ゼレンシキー宇大統領の新年の挨拶【日本語全文】
ウクライナのゼレンシキー大統領は、2024年12月31日の年越しの前にウクライナ国民に対して、一年の総括と2025年の抱負を伝える動画演説を公開した。
ゼレンシキー宇大統領の新年の挨拶
ウクライナ大統領府がゼレンシキー大統領の演説を公開した。ウクルインフォルムが全文を日本語に翻訳する。
親愛なる民よ!
私の後ろには「母なるウクライナ」像が立っている。強固に自分の足で立つウクライナだ。頭をもたげることなく、前を向き、自らの未来を信じ、ロシアが私たちにもたらしたあらゆる悪への勝利を信じているウクライナだ。盾と剣を持ち、公正な平和を達することのできるウクライナだ。自らの民を、自らの色を、自らの独立を守るウクライナだ。私は、今日、ウクライナを大切にし、自らの国を守り、この国のことを愛を持って「私の国」と言う人に対して呼びかける。私は、2024年につきあなた方に感謝している。あらゆる困難を尊厳を持って乗り越えている私たちの人々に対してだ。ウクライナ国民であることが誇りだと思っている人々にだ。私にとって誇りは、そのような人々、ウクライナの男女のことである。どのような巡航ミサイルも、羽を持つ人々を倒すことはない。
この閏年を通じて、私たちは毎日それを証明してきた(編集注:ウクライナでは閏年は通常困難な年だと考えられている)。そして昨日、私たちはそれを目にした。拘束されていた189人のウクライナ人が故郷に戻ったのだ。彼らは故郷で新年を祝う。なぜなら、私たちは私たちの人々を帰還させているからだ。今年は1358人。これまでに帰還させたウクライナ人は3956人。そして、私は大まかな数字は言わず、非常に正確な数字を述べている。なぜなら、彼ら一人一人が人間であり、私たちの人であり、とても大切な人だからだ。彼ら一人一人が戻ってくることは、ウクライナに命を取り戻すということなのだ。
そして、毎回、それが生じる度に、私たち皆が泣く。感動した母親も、父親を待ち望んでいた子供も、ウクライナ大統領であろうと、その差に意味はなく、私たち皆が泣く。なぜなら、私たち皆が人であり、自らの中に光を守っているからだ。
そして、そのおかげで、私たちはこの1000日強を生き延びることができた。必要な時に、勇敢であることができた。大切な時に、強くあることができた。教師、医師、電力関係者、輸送従事者がそうしてきたように、あらゆる防空兵、機動火力班がそうしてきたように。若者たちは今年、1310発の巡航・弾道ミサイル、7800発のイランの「シャヘド」を撃ち落とした。ブラボー! あなた方は誇りだ! ありがとう! 私たちは今年を一緒に乗り越えた。2024年が引き起こしたあらゆること一緒に乗り越えた。勝利も失敗も。喜びも挑戦も。うまく行った時の、幸せの嬉し涙も。そして、心に傷を負った時の痛みある涙も。
7月、朝、オフマディト(編集注:ロシア軍のミサイル攻撃を受けたキーウの小児病院)。弱者と臆病者はあのように戦うのだ。私たちは、あの子供たちの目を決して忘れない。そして、やつらを許すことはない。悪が死をもたらす時、私たちは人間の鎖で応える。それが、ウクライナ人の力なのだ。そして私たちの団結は宇宙からすら見えた。神がそれを目にした。私たちがどのような人であるかを。どんな子供たちがここにいるのかを。オフマディトの少年の、信じ難い程に成熟した強い瞳を私は決して忘れることはない。その瞳にどれほど生命力があり、エネルギーがあり、尊厳があることか! そして、この一人の子供が、プーチンよりどれだけ強いことか! 私たちの全ての子どもたちが、あらゆる悪よりもはるかに強いのだ。この戦争に勝利しているウクライナの少年少女たちは、オンラインで、地下学校で学び、世界的な学術コンクールで優勝し、私たちの軍のために資金を集め、私たちの軍の防衛に役立つ技術的解決策を発明しているのだ。あなたたちは素晴らしい世代だ! あなた方のために私たちは戦っているのだ。