高等司法評議会の再編 ウクライナの裁判システム浄化法案の採択

ウクライナ最高会議(国会)が大統領の提出した裁判改革法案の2本目となる、高等司法評議会再編法案(第5068)を採択した。この法案は、ウクライナに何をもたらすのだろうか。

執筆:ミロスラウ・リスコヴィチ(キーウ)

7月14日、最高会議議員259名が、高等司法評議会のメンバーの公正性の調査を定める重要法案を採択した。同法案はまた、裁判官に対する懲罰手続きも変更する。「高等司法評議会」とは、裁判官の任命や、裁判官への懲罰、解任を最終的に決定する、司法システム上の重要機関である。同法案の採択は、西側パートナー国や、ヴォロディーミル・ゼレンシキー大統領が歓迎しており、真の裁判改革に向けた一歩だと形容されているものだ。大統領は、「高等司法評議会改革の採択は、裁判システムを効果的に変化するための不可欠な基盤を作り出した。それは、誇張なく、ウクライナにとって歴史的な出来事である」と強調した。

その法案には何が書かれているのだろうか。その質問にできるだけ簡潔に答えてみることにする。

1.同法案は、「倫理評議会」の設置を定めている。倫理評議会は、ウクライナ裁判官評議会が定める裁判官あるいは退官裁判官から計3名と、国際機関が定める3名(国際専門家)の計6名で構成されることになる。倫理評議会の決定は、過半数(4票以上)で採択される(その際、国際専門家の票が決定的役割を担う)。

2.倫理評議会は、高等司法評議会のメンバー候補が専門倫理と公正さの基準に合致しているかどうかを調べ、その後、選出・任命機関に対して、高等司法評議会メンバーとして任命するのに値する推薦候補者リストを提出する。候補者リストに掲載される人物の数は、高等司法評議会の空席ポスト数の少なくとも2倍はなければならない。

3.倫理評議会は、評議会メンバー公正が確定した日から3か月以内に、同法発効以前にすでに任命されていた高等司法評議会のメンバーの、議長を除く全員につき、専門倫理・公正性の基準に従った評価を行わなければならない。

4.倫理評議会は、その評価に従い、高等司法評議会メンバーの解任勧告を行うことができる。

5.同法案はまた、個別の独立機構となる「高等司法評議会規律監査庁」の活動内容、同監査員の任命、法的地位、権限を定める。

なお、同法案は、現在ウクライナ大統領の署名を待っている段階である。私たちはその間、司法専門家たちに問い合わせ、彼らに、同改革の評価や、満足度について質問した。

市民団体「汚職対策センター」(ANTAC)で司法部門を率いるハリーナ・チジク氏は、ウクルインフォルムへのコメントにて、今回議員が採択した同法案第5068は、高等司法評議会の将来のメンバー選出のプロセスにおいて、国際専門家に決定的権限(票)を与えるものであり、同機関から尊厳のない人物を排除するのに有効な手段を定めていると説明する。「高等司法評議会は、裁判改革の鍵である。高等司法評議会に裁判システム上の最大の権力が集中しているのであり、その高等司法評議会が裁判官の任命、懲罰、解任に関する重要決定を採択しているからだ。そのため、高等司法評議会のメンバーの公正性に、その他全ての裁判官の公正性が左右されるのである」。

ハリーナ・チジク

チジク氏は、過去7年半、多くの改革法が採択されてきたが、しかし「重要な決定を採択する機関(編集注:高等司法評議会)が浄化され、刷新されない限りは、これまでの改革は真の変革にはならないのだ」と強調した。

司法問題に特化して活動する市民団体「デユーレ」もまた、同法案を肯定的に評価している。同団体のイリーナ・シバ専務取締役は、「高等司法評議会メンバー選出時に国際専門家が決定的役割を担う形で法案を採択した最高会議議員たちに強く感謝している」と発言した。同氏は、同法案は、今後2か月間で「倫理評議会」を設置することを定めており、倫理評議会が高等司法評議会のメンバーやその候補者の公正性を評価していくことになると説明し、「それが同機関のより良質な活動を保障するメカニズムだ」と指摘した。

シバ氏は、高等司法評議会は、本来司法政権の公正性と独立性を確保することが課題であるにもかかわらず、実際には長年、身内同士で助け合うような状況を続けてきたと指摘する。「なぜなら、同評議会のメンバーは、利益相反にあり、最高裁判所の裁判官ポストに自らの友人や親族を推薦したり、著しい人権侵害の事例で、有罪判決を回避したりしてきたのだ…。」

