「それは露のプロパガンダだ」=ジョンソン英元首相、自身がゼレンシキー宇大統領に「露と交渉するな」と命じたとする露主張を否定
英タイムズ紙が報じた。
タイムズは、2022年春のベラルーシとトルコでのウクライナとロシアの協議に参加していたウクライナ議会与党会派長のダヴィド・アラハミヤ氏の発言を喚起している。アラハミヤ氏は昨年11月にウクライナの報道機関に対して、当時のロシアの協議における主な目的は、ウクライナに対して北大西洋条約機構(NATO)加盟という野心を形式的に断念させることにあったと述べていた。アラハミヤ氏はまた、協議の後、ジョンソン氏がウクライナの首脳陣に対して、「(ロシアとは)何にも署名するな、ただ戦おう」とアドバイスしたなどと述べていた。
その後、ロシアは、ジョンソン氏が合意に拒否権を行使したなどとして同氏を非難し始める。その際ロシアは、その合意は、ウクライナによるNATO加盟の断念と中立化維持との引き換えにロシアは自らの軍を撤退させていたかもしれないなどと主張していた。
例えば、ザハロヴァ露外務報道官は、「ジョンソン氏は、キーウに対して、2022年3月末のイスタンブルにおける協議の総括としてのロシアとの和平合意に署名を禁止し、ロシアに対する軍事行動の継続を要求した」などと主張していた。
このロシアの非難に対して、ジョンソン氏は、「完全なナンセンスであり、ロシアのプロパガンダ」だと答えている。同氏は、イスタンブルでの協議の後のゼレンシキー氏との協議の際、自身は潜在的な合意の性格につき懸念を抱いていたとし、英国はウクライナを「1000%」支持し続けると約束したと発言した。
同氏は、「私は、その段階で少し心配していた。私は、どのような合意になるかということを想像できずにいたし、プーチンとのどのような合意もかなり浅ましいものとなると思っていた」と発言した。
ジョンソン氏のこの否定は、アラハミヤ・ウクライナ議会与党会派長も支持をしている。アラハミヤ氏は、ロシアは自らの戦争に関するナラティブを補強するために、自身のコメントを意図的に曲解したと説明した。さらに同氏は、ジョンソン氏が述べたという「ただ戦おう(just fight)」というコメントについては、ウクライナが西側同盟国とロシアの侵攻とどのように戦うかについての協議の文脈で行われたものだとし、どのような西側高官であっても、ゼレンシキー大統領に命令することは不可能だったと主張した。
アラハミヤ氏は、「当時も今も、私たちのパートナーの誰であろうと、ウクライナに対して、どのように防衛を築くか、どのような政治的決定を下すかについて、指示を出すことはない。それはウクライナ首脳陣の主権的権利なのだ」と発言した。
これに先立ち、ロシアやセルビアなどの報道機関が、「開戦直後の2022年3月に、ロシアとウクライナの直接交渉により和平達成の機会が生じていたが、米英が交渉を破綻させた」などと主張する記事を断続的に掲載していた。その際、これらの記事には、アラハミヤ氏の発言が「証拠」として引用されていた。
他方、2022年3月には、ロシア軍のキーウへの攻撃の失敗が明らかになっており、イスタンブルにおける最後の和平協議となった3月29日の協議より前に、ロシア軍は戦力再編を目的にキーウ周辺から撤退をすでに開始していた。またラブロフ露外相は4月7日に「和平提案は受け入れられない」と発言している。ジョンソン英首相のキーウ訪問は2022年4月9日。