インドの雑誌にゼレンシキー宇大統領の風刺画? 偽画像検証
ソーシャルメディア上にて、親露ユーザーを中心に、インドの週刊誌に掲載されたゼレンシキー宇大統領の風刺画だとされる画像が拡散された。しかし、検証したところ、同雑誌にそのような号は存在しないことがわかった。
執筆:アンドリー・オレーニン
この「風刺画掲載雑誌」なるものの画像が最初にオンラインに登場したのは、あるロシアのプロパガンディストのテレグラムチャンネル。画像は「アナンダ・ヴィカタン」という実在の雑誌の表紙の体裁を取っており、画像に見られる風刺画はウクライナのヴォロディーミル・ゼレンシキー大統領が鉤十字を描いているところにスナク英首相が部屋の中に入ってくるという内容となっている。
画像を拡散している者たちは、ゼレンシキー宇大統領から出ている吹き出しにタミール語で「私たちのどこがナチス信奉者なのだ? 私たちはインド文化が好きなだけだ」と書かれていると説明している。
しかし、調べてみると、このような表紙の雑誌は存在しないことが判明した。同誌の公式ウェブサイトにも、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムの公式アカウントにも、そのような号は見当たらない。
この「アナンダ・ヴィカタン」というのがどのような雑誌か見てみよう。このインドの週刊誌は、毎号発売の際にソーシャルメディアで積極的な宣伝を行なっている。例えば、11月9日発売の号の表紙画像は、ツイッターの公式アカウントの上部に貼り付けられ、またフェイスブックの公式アカウントでは、プロフィール画像として使われている。
また、同誌は、表紙にインドの政治家、音楽家、スポーツマン、映画俳優を採用している。同誌の過去1年に発売された号の全ての表紙を調べてみても、風刺画は1度も表紙に採用されていない。
なお、同じメディアグループが発行している「ジュニオル・ヴィカタン」という雑誌は、風刺画が利用されている。しかし、この雑誌名は、ゼレンシキー氏の風刺画フェイク画像に書かれている「雑誌名」とは異なるし、10月に発売された同誌の表紙にはゼレンシキー氏の風刺画は使われていない。
もう1つの重要な点は、フェイク表紙に書かれている発刊日とされている日付である。フェイク画像には「10月31日発刊」と書かれているが、この週刊誌の最近の号の発売日は、11月2日と10月26日となっている。
さらに、それぞれの号には、「第〜号」とのナンバリングが行われているが、フェイク表紙には「特別号」としか書かれていない。しかし、同誌の過去の号に類似の「特別号」は存在しない。
公式ウェブサイトでも、同様の号は10月に出ていないことが確認できる。
では、どこからこの画像は広まったのだろうか。この画像は、前述のロシアのプロパガンディストの他にも、英語で投稿をしている複数の親露のソーシャルメディアアカウントで見つけることができる。
最初にこの画像が投稿されたのは、「ドンバス・デヴシュカ」という名前の英語のテレグラム・チャンネルだ。ここからツイッターで投稿をしている、親露アカウント(Sprinter Monitor, Su-57 5th Gen Fighter, @A_de_Barnik, Татьяна Антонова, dkenna)にて拡散されている。いずれの投稿も、同様に「私たちがナチス信奉者? 私たちはインド文化が好きなだけだ」と書かれている。さらに、スペイン語、日本語、中国語、アラビア語などの言語で翻訳した上での拡散も見られる。さらにこれら投稿には、「ナチス」「ゼレンシキーの戦争犯罪」といったハッシュタグがつけられている。
偽情報にこのような「ナチス」関連のテーマが積極的に用いられているのは、ロシアの対ウクライナ侵攻の口実の1つがいわゆる「非ナチ化」であることから説明できるだろう。
なお、インドの人々にとっては、卍は宗教的シンボルであり、吉祥の印としてよく使われるものであり、寺院やお店の窓、バイクや公式文書にも見られるものである。
ところで、プーチン・ロシア政権は今もインドを同盟国の1つと数え続けているが、実際にはロシアの同盟国の輪は急速に狭まっている。9月にはモディ・インド首相はプーチン氏に対して「今は戦争の時代ではない」として平和への呼びかけをおこなっている。また、インド系英国民のスナク英新首相は、首相就任後、ウクライナ支援方針の継続をゼレンシキー氏に明言している。