シバ氏はさらに、高等司法評議会こそが、キーウ(キエフ)区行政裁判所に関する重要捜査の対象となっているパウロ・ヴォウク同裁判所裁判長やその他の人物の停職を拒否したのだと指摘し、そのため、高等司法評議会は実質的に全ての司法政権を人質に取り、独立し、公正さを持つ裁判官に対しては懲戒処分の可能性でもって圧力をかけ、彼らが汚職と闘おうとしたり、案件を客観的に審理したりしようとするのを妨害してきたのだと説明する。同氏は、「だからこそ、高等司法評議会を現在の非公正な人々から浄化することが極めて重要なのだ。彼らは、真の裁判改革に抵抗し続けてきた者たちだ」と強調した。

同氏は、これまでにもゼレンシキー大統領の裁判所を改革する試みが高等司法評議会に阻止されてきたことを喚起する。同評議会は、高等裁判官選考委員会の委員選考委員会で国際専門家が活動するための基準を非現実的な内容にしていた。シバ氏は、「その非現実的な基準により、選考委員会の形成が『凍結』してしまい、ウクライナは1年半以上、裁判官の空席を埋めることができなくなっているのだ」と指摘する。

その結果として、ウクライナでは、裁判官の不足が深刻となっている。シバ氏は、「その結果、どんなにシンプルな案件であっても、審理が数年間かかるようになっている」と説明した。

では、今後はどうなるのか。高等司法評議会はどれだけ迅速に浄化されるのか。まだ誰かがこの重要なプロセスを妨害できる可能性があるのだろうか。

ハリーナ・チジク氏は、倫理評議会にはその設立の瞬間から高等司法評議会のメンバー全員の公正性を確認し終わるまでの期間は6か月しかないと指摘する。「彼ら(高等司法評議会メンバー)は現在17名だ。しかし、最高裁判所のヴァレンティナ・ダニシェウシカ裁判長も高等司法評議会に入っており、倫理評議会は彼女を確認対象としない。倫理評議会が高等司法評議会メンバーの公正性に疑義を呈した場合、そのメンバーの権限は自動的に停止され、メンバーの任命を担う主体が最終的判断を下すまでその停止状態が続く。その期間は3か月だ。つまり、遅延がなければ、1年後には高等司法評議会の浄化プロセスは終わっていることになる」と説明した。

もしその3か月の間に解決しなければ、高等司法評議会のメンバーは自動的に解任されるという。

シバ氏は、「高等司法評議会の多くのメンバーの悪どさ、市民社会や国際パートナーの関心を考慮しながら、私たちは、彼らがパウロ・フレチキウシキーのような(不評の)人物をポストに止めるために自らの評判を犠牲にすることはないと期待している。また、高等司法評議会メンバー自身、自らに下された非公正さとの評価について、最高裁判所に訴えることもできる」と指摘し、倫理評議会がその評価を訴えられた場合、審理を行う可能性のある最高裁判所の破棄院が、その問題に関して「人事」の観点のみで公正な判決を下すかどうかには、残念ながら確信が持てないと述べた。

イリーナ・シバ

さらにシバ氏は、高等司法評議会改革に賛成しなかった祖国党や野党生活党が憲法裁判所にて違憲審査の提訴を行う可能性もあると指摘する。「改革されていない憲法裁判所を通じて、その法律を破綻させようとするかもしれないということだ」と同氏は言う。

チジク氏もまたその点を強調する。「もしかしたら、親露勢力が裁判改革を憲法裁判所に訴えるかもしれない。そして今の憲法裁判所裁判官の半数以上は、私たちが改革しようとしている現行の司法システムの出身者であることは忘れてはならない」と同氏は指摘した。

そうであれば、次の改革対象は憲法裁判所でなければならない。

シバ氏は、「議会が次にしなければならないことは、憲法裁判所(改革)への着手だ。さらに、最高裁判所からも公正でない裁判官を排除し、浄化しなければならない」と指摘する。

同氏は、現在、最高裁判所には、その公正さに甚大な疑義のある裁判官が52名入っているとし、それは市民団体「デユーレ」の分析ペーパーにて説明されていると伝えた。

さらには、悪名高い「ヴォウクのキーウ区行政裁判所」もある。ゼレンシキー大統領は、4月の段階で、そのウクライナの裁判システムの「恥」である同裁判所の解体法案を提出している。

シバ氏は、「キーウ区行政裁判所は、高等司法評議会改革へ直接的な影響力は持たない。しかしながら、私たちは、国家汚職対策局(NABU)の捜査で判明したように、パウロ・ヴォウク(編集注:同裁判所裁判長、汚職捜査の容疑者)が高等司法評議会や憲法裁判所の個別のメンバーに影響力を及ぼしていることを知っている。そのため、キーウ区行政裁判所の問題解決も先延ばしすべきではない。キーウ区行政裁判所の裁判官は、毎日中央政権機関に関する係争に判決を下しており、その判決を通じて、政権高官に圧力をかけたり、彼らの決定に影響力を及ぼしたり、さらには彼らを停職させたりもできるのだ」と警告した。