ロシアがウクライナ国民の身分証明書の画像と共にテロ関連偽情報を拡散

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22日夜にモスクワ郊外で起きたテロ事件に「ウクライナの関与」を捏造するために、インターネット上で見つかる、実在するウクライナ国民の身分証明書の画像が用いられている。

執筆:ドミトロー・バドラク

3月22日、モスクワ郊外クラスノゴルスク市のコンサートホール「クロクス・シチ・ホル」にて、テロが起こり、最新情報では137名が亡くなったという。ロシアのプロパガンダは、またもウクライナの評判を落とすために、この事件を利用している。ウクライナの「痕跡」を見つけ出そうとする中で、プロパガンディストたちは、偽情報を作り出し始めている。主なナラティブは、「ウクライナはテロに関与している」である。

彼らがソーシャルメディア「X」アカウントで積極的に拡散している偽情報の1つが、モスクワ郊外のテロ実施容疑者は特定されており、あたかも全員がウクライナ国民であり、米国の納税者が払った税金で国家が雇った者たち、というものである。プロパガンディストたちが「証拠」だとして拡散しているのが、ウクライナ人の4つの身分証明書の画像である。写真の1つには「ツェーザル・ユーリー=ハラリイロハイラリイロズル・イリチ」、もう1つには「マルハ・ミコラ・ヴァレリヨヴィチ」との名前が書かれている。他の2つの画像は、低画質のもので(編集注:名前部分にぼかしがかけてある)、名前を読むことはできない。

この偽情報を作るために、プロパガンディストたちは、インターネット上で見つけたウクライナ人の本当の身分証明書の写真を使っている。ただし、これらの写真は、モスクワ郊外の事件よりずっと前に現れた物である。ツェーザル・ユーリー=ハラリイロハイラリイロズル・イリチ氏の身分証明書の画像は、2020年の記事で見つけられる。この身分証明書を保有していた人物は犯罪を行い、法執行機関職員に逮捕されている。

ミコラ・マルハ氏の身分証明書の画像は、2016年の記事で見つかる。マルハ氏本人がフェイスブックの自分のページで同画像を投稿したものだ。面白いのは、その投稿はロシア人であるマルハ氏がようやくウクライナの身分証明書を取得できたので、ロシア国籍を放棄したいと書いたものである点だ。

マルハ氏は、フェイスブックの自身のアカウントにて、今回の露プロパガンダによる捏造を笑っている。

Ето, канєшна, смєшно, но я серед підозрюваних у скоєні "тєракту" у Москві: "Підозрювані у скоєнні теракту в Москві...

Опубліковано Mykola Malukha Субота, 23 березня 2024 р.

プロパガンディストたちはまた、ウクライナ国民であり、第2次ロシア・チェチェン戦争の退役兵で、イチケリア軍中央戦線を指揮し、2022年からはロシア・ウクライナ戦争にてウクライナ側で参戦しているルスタム・アジエフ氏が今回のテロに参加したという別の偽情報も拡散している。その「証拠」としては、再びオンラインで見つけられる身分証明書の画像と、あたかもテロの後にアジエフ氏が尋問を受けている場面とする写真が用いられている。実際には、ルスタム・アジエフ氏だと主張された人物とアジエフ氏本人は、異なる顔の形をしている。

ルスタム・アジエフ氏本人は、左耳を損傷しており、また鼻の形も拘束された人物とは全く異なる。

これに先立ち、ロシアのプロパガンディストたちは、3月22日のモスクワ郊外のテロへとあたかもウクライナが関与しているかのような主張を行いながら、NTV局で、オレクシー・ダニーロウ国家安全保障国防会議(NSDC)書記のディープフェイク動画も流していた。

ウクライナ国防省傘下情報総局は、ロシアによる今回のモスクワ郊外のテロに「ウクライナの痕跡」があるとする発表を「馬鹿げており」「全くの嘘」だと指摘している。

また、ロシア・プロパガンダは、「ウクライナの痕跡」という偽情報以外に、西側の「メディア」を模したサイトを通じて、米国や英国の関与に関する偽情報も広めている。

これら「記事」につき、ロシアの調査報道メディア「インサイダー」は、このような記事は「ドッペルゲンガー」というロシアのボットネットワークで、英語、ドイツ語、アラビア語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ポーランド語、スペイン語、ヘブライ語にて拡散されていると説明している

また、インサイダーによれば、それら「記事」は、偽の「報道サイト」や、spiegel.ltd、grenzezank.com、hauynescherben.net、meisterurian.io、onnam.lifeなどの著名メディアを模したクローンサイトで公開されるという。インサイダーは、クレムリン・プロパガンダは、おそらく西側聴衆の間で自らのインプレッションを拡大していると指摘している。

これに先立ち、テロ集団「イスラム国」がモスクワ郊外クラスノゴルスクのコンサートホールでの自らの犯行を認めていた。その後、同情報は米国の情報機関も認めている。