
「闇は光に決して勝てない」=テチャーナ・クリク記者の死につきウクルインフォルムの同僚が語る
スレンダーで、笑顔で、いつもヒールを履いていて、前向きだった。前日まで、彼女は仕事で忙しく、明日の予定でいっぱいだった。しかし、彼女にその「明日」は訪れなかった。

テチャーナ・クリクは、ちょうど1週間前にマルチメディア編集部の編集長に就いたばかりで、編集部の仕事の計画に関するたくさんの仕事を抱えていた。さらに、彼女が撮影した番組「不屈な人々のネイション」の3本の動画や、キリロ・ブダーノウ情報総局局長のインタビュー動画の編集や、日常業務が待っていた。そして、編集部の同僚は、彼女は私生活も気にかけていたと述べる。「朝、ターニャ(編集注:クリク氏の愛称)は、彼らのところへやってくる夫の母親と会うはずだったので、全部準備が間に合うかと心配していた。私たちは最後まで、恐ろしい知らせを受け入れられなかった。それが間違いで、もうすぐ情報が否定されるのではと期待していた。」
テチャーナ・クリク氏の声は時折ニュースルームから響いてくる。職場では、彼女の最新の録画した番組の1つ、Mi-8操縦の指揮官、オレクシー・チジュ氏のインタビューが作業中だ。
「マルチメディア」の編集者テチャーナ・パリー氏は、「このプロジェクトはターニャにとって多くの意味を持っていた。彼女はこれで生きていた」と述べる。「番組のゲストたちと一緒に彼女は、戦争がなければ、人生はどれだけ多くの喜びで満たされていただろうかと、人生の移り変わりの早さを考えていたのだ。」
パリー氏は、クリク氏はいつも番組のゲストに感動していたと述べる。一緒に番組のゲストを選んでは、「パリー、私たちは勝利のために何をしているんだろうね」と冗談のように質問していたという。


彼女の番組「不屈の人のネイション」には、ミュージシャンのオレフ・スクリプカ、演出家のオレシ・サニン、女優のイルマ・ヴィトウシカ、女性ボクシングの世界チャンピオンのアリーナ・シャテルニコヴァ、人権活動家のマーシ・ナイイェムや、軍人、医師、パイロット、救助隊員、かつて拘束されていた人などがゲストとして登場した。その一人一人に対して、クリク氏は特別なアプローチを取り、番組収録の後も会話はなかなか途切れず、ゲストたちはスタジオに長く居座っていた。
今日、ウクルインフォルムの編集用チャットには、彼女の番組ゲストや、テレビ局の元同僚から、哀悼、悲しみ、無念の声や、敵への憎しみや怒りの声が届いている。

ウクルインフォルムのセルヒー・チェレヴァティ総裁は、「テチャーナ・クリク氏は、素晴らしい記者で、私たちの戦いや私たちの英雄について多くの番組を作ってきた。昨日も私たちは、キリロ・ブダーノウ氏のインタビューの準備について話していた。彼女は、私たちの心の中、私たちの記憶の中に永遠に残り続ける。私たちは、同僚のために、侵略者の戦争犯罪を明らかにする報道で復讐していく。そして、キリロ・ブダーノウ氏がそのインタビューで述べていたように、ウクライナの人々を拷問した全ての人は必ず罰を受けることになる」と発言した。
ウクルインフォルムのハンナ・ヴァシレンコ副総裁は、彼女のことを次のように思い出す。「ターニャは、私たちが出会ったのはススピーリネ(編集注:公共放送)で、その後、ウクルインフォルムで再開したといつも述べていた。彼女は、とても特別な人で、その優雅さ、軽快さ、落ち着きが際立っていた。彼女の仕事には大きな信念があり、私たち皆が信頼していた。死の前夜、テチャーナは、1日だけ、その悲劇的な日に代休を取ったのだ…。私は、彼女が休暇にいて、明日には再び彼女のハイヒールがこつこつ鳴り、スパイシーな香水の香りがウクルインフォルムの廊下を満たすのだと思いたくて仕方がない。」

スタジオ部長のオレーナ・スコロウシカ氏は、クリク氏はいつも注意深く、誰よりも最初にシェルターへ向かい、同僚たちに遅れないよう呼びかけていたと思い出す。「彼女はまっすぐで、明るい人だった。彼女の死の知らせは、私たち皆にとってショックだ。ターニャは、私たちの記憶に、光と善のきらめきとして永遠に残るだろう」と述べる。

同僚たちは、儚げで真摯で思慮深く、鋭いユーモアの感性を持ち、いつも笑顔で、計画と夢に満ちていたテチャーナ・クリク氏を偲んだ上で、彼女が番組「不屈の人のネイション」のために撮った最後の3本の動画を必ず編集すると誓う。「私たちにとっては、彼女自身が『不屈の人々のネイション』の1人だった。敵は、秘境にも彼女の命を奪ったが、絶対に勝つことはできない!」
ウクルインフォルムは、亡くなった彼女の19歳の娘リーザをはじめ、親族、近親者、友人、テチャーナ・クリク氏を知る全ての人に心からの哀悼を表する。
これに先立ち、2月26日未明のロシア軍のウクライナ中部キーウ州への無人機攻撃の際に、ウクルインフォルムの記者テチャーナ・クリク氏とその配偶者パウロ・イヴァンチョウ氏が死亡していた。
クリク氏は、ウクルインフォルムの番組「不屈の人のネイション」を考案し、その司会を務め、またマルチメディア編集部の編集長代行だった。クリク氏は、ウクライナ記者組合のメンバーでもあった。以前は、公共放送のテレビ司会者なども務めていた。同氏は、キーウ国立文化芸術大学を卒業。文学編集者として仕事を始め、2015〜2017年には、公共放送のキーウ支部の副代表を務めていた。