それこそが、私たちのヒーローである戦士たちが何よりも守っているものだ。自分たちの力で独立を守り続けている人たち。意志と勇気が毎日、今、この大晦日に戦っている。あらゆる方面で。実にあらゆる方面で。東部は、非常に、非常に困難で、とても苦しい。しかし、私たちは信じているし、私たちの仲間が生き残ること、あなた方の心と勇気が生き残ることを知っている。全ては、あなた方が今年、私たちのスーミやハルキウ、ヘルソン、ザポリッジャを諦めなかったことによるものだ。ロシアは真剣にそれらの町を望んでいた。しかし、代わりに、戦争をロシアへ、元来たところに戻すことで、占領者に報いたのだ。そして、我々の土地に災厄を撒き散らした者は、それを自分のところで受けることになった。クルスク州やその他の場所に、今年、私たちの返答、私たちの正義が到来することになった。
正義。それは、ただの一語ではあるが、その後ろには何十万人もの私たちの人々がいる。私たちの防衛産業と科学。私たちの知能と仕事が私たちをより強くしている。というのも、今年、ウクライナの兵士たちが戦場で手にしたものの30%はウクライナ製の物だったからだ。
ある工場で、私は若いエンジニアにこう尋ねた。「あなたたちは、どのようにうまくやっているのだ? 彼らはどれだけのことを達成しているのだ?」と。すると、彼は冗談めかしてこう答えた。 「そりゃまあ、彼らは単なる人間じゃないからさ、彼らはロケットだからね」と。
わかるだろうか、そういう時私は、90年代以降、国家がこのような私たちの人々の存在に気付けなかったことを、一市民として恥ずかしく感じるのだ。そして、一年中彼らのような人に会っては、ウクライナが彼らを必要としていることを、彼らが喜んでいることを聞いては、私は誇りを感じている。そして、ウクライナが再び、国産ミサイルを製造していることにもだ。そして初めて、1年間に100万機以上の無人航空機を生産していることにもだ。それは、敵にウクライナ語を学ばせている。 「パリャヌィツャ」「ペクロ」「ルタ」。「ネプチューン」「サプサン」という言葉で震え上がらせている。これらは全てが我々のミサイルなのだ。ウクライナ国産のものだ。「ホール」「ヴァンピル」「コリブリ」「カミク」「リューティー」「ヘヴィーショット」「ファイアポイント」。これらは全てが、私たちの無人機だ。ウクライナのドローンだ。そしてこれらは全てが我々の根拠だ。公正な平和のための根拠なのだ。
公正な平和は強い者のみが達成できる。そして、私たちは、自分たちが強い存在であることを何度となく証明してきた。我々のスポーツマン、オレクサンドル・ヒジュニャクは私たちの戦車だ。オリハ・ハルラン、ヤロスラヴァ・マフチフ、私たちが応援してきたオリンピック選手とパラリンピック選手全員が、悩み、頭上に青と黄の旗がたなびいた時、喜びと誇りから叫び声をあげた。私たちは攻撃を受けながら、オレクサンドル・ウシクとともに反撃を加えた。それら全てのことは、スポーツを超越した話である。それは、私たちの気質を示している。私たちが何者であるか、私たちに何ができるのかを示している。意味と象徴の話だ。サシュコ(編集注:ウシク選手)の試合は、ウクライナ全土の毎日の戦いと同じで、敵が自分よりどれだけ大きいかは問題ではなく、自らの意志がどれだけ強いかが大切なのだということを教えてくれる。そして、それは全世界に息を呑ませているのだ! そして、全ての首脳が私に対して率直にこう言った。「ノートルダム大聖堂のホール全体があなた方に拍手喝采している。こんなことは見たことがない。皆があなた方に拍手していた。ウクライナの全ての人々に。それが、ウクライナに対する尊敬だ。独立とはそういうものなのだ。
