ゾリャー大主教「ウクライナの歴史がなければ、モスクワの国家はキプチャク・ハン国起源となる」
12日、ウクライナ正教会のイェウストラチー・ゾリャー・ウクライナ正教会大主教が、キーウ(キエフ)安全保障フォーラムで発言した。ウクルインフォルムの記者が伝えた。
ゾリャー大主教は、「ウクライナが苦しむ、隣国発の6年続く侵略は、2014年に始まったわけではない。ウクライナ正教会の経験において、私たちはその侵略を1990年代にはすでに感じていた。1991年、ウクライナ正教会がキーウ・ペチェルシク大修道院で、教会も独立しなければならないと宣言した時に、このハイブリッド戦争の根幹はすでに開始されていたからである。そして、それは現在この国で起きていることと繋がっている」と発言した。
同大主教は、幸いなことに、当時のエリツィンが率いた国家としてのロシアはウクライナの独立を受け入れたのだが、他方、国家と密に結びついているロシア正教会は、全く異なる手段を取ったと指摘する。大主教は、ロシアの教会は、ウクライナの国家の独立だけでなく、教会の独立まで認めてしまうと、それは「ウクライナは真の国家であり、ウクライナ・ネイションは真のネイションである」ということを意味することを理解していたからだと説明した。
大主教は、「なぜウクライナ正教会がソ連邦内で独立できなかったか。今、なぜロシア正教会がウクライナ正教会の独立を認めたがらないのか。なぜなら、それが、ウクライナ民族はロシア民族とは別の民族であり、国家を含めて独立した権利を持つ民だと認めてしまうことになるからである。そして、それはロシアの『帝国』のアイデアを葬り去ることになる。現在の戦争は、領土や経済を求めて行われているのではなく、ロシアの帝国の復活を求めて展開されているのである。ひいては、世界の変化を求める戦争であり、安全保障に関する問題なのである」と発言した。
同大主教は、ロシアが「キーウ」、ウクライナの地の歴史、ウクライナの伝統を失うことは、「新たなローマ」としての「コンスタンティノープル」や「東ローマ帝国」の伝統と、「第3のローマ」としての「モスクワ」、そしてロシアを「帝国」とするアイデアの間の繋がりが絶たれることを意味すると説明する。大主教は、「なぜなら、ヴォロディーミル聖公、ヤロスラウ賢公、オリハ大公妃、ソフィア大聖堂等、ウクライナのこれらの事物がなければ、モスクワの国家性の起源は、モスクワ公イヴァン1世とキプチャク・ハン国から始まることになるからである。ロシアでは誰もそのようなことを認めたがらない」と強調した。
大主教は、「正にそれがゆえに、ウクライナの教会、ウクライナの歴史、ウクライナの文化、ウクライナの伝統を求めた闘いが繰り広げられているのである。それは、自帝国の復活のためなのである」と指摘し、同時に「しかし、ロシア帝国の復活が意味するのは何であろうか。それは、世界安全保障にとっての最大のチャレンジの一つとなるのである。私たちは、その帝国が、ウクライナや旧ソ連空間だけでなく、シリア、現在はベネズエラに干渉しているのを見ているし、いわゆる『プーチンの料理人』(編集注:露富豪のエフゲニー・プリゴジンのこと)の諸企業が、現在30以上のアフリカの国々の政治プロセスに同時に関わっているのを見ているのである」と強調した。