「中国スカイライゾン社によるモトール・シーチ社獲得は看過してはならない」=専門家見方

軍・コンバージョン・軍縮研究所(CACDS)は、米国の制裁対象となった中国スカイライゾン社による航空機用エンジン製造企業「モトール・シーチ」の獲得は看過してはならないと主張している。

同研究所がウェブサイトに記事を掲載した

記事には、「ウクライナのユニークな企業モトール・シーチ社を中国国営企業スカイライゾン社が獲得した場合の、ウクライナ国家安全保障にとって生じ得る脅威に関するCACDSの暫定評価が裏付けされた」と書かれている。

同研究所専門家は、2021年1月14日の米商務省産業・安全保障局が軍事エンドユーザー・リスト(MEUリスト)に中国のスカイライゾン社を加えたこと、その際同社が「軍用航空機エンジンのよううな、軍事品の開発、製造、サービス提供を行う能力のある企業」であることを指摘している。ウィルバー・ロス商務長官は、その際、スカイライゾン社は中国側が主張するような民間企業ではなく、国営企業であり、中国側の「外国の軍事技術獲得・合法化の試みは、米国の国家安全保障と外政利益に重大な脅威を生み出している」と指摘していた。

ロス長官はまた、「その行為(編集注:制裁)は、スカイライゾン社と中国人民解放軍との直接のつながりに関係する輸出者への警告になるもの」と説明していた。

この点から、研究所は、ウクライナのモトール・シーチ社と中国のスカイライゾン社の協力は、次のような脅威を生み出すと指摘している。その脅威とは、(1)国内のヘリコプター開発可能性が下がる、(2)ロケット/ミサイル開発が危機に陥る。軍のためにも、輸出のためにも、航空産業発展にとってもマイナス、(3)無人機生産計画発展の展望が危機に陥る、というもの。

さらに、同研究所は、同社の重要な航空エンジン製造技術が中国の企業からロシアへと渡る可能性も排除できないと指摘している。特に、中国とロシアの間には、現時点でヘリコブター分野の共同プログラムが実施されており、そこでモトール・シーチ社の製品が利用される可能性があるという。さらに、ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)のパートナー国との間の軍事協力発展に脅威となると指摘している。

同研究所は、米国によるモトール・シーチ社への直接制裁の可能性もあり、その場合には、あらゆる今後の計画の実現にとっての脅威となると主張した。

なお、ウクルインフォルムの問い合わせに対して、ウクライナ独立禁止委員会は、2021年1月15日の時点で、モトール・シーチ社の中国企業への株式売却に関する案件の審議日程は定められていないと回答している。

2019年11月末、アイヴァラス・アブロマヴィチュス国営防衛企業(複合体)ウクルオボロンプロム社(当時)総裁は、中国スカイライゾン社はすでにモトール・シーチ社の株式を50%以上獲得していると発言していた。同年11月21日には、ウクルオボロンプロム社が独立禁止委員会に対して、本件の審議を2か月間延長する要請していたことが判明した。

2019年12月13日、ヴヤチェスラウ・ボフスラウ・モトール・シーチ社名誉総裁は、記者団に対して、同社の株式を中国に売却したことを認めていた。ボフスラウ氏は、中国は株式購入と同時に、2年以内に2億5000万ドルの投資をモトール・シーチ社に対して行う義務を負ったとも話していた。

しかしながら、モトール・シーチ社の売却に関しては、米国政権が反対を表明している。2019年8月、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(当時)がキーウ(キエフ)訪問時、ウクライナのモトール・シーチ社の中国への売却の合意に関する最終的な決定はウクライナの主権的権利であると述べつつ、「私たちは、一般的に、中国側が、とりわけ米国で行っている、不正義かつ不公正な慣習についての警告と懸念を(ウクライナ政権側に)伝えた」と述べている。ボルトン氏は、その際、懸念の理由として、軍事技術の窃取を指摘している。