宇大統領府、「ウクライナのための安全保証」勧告を公開
ウクライナ大統領府ウェブサイトにて公表された(太字は編集部による)。
発表には、今回の勧告は全世界の専門家からなる専門家グループにより作成されたものだとし、グループには各国の元首相や元閣僚など政権高官、学者が参加したと書かれている。
大統領府は、同勧告は「キーウ安全保障盟約」の創設を呼びかけるものだと伝え、同盟約はウクライナと保証国をまとめる戦略的パートナーシップに関する文書となると説明した。
発表にはまた、「勧告は、保証への多層的アプローチを想定したものとなっている。想定されているのは、ウクライナ軍支援の明確な義務を負う同盟国からなる基本グループ(core group)と、制裁メカニズムを中心に築かれる非軍事保証を提供する広範グループ(broader group)である」と説明されている。
提案された主要な勧告は、次のような内容となっている。
・ウクライナにとって最も強力な安全の保証となるのは、国連憲章第51条に従った、侵略国から自国を守る自衛能力である。そのためには、ウクライナは、ロシア連邦軍及びその他軍事機構に対峙し得るだけの強力なウクライナ軍を維持するためのリソースを必要とする。
・そのためには、ウクライナの防衛・産業基盤への長年の安定した投資、同盟国からの大規模な武器の提供・情報(インテリジェンス)サポート、欧州連合(EU)・北大西洋条約機構(NATO)主導の集中的訓練ミッションと強力な訓練が必要である。
・安全の保証は、賛成された上で明確に策定されねばならない。保証は、ウクライナとともに保証国グループが負うことになる複数の義務を定めるものとなる。保証は、その履行が二国間合意に基づいた政治的・司法的に義務的なものとならねばならず、同時に「キーウ安全保障盟約」の名の下での共同戦略的パートナーシップ文書にてまとめられることになる。
・合意文書は、同盟国とウクライナの基本グループを統合する。その保証国グループは、米国、英国、カナダ、ポーランド、イタリア、ドイツ、フランス、オーストラリア、トルコ、ならびに、北欧・バルト諸国、中・東欧諸国で構成され得る。
・安全保証は、新たな侵略を回避することを目的とした、軍事的、財政的、インフラ的、技術的、情報的性格を持つ予防措置や、ウクライナの主権と領土一体性への新たな侵害が生じた場合に緊急に採られる方策を含む。さらに、キーウ安全保障盟約の構造は、侵略国に対する完全な制裁パッケージを想定している他、現代的防空・対ミサイルシステムのウクライナへの提供、黒海安全保障地域合意などの追加的要素も含み得る。
・この安全保証は、ウクライナのNATO加盟願望の代替とはならない。NATO加盟願望は、ウクライナ憲法に記載されており、ウクライナの主権的決定である。また、ウクライナはEU加盟も目指している。ウクライナがEUに加盟すれば、ウクライナは相互防衛条項を利用できるようになる。NATOとEUへの加盟は、長期展望にてウクライナの安全保障を著しく強化する。今日概要の示された保証は、それらの目的を弱体化させるものでは全くなく、ウクライナに武力侵攻あるいは侵略行為を抑制するための能力を提供することを目的としており、侵攻がある場合には、いかなる条件下でも主権・領土一体性・安全を保護することを目的としている。
大統領府の発表には、勧告全文がPDF形式で公開されている。同全文には、制裁を基本とする非軍事保証をウクライナに提供する「広範グループ」に加わる国際パートナー国として、日本と韓国の名前が挙げられている。
また、大統領府発表にて、イェルマーク宇大統領府長官は、「私たちは、『繰り返すことができる』というスローガンがロシア人の間でパニック発作と悪い思い出を生じるようにせねばならない。彼らが『二度と繰り返さない』とのみ答えるようにせねばならないのだ。そのためには、私たちにはロシア人のリベンジ願望を撃退できるだけの軍事的な能力が要る。もしその願望が抑えられなくなってしまった時に、拭い得ないダメージを侵略国に与える能力だ。安全保証は、私たちのそのような能力を作り出すことを支援することを目的としている」と発言した。
同時にイェルマーク氏は、ウクライナにとっての安全保証合意はNATO加盟の代わりになるものではなく、その合意はNATO加盟が実現するまでの安全保障の手段だと説明した。
その他、今回の勧告作成グループをイェルマーク氏とともに率いたラスムセンNATO前事務総長は、ウクライナの現在の戦争の勝利は直接的優先課題だと発言した。ラスムセン氏は、「現在、ウクライナ人は前線にて、必要なリソースを持っていれば、ロシアに戦場で勝つことができることを示している。ウクライナ人は、戦いへの意志を実践しており、民主的世界は、引き続き同国のために手段を提供し続けなければならない。この戦争が終わる時、私たちはロシアが二度とウクライナへと襲いかかることができないよう保証しなければならない。それを実現する最善の手段は、ウクライナがどのような将来のロシアの侵攻にも対峙できるだけの著しい軍事力を持つことだ」と発言した。
そして、同氏は、そのような力を作り出し、維持するためには、ウクライナの同盟国による何十年もの間のコミットメントが必要だと強調した。
さらに同氏は、「この勧告の採択は、ウラジーミル・プーチンに強力なシグナルを与えることになる。それは、私たちのウクライナへのコミットメントが揺らがないこと、彼の戦争は無駄であることを示すのだ。それはまた、ウクライナの人々に対しても、私たちは必要な限りずっとウクライナの独立と主権を忠誠心を持って支持していくとのシグナルを送ることにもなり得る。それを正しく行うことは、欧州の安全保障に新たな土台を築くことを意味する。そうしなければ、それは欧州の地における危機の激化を意味するのだ」と発言した。
なお、ウクライナでは、春以降、イェルマーク宇大統領府長官とラスムセン前NATO事務総長の率いるウクライナのための国際安全保証問題グループが今回の勧告の作成のための作業を続けていた。