ロシアに全てを思い出させる「クリミア・プラットフォーム」
執筆:ナジーヤ・ユルチェンコ(キーウ)
8月23日、ウクライナの外交イニシアティブである「クリミア・プラットフォーム」の第1回首脳会談が間もなく開催される。現時点では、40か国が同首脳会談への参加を認めている。スポーツで言うならば、それは勝利とは言わないまでも、優勢といったところだろう。
では、その優勢を最終的な勝利にすること、つまり、クリミアの占領を終わらせるには何をすべきだろうか。その問題は容易なものではない。ウクライナは、その返答は、クリミア・プラットフォームを恒常的なものとした上で、その活動の中で見つけるべきだと考えている。
ウクライナの戦術的課題
最近確定された「一時的被占領下クリミア自治共和国・セヴァストーポリ市脱占領・再統合戦略」には、クリミア・プラットフォームに目的達成をする上での外政面の重要手段という役割が与えられると記載されている。
クリミア・プラットフォームはまた、ウクライナはクリミア併合の試みを受け入れないこと、あきらめるつもりのないこと、ロシアに占領の責任を完全に取らせるつもりであることを、占領国ロシアと全世界に常に思い出させるものとなる。
そのために、クリミア・プラットフォームでは、5つの重要なテーマでの議論が行われていく。その一つは、ロシアによるクリミア併合の試み不承認政策である。なぜなら、残念ながら、クリミア違法占領の開始から7年が経過する中で、国際社会は少しずつ現状に慣れ始めていると言わざるを得ない状況があり、国によっては、慎重ながらも、何らかの手段を通じて、公言する不承認政策から逸れているところもあるからだ。
そのため、たとえ地政学的状況が変化した、あるいは今後変化する可能性があろうとも、ロシアの国際秩序に対する犯罪は7年前から何も変わっていないということ、いかなる国も力をもって他国の国境を変更してはならないということを、皆で集まって喚起することは今日も引き続き重要なのだ。
ドミトロー・クレーバ外相は、クリミア・プラットフォームは公式立ち上げの前にもかかわらず、すでに基本課題の内の一つである、ロシアによる「クリミアの問題は解決済み」という主張を破壊するという課題をすでにこなしていると指摘する。
外相は、ウクルインフォルムに対して、「なぜなら、クリミアのことを徐々に忘れさせ、現状を受け入れさせることこそがクレムリンの望んでいたことだからだ。それを看過しないことが、ウクライナにとっての現段階における重要な戦術的課題だ」とコメントした。
外相は、クリミア・プラットフォーム首脳会談へ参加を認めた国の数や、国際専門家ネットワークの設置、国内外メディアの注目からして、クリミア・プラットフォームはクリミアを国内外のトップ議題に戻すことができたと考えていると述べた。
クリミア自治共和国大統領常任代表を務めるアントン・コリネヴィチ氏もまた、同様の意見を述べている。同氏は最近、テレビ局「家」へのインタビュー時に、被占領下クリミアとの間の通過検問地点をすでに22の国の外交団が訪問したと報告し、「以前は0だった」と説明した。以前は、国際議題にて、ウクライナ問題が語られる時、注意はドンバス情勢に集中していたからだ。
地団駄を踏むロシア
ウクライナによる、クリミア・プラットフォーム設置を通じてクリミア違法占領問題を活性化させようとする試みを、ロシアはあらゆる手で妨害しようとしている。しかし、クレーバ外相は、このロシアの動きを昨年12月には予想していたという。外相は当時、クリミア・プラットフォームがロシアの対ウクライナ・ハイブリッド戦争の主要ターゲットの一つになるだろうと述べていた。
外相は、ウクルインフォルムへのコメントで、当時の予想が当たったと述べた。「クリミア・プラットフォームの評判を落とし、各国の参加を妨害するために、ロシアの外交官やエージェントが世界でどれほどの努力を費やしてきたか想像できるだろうか。具体的な国は挙げられないが、しかし、ロシア連邦の大使がある国の外務省を訪れ、あからさまに『地団駄』を踏んでは、首脳会談への参加に同意した場合の『悪影響』を口にして脅したそうだ。そういう露骨な脅迫の話がしばしばあるのだ」と外相は説明した。
