ロシアは2030年までにモルドバを政治的にコントロールすることを計画=調査報道
ルーマニアの調査報道サイト「ライズ・プロジェクト」とロシア語プロジェクト「ドシエ」(露ビジネスマンのミハイル・ホドロコフスキー創設)が、その他複数の国の記者とともに行った調査報告記事を公開した。
記者たちは、今回入手した文書は、ベラルーシ併合計画戦略を作成したことのあるロシア大統領府国際協力局が作成したものだと指摘している。今回の戦略は、(対ベラルーシ戦略と同じく)2021年に作成されたものであり、ロシア参謀本部や、情報機関(保安庁、対外情報庁、軍参謀本部総局)の参加を得て作成されたものだという。対モルドバ戦略の構造は、対ベラルーシのものと非常に似通っており、その課題は「軍事・政治」「貿易・経済」「人文」の3つに分類されている。
同戦略作成者たちの考える2030年までの10年間の現実的目的は以下のとおり。
(1)北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)による対モルドバ影響力への対抗
(2)モルドバの集団安全保障条約(CSTO)やその他ロシアの国際プロジェクトへの加盟強制
(3)ロシアが参加した上で、トランスニストリア地域に特別地位を付与することを基本とした同地紛争の「解決」
(4)プロパガンダ情報影響力行使や教育プログラムを通じたモルドバ社会への親露世論の向上、ルーマニア化への対抗
同戦略はまた、2030年をモルドバの政治的コントロール確立と同国に西側パートナーから距離を取らせるための「期限」と定めている。
このクレムリンの戦略には、モルドバの親露政党(ショール党、社会党、共産党の3党)への支援や、政治的目的達成のためのモルドバの天然ガスなど対露輸出依存の利用も含まれている。同依存を利用するためには、天然ガスの当時の輸出水準を維持することが企図されていた。クレムリンはまた、モルドバへのロシア製品の大きな割合での輸出を維持し、親露世論の強いトランスニストリア地域やガガウズ自治区の企業の利益のためのロビー活動を行うことも計画していた。
また、ロシアの情報面での影響力拡大のために、モルドバ国内の情報拡散手段に対する制限導入を防ぐことが求められていた(ただし、これは2022年にモルドバ政権がロシアテレビチャンネル6局の放送を遮断したことから、失敗に終わっている)。また、ドドン前モルドバ大統領が創設した「モルドバ・ロシア・ビジネス連合」のような、ロシアに忠誠心のある市民団体のネットワークを作ることも模索していたという。
さらに、モルドバ国民の間での「NATOの評判落とし」が2025年まで計画されていた。同様に、「ルーマニアのモルドバへの拡張政策への対抗」も中期目標として定められていた。
クレムリンは、2030年までにロシア報道機関の数の拡大を目指し、ロシア語の「国際的会話用言語」としての地位を維持し、「第3国の通過流通の減少」も求めていたという。
今回、この「戦略」を記者たちに提供した関係者は、この戦略を作成したのは、ロシア大統領府国際協力局のアンドレイ・ヴァヴィロフ氏だと指摘する。ヴァヴィロフ氏は、ロシア連邦保安庁(FSB)アカデミーを卒業しており、約10年間FSBで勤務した後、「ロシアの世界(ルスキー・ミール)財団」で勤務し、その後ロシア大統領府(クレムリン)での勤務を始めた人物だという。
また、この戦略のもう1人の作成者だとされるのが、ヴィクトル・リセンコ地域・外国文化関係局副局長だという。同局には、ヴァヴィロフ氏も以前勤務していたという。リセンコ氏の直属の上司が、ドミトリー・コザク大統領府副長官であり(注:ロシア大統領府内でウクライナ問題も担当している人物)、リセンコ氏とコザク氏は、10年近く緊密な協力関係にあるという。今回記者たちは、リセンコ氏が「モルドバ問題を直接扱っている」人物だと主張している。記者たちが入手した携帯電話の通話記録からは、リセンコ氏は、FSB内の「モルドバのキュレーター」として知られるドミトリー・ミリュチンFSB将軍とも定期的にやりとりをしていることが示されているという。
記者たちは、今回の戦略の各項目は、モルドバ・ロシア関係において観察されている様々な出来事と合致していると指摘する。他方で、モルドバ政府関係者は、記者たちに対して、この文書からはロシアが対ウクライナ戦争によって、対モルドバ計画においては遅延を生じさせていることがわかるとも指摘している。
今回のロシアの対モルドバ影響力戦略の調査報道には、上述2団体の他、エストニアの「デルフィ」、ウクライナの「キーウ・インデペンデント」、ベラルーシの「ベラルーシ捜査センター」、米国の「ヤフーニュース」、ドイツの「南ドイツ新聞」「西ドイツラジオ」「北ドイツラジオ」、スウェーデンの「エクスプレッセン」、ポーランドの「フロントストーリー」、V4の「Vスクウェア」の記者が参加したとのこと。今回の文書を提供した関係者は、「この文書が偽物である可能性はゼロである」と主張しているという。