国際司法裁判所、2条約でウクライナによるロシア違反主張を一部認める 大半は棄却
31日、ハーグの国際司法裁判所(ICJ)にて、「テロ資金供与防止条約」と「人種差別撤廃条約」の2つの条約へのロシアの違反を問う「ウクライナ対ロシア」の裁判の判決が言い渡された。ウクライナによる提訴時のロシアの条約違反に関する大半の主張は棄却されたが、いずれの条約でも一部の違反は認められた。
ウクルインフォルムのハーグ特派員が伝えた。判決はジョアン・ドノヒュー裁判長が言い渡した。
「テロ資金供与防止条約」については、ドノヒュー裁判長は、「裁判所は、ロシア連邦がテロへの資金供与を目的にウクライナへと資金を移動することを防止するために実質的方策を取らなかったことの説得力ある証拠はないと考える」と言い渡した。
同時にICJは、ロシアがテロに資金供与をした可能性のある個人に関してテロ資金供与の捜査義務を履行しなかったとも言い渡した。
他方でICJは、ウクライナが要求してきた補償は定めなかった。
「人種差別撤廃条約」についても、ドノヒュー裁判長はウクライナの主張の大半を棄却した。とりわけ、ロシアが人種差別の扇動・教唆に関する第4条に違反したとするウクライナの主張につき、ドノヒュー裁判長は、「ウクライナは、ロシア連邦の国家高官がクリミア・タタール人を対象とする民族(エスニック)あるいは民族(ナショナル)起源を根拠とする発言を行ったことにつき説得力ある根拠を提示しなかった」と発言した。
また裁判長は、「ウクライナはまた、ロシア連邦がクリミア・タタール人や民族的ウクライナ人に対する彼らの民族(ナショナル)あるいは民族(エスニック)起源に基づいた人種的憎悪を扇動・教唆することを目的とする私人の発言を防止し、処罰する義務を履行しなかったという主張を立証できなかった」と言い渡した。
同時に同氏は、2014年以降、クリミアにおける学校教育の編成の特殊性をロシアによる違反であることは認めた。
その上で同氏は、「同条約に関するウクライナのその他の主張は棄却する」と発言した。
これにより、裁判所は、ロシアに対するウクライナの主張の大半を棄却したことになる。また裁判所は、クリミア・タタール民族代議機関「メジュリス」の活動禁止機関のロシアによる国際法違反も立証されていないと判断した。
裁判長は、「裁判は、メジュリスの禁止がロシア連邦が第4条を違反したと主張されているウクライナが提出した提訴した第1条第1項にある差別行為にあたることの説得力ある証拠をウクライナが提出しなかったと結論づける。裁判所は、メジュリスの禁止に関する決定を採択したことで、ロシア連邦の政権あるいは機関が人種差別を助長あるいは扇動したとは確信していない」と伝えた。
裁判所は、ロシアが教育分野でウクライナ系マイノリティへの非差別義務に違反したことは認めた。
ICJでの判決言い渡し 写真:イリーナ・ドラボク/ウクルインフォルム
ウクライナ代表のコリネーヴィチ外務省特命大使は、判決が言い渡された後、記者団に対して、今回の判決は、ICJがロシア連邦による国際法違反を史上初めて認めたことになると発言した。
コリネーヴィチ特命大使は、「この初の判決は、ロシアが国際法、具体的にはテロ資金供与防止条約と人種差別撤廃条約の定める義務に違反したことを確認した。すなわち、史上初めて、ロシア連邦はこの世界最上の裁判所によって、国際法違反者だと認定されたのである」と発言した。
同氏は、裁判所が、ウクライナ東部の出来事の際にロシアはあり得るテロへの資金供与の捜査を行わなかったことを認めたこと、またクリミアにおいて、ロシアがウクライナ語による教育・学習を破壊し、2014年からウクライナ語のアクセスがないことを認めたのだと説明した。
その上で同氏は、今後ロシアが国際法違反者であるということは政治的な声明だけでなく、ICJの法的拘束力のある判決の上でも違反者となるのだと強調した。
これに先立ち、2017年1月16日、ウクライナは、ICJに対して、「テロ資金供与防止条約」と「人種差別撤廃条約」の2つの条約の違反に関して提訴を行なっていた。
提出されたウクライナからロシアに対する断罪内容は、ロシアによる違法武装集団への武器等供与、マレーシア航空機MH17の撃墜、マリウポリ・クラマトルシク民間人居住地区への砲撃、ヴォルノヴァハ近郊での民間バス破壊、ハルキウ市平和集会時の爆発、ウクライナ人・クリミア・タタール人コミュニティに対する差別、クリミア・タタール民族代表機関「メジュリス」の活動禁止、一連の失踪・殺人・家宅捜索・拘束、ウクライナ語・クリミア・タタール語の教育機会の制限となっている。
2019年11月8日、ICJは、「テロ資金供与防止条約」と「人種差別撤廃条約」の2つの条約のロシアによる違反を問う「ウクライナ対ロシア」の管轄権を認めていた。