市民団体「人権のためのメディア・イニシアティブ」のメンバーは、ロシアによるウクライナのイニシアティブへの反応を分析している。メンバーたちは、クリミア・プラットフォームに関しては、ウクライナではなく、ロシアが動き回っていることで、その立ち上げの前から成功が生じていると指摘している。
同団体の報告書には、「あちこちに飛び回って、あれ(編集注:クリミア・プラットフォーム)は冒涜だとか、夜会だとか、あることないことを言いふらし、戦争を仕掛けるなど言い回っているのは、ウクライナ政権の幹部ではない(編集注:ロシアの政権関係者)。そこからして、クリミア・プラットフォームはすでに成功しているのだ。なぜなら、同プラットフォームは、クリミア併合の試み不承認政策への国際時的支持を動員し、ウクライナ自身にクリミア関連政策をより明確にさせ、法制度を補完し(まだ途中ではあるが、プロセスは進んでいる)、加えて、ロシアに対して、行動を迫り、発作的な対応を強制したのだ。しかもロシアのその行動は、その都度ひどくなっている」と書かれている。
クレーバ外相は、ロシアがクリミア・プラットフォームの参加国の数が増えるのを妨害しようとしている中で、ウクライナ外交官は腕組みをして待っていたりなどせず、各国首都や国際機関本部にてロシアの試みに対するしっかりしとした反撃を行っていると述べる。
外相は、「そもそも、私たちは本件に関する新人ではないのだ。ロシアは、これまでずっとクリミア問題の審議の際に国連やその他の国際機関にて似たようなことをしてきているからだ。しかし、占領開始から7年以上経過する中でも、多くのパートナー国は、ウクライナへの支持を一貫して認め続けている。クリミア・プラットフォームでも同様となるだろう」と発言した。
重要分野を牽引する積極的なパートナー国
ウクライナに駐在する各国大使の中には、クリミア・プラットフォームへの強い支持を表明している者もいる。
クリスティーナ・クヴィン駐ウクライナ米臨時代理大使は、「私たちは、ロシアに責任を負わせるためにさらに多くのことを行わねばならないことを理解している。だからこそ、米国はクリミア・プラットフォームを断固として支持するのだ。私たちは、そのイニシアティブにおいてウクライナ政府と緊密に協力していく」と明言している。
メリンダ・シモンス駐ウクライナ英大使は、ロシア連邦との通常の関係(business as usual)は、同国がウクライナの不安定化を続け、領土を奪取したままである限りは不可能であるとし、ロシアへの国際的圧力を継続するよう呼びかけた。
他方で、クリミア・タタール民族代議機関「メジュリス」のメンバーであり、シンクタンク「クリミア・タタール・リソース・センター」のエスケンデル・バリイェフ所長は、クリミア・プラットフォーム首脳会談へ参加するパートナー国の間でも、その姿勢は「一様ではない」と指摘する。
バリイェフ氏は、ウクルインフォルムへのコメントにて、「いくつかの国は、より積極的に活動しており、ウクライナを支持するためにより強力な方策を取る準備がある。他方で、いくつかの国は、クリミア脱占領問題において、より消極的な手段を好んでいる」と発言した。
その点についても、ウクライナ外務省にはある計画があるという。クレーバ外相は、ウクライナはクリミア・プラットフォームにて、恒常的に活動する調整メカニズムを作ろうとしており、そのメカニズムは、併合不承認政策、制裁、安全保障、人権、ロシアの占領により生じる環境・経済問題という重要分野を扱うものになると報告した。外相は、「私たちは、最も積極的なパートナー国に対して、これらの重要分野でリーダーシップを発揮するよう呼びかけている」と説明した。
慎重な楽観主義と希望
ウクルインフォルムがバリイェフ氏に、被占領下クリミアではクリミア・プラットフォームをどのように見ているかと尋ねると、同氏は、最近シンフェローポリ近郊の道路に、「私たちはクリミア・プラットフォームを待っている」と書かれた落書きが現れたことを指摘した。
同氏は、被占領下クリミアに暮らすウクライナ国民は、ウクライナ政権や国際社会からのより具体的な行動を長らく待ち望んでいたのだと指摘する。