それは、私たちが自分のものを明け渡さないということだ。私たちの人々のこと、捕らわれている人のことを忘れないということだ。そして私たちは、不幸にもまだそこで拘束されている全ての人々のために闘っていく。ロシアにより占領に追い込まれたが、ウクライナの心までは占拠されることのなかったあらゆる人々のために、私たちは戦う。どんなに邪悪な人々が銃を突きつけ、身分証明書を配ろうとも、私たちの人々はこう言う。「ここはあなた方の故郷ではない。あなた方は一時的な存在だ」と。そして、持ち込まれた雑草はいずれも、私たちの大地に根付くことはないし、先住民を打ち負かすこともない。そして、私はいつもウクライナ人の祖父の話を思い出す。彼は当時占領者にこう尋ねられた。「今は何『時』か?」と。その時、占領者は祖父の返答を聞いた。「今は、(編集注:ロシア軍が)私たちの土地から立ち去る『時』だ」と。それこそが、人々の内側にある自由なのであり、占領することのできない、内なる意志なのだ。そして私は、一時的に占領されている地域で、その意志を持つすべての人に呼びかけたい。親愛なるウクライナ人よ! 私たちの時間帯に合わせて新年を迎え、今まさにこういう言葉を耳にされてると思う。クリミアで、ドンバスで、メリトポリで、マリウポリで……ウクライナのことが待たれているあらゆる場所で。そしていつかウクライナが一つに戻る場所で。そしてウクライナ人を分断する唯一のものは、気前よく食事の並べられたテーブルである。
ウクライナの人々皆がそのような食卓につくことを私は知っている。今は国外にいながら、ウクライナを心に秘めている人々がいる。ワルシャワや、ニューヨークや、ブエノスアイレスであろうと、今日、新年の最初の瞬間に、「(ウクライナは)いまだ死なず…」という言葉が鳴り響くだろう。ベルリンでも、プラハでも、東京でも、今日、彼らはこう述べるだろう。「ウクライナに栄光あれ!」と。そして世界はこう答えるだろう。「英雄たちに栄光あれ!」と。なぜなら、ウクライナは孤独ではないからだ。なぜなら、私たちには友人がいるからだ。そして、この戦争の最初の瞬間から、米国はウクライナと共にあった。そして平和の最初の瞬間も、米国がウクライナと共にあると私は信じている。
ロシア侵攻後のジョー・バイデン氏との会話を覚えている。当選後のドナルド・トランプ氏との会話も覚えている。下院議員、上院議員、一般の米国人、米国、欧州、そして世界中で私たちを支えてくれている全ての人たちとの会話を覚えている。こうした様々な会話の中で、大切なことではいつも一致していた。それは「プーチンは勝てない」「ウクライナは勝つ」ということだ。
私は、その言葉を実現してくれた全ての米国民に感謝する。私は、アメリカの新大統領が平和をもたらし、プーチンの侵略に終止符を打つ願望と能力を備えていることを信じて疑わない。彼は、能力なくして、願望が叶えられないことを理解している。というのも、これは両者を落ち着かせなければならないストリートファイトではないのだ。これは、文明的な国家に対する、狂気の国家の全面侵略なのだ。そして私は、私たちが米国とともに、その力を発揮することができると信じている。ロシアに公正な和平を強制すること。つまり、ロシアが行ったあらゆることを忘れず、なかったことにしないことだ。ブチャ、オレニウカ、アウジーウカ、破壊された全ての町や村。だからこそ、「一から始めよう」では、真に公正な平和は実現しない。なぜなら、現在のスコアは「0対0」ではないからだ。ロシアに命を奪われた何千、何万のウクライナ人がいるのだ。
そして今日、ウクライナの心は傷跡に覆われている。それは戦死した英雄たちの名前だ。世界中のどの家族も、このような喪失感を味わうことがありませんように。私は、世界中のどの指導者にも、このような喪失を味わってほしくないと思う。ウクライナのために命を捧げた兵士の母、妻、子供の目を見て、彼らの言葉を聞こう。「どうか全てを無駄にしないで欲しい」。何千人もの兵士たちは、決して忘却の彼方に行ってしまったわけではない。彼らは私たちと共にあり、いつも私たちと共にいて、天国から私たちを見ている。そして、私たちに彼らを失望させてはならず、彼らの偉業と記憶を裏切ってはいけない。
