ヴァルソロメオス1世コンスタンティノープル全地総主教

コンスタンティノープルの母なる教会は、1000年の間ウクライナの教会の面倒を見てきた

8月20日夜、ヴァルソロメオス1世コンスタンティノープル全地総主教がウクライナに到着する。それは彼の3回目のウクライナ訪問である。一度目は1997年9月にオデーサを、二度目は2008年7月にキーウ(キエフ)を訪問した。今回の訪問は、ウクライナ正教会が独立を得てから初となること、そして、ウクライナ独立30周年記念式典に向けた訪問であることから、特別なものとなる。(編集注:このインタビューは、ウクルインフォルム・ウクライナ語版に8月20日に掲載されたものです。)

ヴァルソロメオス1世コンスタンティノープル全地総主教は、ウクルインフォルムへのインタビューにて、ウクライナ正教会成立の道、その成長と強化、外部からの影響力行使の試みとそれへの対抗、コンスタンティノープル総主教庁のコロナ危機とコロナワクチンへの姿勢について話してくれた。

執筆:オリハ・ブドニク(イスタンブル、アンカラ)

母なる教会は、1000年の間ウクライナの教会の面倒を見てきた

全地総主教、今日、ウクライナ正教会が独立のトモス(編集注:正教会の交付文書)を受け取ってから、初めてとなるあなたのウクライナ訪問が始まります。どういう予定で、どういう期待を抱いていますか。

何よりまず、私は、ゼレンシキー大統領の招待を受けて、独立30周年記念式典への参加し、ウクライナの人々と喜びを共有するために、ウクライナを訪問します。また、私は、エピファニー・キーウ(キエフ)と全ウクライナ府主教(ウクライナ正教会首座主教)からも正式な招待状を受け取っています。私は、新たに作られたウクライナ正教会の前進を嬉しく思うだろうと確信しています。1000年以上前、コンスタンティノープルの母なる教会から、ヴォロディーミル聖公の願望により、あなた方の先祖がキリスト教への洗礼を受けました。以降、コンスタンティノープルの教会が、関心を示すことを止めたことは一度もなく、あなた方皆とあなた方の現地の教会の面倒を見てきたのです。コンスタンティノープルとキーウの関係は、10世紀にわたって強固かつ揺るがずにあり、現在、それがかつてないほどの価値を持っています。このインタビューは、私が個人的に話したいと思っている聖職者や信者、ウクライナにいる私たちの姉妹、兄弟に対する愛と団結のメッセージなのです。

教会を恐れさせることはできない。嘘も中傷も、信心を強めるだけである

全地総主教、私たちは、あなたのウクライナ正教会に関する注意、支持、世話に感謝しています。あなたは、ウクライナ正教会の前進、現在の発展に満足していますか。ウクライナ正教会の強化のためにどのようなアドバイスを与えますか。

私たちは、独立のトモス(正教会の交付文書)を授かって以降のウクライナ正教会の進展に大変満足しています。ウクライナ正教会は、外部の影響力からの同教会の独立を望まない特定勢力からの不幸な中傷と欺瞞の対象となっていますが、私たちは、同教会の典礼と証言を誇っています。

ウクライナ正教会が苦しんでいることの全てを、母なる教会である全地総主教は心配しています。残念ながら、どうやらある人々は、嘘を話すこと、自分勝手に宗教上の破壊を行うことに慣れてしまっており、そうすることで全地総主教庁や、各地の独立教会や新たに作られたウクライナ正教会を脅迫できると思っているようです。しかしながら、キリスト教を脅かすことはできません。教会を恐れさせることはできないのです。嘘と中傷で私たちが悲しむことはありません。反対に、それらは教会法、伝統、教会の真実への信心を強めるのです。

エピファニー・キーウ府主教は、分別のある首座主教であり、効果的に、正教会の教会法の伝統の精神の中で教会の物事を運営できる人物です。私たちには、彼に対する信頼がありますし、私たちはウクライナ正教会の将来について好意的な希望を抱いています。私は、彼に、信者の啓蒙と団結をもたらす唯一の真っ直ぐな道を進み続けるよう呼びかけています。