同時にバリイェフ氏は、占領政権との間で問題が生じる可能性があるため、全てのクリミア住民がそのことを口にするわけではないとも指摘した。同氏は、ロシア連邦刑法典に最近、過激主義活動への公的な場での呼びかけへの責任が強化されたことを喚起しつつ、「つまり、ロシア国内法の観点からは、クリミア・プラットフォームへの関与は、ロシア連邦の一体性侵害への呼びかけだけでなく、そのような侵害(編集注:過激主義活動への呼びかけ)への参加とみなされる可能性もあるのだ」と説明した。
ウクルインフォルムは、もう一人匿名のクリミア在住女性と話をした。この女性は、自身の経験から、被占領下クリミアにおける積極的な層はクリミア・プラットフォームへの関心を抱いているが、無関心な層はあまり気にしていないし、その存在を知らない可能性もある、と指摘した。
同氏は、「クリミアの無関心層の視線をウクライナ側へ向けるには、ウクライナが経済的に強力で自立した国家とならなければならない」とする見方を述べた。
また同氏は、自分自身はクリミア・プラットフォームに対して「慎重な楽観主義」を抱いて接していると述べつつ、「成果は後日わかるだろう。私は、成功は、ウクライナの行動と、国際パートナー国の圧力の両方に同程度左右されると思っている。しかし、クリミアの脱占領のためには、それだけでは少なすぎるかもしれない。それ以外に、何らかの好機が生じる必要があろう」と指摘した。
「プロセスは始まった」
同時に、バリイェフ所長は、間違いなく「プロセスは始まった」とし、雪玉が転がって大きくなっていくのと同じように、このプロセスが結果を生むよう、自身も仕事を続けていくと誓った。
バリイェフ氏は、クリミア・プラットフォームの課題は、「憲章やら宣言やらを採択するような単なるフォーラムではなく」、その後も一貫性ある仕事が行われる場となることだと指摘する。
同氏は、「私は、私たちは今後あらゆる国の専門家コミュニティと政府や議会の代表者との相乗効果を作り出していくのだと思っている。それを通じて、脱占領を近付けることに役立つような決定を、クリミア・プラットフォームを支持する国々の議会で採択できるようにすることが目的となる」と発言した。
クレーバ外相は、クリミア脱占領に向けたウクライナの真剣かつ体系的な姿勢は、国際レベルだけでなく、国内レベルでも確認できるとし、その一例として、「クリミア・プラットフォーム事務所」が開設されるとし、8月23日にゼレンシキー大統領が各国からの訪問団に向けて発表を行うと指摘した。
外相は、「ウクライナがパートナー国に共通の行動を呼びかける際、ウクライナ自身、単に支持要請をしているだけでなく、毎日ロシアのクリミア占領により生じる問題の解決を行っており、国際法の回復を目指し、クリミアをウクライナのコントロール下に戻す作業を行っている。私たちは事務所開設により、パートナーたちにそのことを伝えるシグナルを送ることになるのだ」と発言した。
レファト・チュバロフ「メジュリス」代表とムスタファ・ジェミレフ民族指導者は、全体としては、クリミア・プラットフォームについて楽観的な予想を抱いていると語った。
チュバロフ氏は、ニュースサイト「アポストロフ」へのインタビューにて、「ロシアは、クリミアについて議論することを徹底的に避けている。その中で、クリミア・プラットフォームの存在は、ロシアを苛立たせるメカニズムの一つというだけでなく、それ自身がアイデアや行動を生み出していくものとなるのだ」と発言している。
バリイェフ氏は、クリミア・プラットフォームによって、「私たちは、経済、金融、人権といった、占領国へ圧力をかけられる分野で共通の行動を作り出せる真の友好国を見つけられるだろう」との確信を示した。
クレーバ外相は、クリミア・プラットフォームという外交イニシアティブがクリミア脱占領を促進するメカニズムを作り出す場となることを確信していると述べた。外相は、「『犬は吠えるが、キャラバンは進む』ということわざがある。そのキャラバンが遅かれ早かれウクライナのクリミアへ到達することに疑いはない。そして、クリミア・プラットフォームの最終首脳会談の参加者は、ヘルソネス(編集注:クリミアに位置するウクライナのユネスコ世界遺産)の柱の側で記念写真を撮ることになるのだ」と予想を述べた。
ただし、それがいつになるのか、その日にちは今のところ誰も知らない。しかし、私たちは皆、どのような長い道のりもはじめの一歩から始まることを知っている。
そして、クリミア脱占領への道の「はじめの一歩」は、8月23日に踏み出される。