そして来年は毎日、私、私たち全員が、かなり強いウクライナのために戦わなければならない。なぜなら、そういうウクライナだけが尊敬され、話を聞いてもらえるからだ。戦場でも交渉の席でも。
今年、私たちと一緒にいてくれた全ての人に感謝する。私たちのパートナー国、同盟国、友人、指導者たち。本当に指導者たちに感謝する。そう呼びかけることが慣例だからというわけではなく、彼らが行動によってリーダーシップを示しているからだ。ウクライナに来ることを恐れることない人たち。私たちが並んで立つことをめにすることがどれほど貴重なことか知っている人たち。距離と時差があるにもかかわらず、共に働き、解決策を見つけ、結果を出した人たち。「パトリオット」「アイリス」「ナサムス」「アタクムス」「F16」「スカルプ」「ストームシャドー」。チェコのイニシアティブと100万弾の砲弾。デンマーク・モデルと数億のウクライナ国内生産。27本の安全保障協定と400億ドルの私たちの軍への支援。欧州連合(EU)と500億ドルの私たちの経済への支援。G7とロシア凍結資産の500億ドルの決定。それらが私たちの大きな国際的活動だ。それが私たちの大きな国際的活動だ。パートナーたちに、彼らの行ってきたこと、チームの活動に感謝する。軍、政府、大統領府、議会、地域、コミュニティ、ボランティアの人々。私たちの国を内側で強くし、人々をケアしている全ての人に感謝する。
ウクライナを立ち上がらせ、耐え抜かせてくれたすべての人に感謝している。ウクライナは平和と強いウクライナへの道を歩んでいる。そして欧州のウクライナへと。そして、それはもはや単なる言葉ではなく、今年6月にウクライナのEU加盟交渉が開始されたことによってもたらされた現実である。そして、これは歴史的な結果である。この道は不可逆的である。そしてウクライナはEUに加盟する。そして、いつの日か、ウクライナはNATOに加盟し、NATOを強化する。それは世界の強靭性を強める。欧州の結束は、欧州大陸の全ての人々の運命を左右する。そして、この結束は全ての人々が尊重すべきだ。ハンガリーもスロバキアも。私は、ハンガリー国民もスロバキア国民も、実際には私たちと一緒に、ウクライナとともに、ウクライナ人とともに、真実の側にいることを知っている。これらの国の政権も真実を認識すべきだ。ウクライナがヨーロッパにいることを恐れる必要はない。ロシアをヨーロッパから締め出すために全力を尽くす必要がある。ウクライナが耐え抜けなければ、その戦車、ミサイル、悪がさらに確実にもたらされるだろう。ロシアが今日、あなたの手を握ったとしても、明日、同じ手であなたを殺すことはないとは限らない。ロシア人は自由な人を恐れている。馴染みのないものを。ロシア人は自由を恐れている。彼らはプーチンの下で生まれ、プーチンの下で学校に通い、プーチンの下で兵役に就き、プーチンの病んだ思想のために死んでいる。
だからこそ今日、自由を守るすべての人々を支援することが重要なのだ。キシナウ(編集注:モルドバ首都)で自由を手放さない人たちを。トビリシ(編集注:ジョージア首都)で自分たちの未来のために戦っている人たちを。そして私は、私たち皆がこう述べる日が来ると確信している。「ベラルーシ万歳」と。
親愛なるウクライナ人よ!
2025年が私たちの年に、ウクライナの年になりますように。平和とはプレゼントされるものでないことは分かっている。しかし、私たちはロシアを阻止し、戦争を終わらせるためにあらゆることを行う。それが私たち一人一人が望んでいることだ。
私たち一人一人の後ろに「母なるウクライナ」がいるのだ。そして、彼女は平和に暮らすに値する。私は私たち皆にそれを願う。ウクライナの大統領として、また一市民として、私は来年、それら全てのために全力を尽くす。私は一人ではないことを知っている。何百万人ものウクライナ国民が私と肩を並べていることを知っている。強く、自由で、美しく、独立しているウクライナ国民が。
親愛なる民よ、あけましておめでとう!
あけましておめでとう、ウクライナ!
ウクライナに栄光あれ!