはできない。なぜなら、置いてしまったら私たちが消えてしまうからだ。国家として、民として、単に人間として、消えてしまう。ロシアは戦争の道を選択した。ウクライナは平和への道で戦っている。
ロシアは、消滅させようと攻撃している。ウクライナは、生き残るために戦っている。戦争は、ロシア連邦という国の信念だ。ウクライナという国の信念は、平和だ。
私は今日、あなた方と、戦争についてではなく、平和について話したい。
あなた方、日本の若者にとっては、戦争は、何か本や映画、ゲームの中のものだろう。あなた方にとっては、日本の兵士が今、国を守りながら死ぬことがないこと、誰も殺さないこと、他者の土地を侵害しないことは、普通のことだろう。
辺りを見回して欲しい。あなた方がそのようなシンプルで当たり前だと思っていることは、本当はとてもありがたいことなのだ。ミサイルや爆弾のない空。破壊されず、崩れていない家や建物。身近な人たちや、同じ国の人々が誰も、怪我をしておらず、生きていること。それら全てがとても大きな「ありがたいこと」である。それ以上ですらある。私たちにとっては、現在、それら全てが奇跡である。
私たちは、その奇跡をもう一度私たちにとっての現実とするために、武器を手にして自らを守っている。人類文明にとってのシンプルかつ自然な現実とするために。その奇跡を、普通の社会、普通の国にとっての普通の状態とするためにだ。それは何かしら信じられないようなことだとか、空想的なことだとか、超常的なことではない。それは「単なる平和」なのだ。
それを今、ウクライナは守っている。私たちにとっては、平和こそが、戦いの理由、勝利の目的なのだ。未来のためなのだ。
そのために私たち皆が、いくつかの質問への答えを見つけなければならない。私たちの世界はどうなるのか。世界は、力が支配するのか、法が支配するのか。
自由と正義と人権が最高の価値である世界となるのか。それとも、それら価値が重みを持たない世界となるのか。
国連やその他国際機関の未来はどうなるのか。それらは、侵略者の責任を追及する能力のない国連安保理のような、閉鎖的な「選ばれた者たちのクラブ」を抱える官僚的機構のままであり続けるのだろうか。
それとも、戦争、飢餓を防ぎ、気候変動と効果的に闘う能力のある、効果的な機構へと変わっていくのだろうか。
そして、「核のスティック」を振りかざす独裁者の脅迫に対して、世界の対応はどのようなものでなければならないのか。
一から町々を再建するにあたって、それらの町がシンプルで環境に優しく、エネルギー効率の優れた、新しいコンセプトを持つようにするには、私たちはどのように再建すべきだろうか。
私たちは、日本の鉄道網の発展の経験を利用できるだろうか。エネルギー依存を解決するには? グローバルな食糧安全保障のためには何ができるだろうか。安全なサイバー空間はどうやって築けば良いだろうか?
私たちの国民のためには、どんな新しい技術を採用すると良いだろうか? 人々の生活をより快適にするにはどうしたら良いだろうか?
皆さん、親愛なる先生たち、学生たちよ!
ウクライナの主な目的は、平和だ。あなた方にとっては普通のものである平和だ。私たちにとっても普通のものだった平和だ。しかし、2014年、ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部で戦闘を開始した時に全てが変わってしまった。
2022年2月24日、ロシア連邦の侵略は、東部以外に、南部、北部、中部、西部へと広がり、全面的戦争がまるで津波のようにウクライナ全土を覆った。平和という、当たり前だったものが、思い出となった。あなた方には、それは普通のもので、日常であり続けている。それが、私たちとあなたたちの一緒の未来になると、私は信じている。
平和を大切にして欲しい! 学ぶ機会、発展する機会、創る機会、生きる機会という、その他のあらゆる利益を与える、主要な利益(編集注:平和)を守って欲しい。
平和を維持し、平和を守り、平和を裏切らないで欲しい。あなた方は、平和の達成、平和の支配のために、多くのことが行える。私たち皆が、世界中の平和に奉仕できるときは、今なのだ。
ありがとう。ウクライナに栄光あれ!
なお、ゼレンシキー宇大統領が、ロシアによる全面的侵略開始の2月24日以降、日本国民に向けて演説を行うのは、3月23日の日本の国会でオンライン演説に続き、今回が2回目となる。
写真:大統領府