ウクライナ正教会独立の正教会法上の合法性に疑問を投げかける者は、教会の基準に基づいて行動していない

ウクライナ正教会について、「非合法だ」とか「誤った」独立だなどと述べているモスクワ総主教庁の兄弟・姉妹たちには、あなたは何と述べますか。

彼らの抱える問題は、現実を認めることが困難であること、あるいは彼らが現実を認めることを拒否していることにあります。彼らはまた、教会の独立が意味することを理解していないのであり、歴史や、教会法の独立付与の実践について把握していないのです。彼ら自身が帰属を望むロシアの教会(編集注:ロシア正教会)もまた、その独立と総主教庁の地位を(コンスタンティノープル)全地総主教庁から得たのです。とすれば、彼らはなぜ、ウクライナ正教会の場合は、(編集注:ロシア正教会の場合と)同様の独立に関する教会法上の論拠には同意したがらないのでしょうか。その論拠は、ロシア正教会やその他の正教会が全地総主教庁から独立と総主教庁の地位を受けた際と同じものです。全地総主教庁の介入が教会法上違法なのではなく、実際には、その介入に疑問を投げかけることが違法なのです。彼らが教会法の秩序に全く関心がないことは明白です。なぜなら、今回の場合、彼らは、教会の基準ではなく、外国の利益を優先していることが明白だからです。

ワクチン接種拒否は神学的基準にも科学的基準にも基づいていない

国際社会は新型コロナウイルスと積極的に闘っています。正教世界には、ワクチン接種やマスク着用、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の遵守に反対する人たちがいます。母なる教会は、ワクチン接種についてどのような立場ですか。あなたや周りの人々は、接種をしましたか。

現在の保健分野の巨大な危機は、人類全体と並び、正教徒にも及んでいます。私たちは、パンデミックや、ワクチン開発やその他の方策という手段でのパンデミックへの対抗への姿勢について、批判を受けています。しかしながら、ワクチン接種やその他の方策を拒否することは、非合理的であり、神学的基準にも科学的基準にも基づいていません。私は、初期の段階から、パンデミックは私たちの信者を脅かすものであり、信仰心を脅かしているのではないと話してきました。多くの信者が防護措置を拒否し、そのウイルスの被害者となったことは真実です。そのため、その多くの犠牲者、苦しむ人々を前にして、パンデミックの存在を否定したり、それを誰かが作り出したものだと評価したり、陰謀論を拡散したりすることは看過し得ません。残念ながら、そのような態度は身近な人々への無関心の現れです。しかしながら、近しい者への愛に関する戒律に反するものは全て、神の意思ではあり得ないのです。コンスタンティノープルの教会は、信者に対して自らの医師と協議をし、医師の指示に従って接種をするよう呼びかけています。私を含む、フェネルにいる者皆が、すでにワクチン接種を終えていることは、自然なことです。

科学は人々に仕えているのであり、神の祝福である

新型コロナウイルスは絶大な数の人の死をもたらしました。多くの人が、予期せぬ形で、身近な人の突如の喪失、疾患を経験しました。人々が精神面で立ち直るために、あなたはどのようなアドバイスをしますか。自分や家族を支えるにはどうすれば良いでしょうか。

教会も、パンデミックと最初から向き合っています。その質問への回答は常に、「祈り」と「関連方策の遵守」です。今日の科学は、科学こそが迅速かつ効果的に解決策を見つけられることを証明しています。もちろん、科学的知識にも限界はあります。しかし、科学は人々に仕えているのであり、それは神の祝福です。私たちは、感謝とともに、その祝福の賜物を受け取っているのです。私たちは、これほど短期間で私たちをコロナウイルスによる苦しみから守るワクチンを作った学者たちに感謝することが義務付けられているのです。さらに、私たちは、世界中の医師やその他の医療関係従事者にも感謝しています。彼らは、毎日COVID-19と闘っている人々を助けています。私は、ウクライナの医師や医療関係者も同様に全力で病人を救おうとしていることを知っています。私たちは、彼らを歓迎し、祝福するとともに、私たちの救世主キリストが彼らの努力を支えてくださるように、彼らが私たちの祈りの中にあることを明確にしています。また、私たちは、神がこのパンデミックの犠牲者の魂と、遺族の悲しみに平穏を与えるよう、毎日祈っています。

ウクライナ正教会はウクライナの人々の団結と繁栄において大きな役割を担っている

全地総主教、あなたのウクライナへの訪問は、ウクライナ独立記念30周年に合わせたものです。ウクライナの正教徒の精神面での父であるあなたは、ウクライナの信者、全てのウクライナの人々に対して、何を伝え、祈願したいですか。

すでに述べたように、私たちは、ウクライナの人々とその記念日に際した喜びを共有します。例外なく全てのウクライナに暮らす人々の発展、反映、団結、精神的成長のために祈っています。私たちは、その肯定的な前身と発展においてウクライナ正教会が極めて活発かつ重要な役割を担っていくことを確信しています。私たちは、ウクライナ正教会があなたたちの国における教会の団結への道に向けた主要な指針となることを疑っていません。全地総主教庁からの独立の付与は、極めて重要な瞬間であり、ウクライナの人々の歴史における画期的な出来事であり続けるのです。

写真:コンスタンティノープル総主教庁広報室、ウクルインフォルム