
ウィトコフ米特使の発言は停戦交渉前のクレムリンに対する譲歩=戦争研究所
ISWが3月22日付報告書にて伝えた。
報告書には、ウィトコフ氏がとりわけ、ロシアは「100%」欧州への侵攻を望んでいないとし、「ウクライナを吸収する必要はない」と発言したことを取り上げている。またウィコフ氏が、ロシアはウクライナの5地域(クリミア、ルハンシク州、ドネツィク州、ザポリッジャ州、ヘルソン州)を「取り戻した」「望んでいたものを手に入れた」とし、これ以上は望まないだろうと発言したことにも注意が向けられている。
これに対して、ISWは、クレムリンはクリミア及び他4地域がロシア領であると繰り返し虚偽の主張をしており、侵略国が占領したこれらの領土をロシアが「取り戻した」とするウィトコフの発言は、拡張主義的な領土要求とウクライナへの数々の侵略を正当性するものだと指摘している。
報告書にはまた、ウィトコフ氏がさらにロシアが占領するウクライナ領土の地位に関して、不正確なロシアの主張を複数繰り返したことが指摘されている。具体的には、インタビューの中でウィトコフ氏が、ロシアに占領されているクリミア、ルハンシク州、ドネツク州、ヘルソン州、ザポリッジャ州を 「ロシア語圏」だと形容し、「(これらの地域では)『住民投票』が行われ、圧倒的多数の住民がロシアの支配下に入ることを望んだ」と発言したことが喚起されている。
この点につきISWは、ロシアは長い間、ウクライナに対するいわれのない侵略を正当化するためにこのような主張を用いてきたとし、2022年には全面侵攻を正当化するために、ウクライナ東部における「ロシア語話者の保護」の必要性を主張していたことを喚起している。
報告書では、一方でロシアが「ウクライナ東部のロシア語を主に話す町を破壊し、ロシア語を話すウクライナ人を殺害し、ロシア語を話すウクライナの子供たちを国際法に違反してロシアに強制送還する」など、ウクライナにおける「ロシア語話者を保護する」という自らの神話を一貫して台無しにしてきたと説明されている。その上でISWは、「ロシアのウクライナ侵攻は決してロシア語を話す人々を保護するためではなかった」と主張している。
さらにISWは、ウィトコフ氏のこのような発言は、ウクライナにおける戦争を終結させ、恒久的な平和を実現し、それが米国、ウクライナ、欧州にとっての利益になるという、トランプ米大統領の主張を損なうものだと指摘している。ウィトコフ氏の、ルハンシク州、ドネツィク州、ザポリッジャ州、ヘルソン州全域に対するロシアの領有主張に関する発言は、米国の利益のために戦争を解決しようとするトランプ氏の努力を台無しにするものだと指摘されている。ISWはまた、これらの領土がロシアに移譲されれば、ウクライナは将来、ロシアの新たな侵略から確実に身を守ることができなくなる、とも指摘している。
その他、ISWは、ウィトコフ氏がまた、ウクライナ当局者がウクライナがNATO加盟国にならないことを「認めた」と主張したことにも注意を向けている。ISWは、ウィトコフ氏の発言は、和平解決に向けた正式な交渉が始まる前に、クレムリンの数々の要求に譲歩したように見えるとし、これは米国とウクライナから、今後の交渉においてロシアに対する貴重な影響力を奪うことになると指摘している。
これに先立ち、米国のウィトコフ中東担当特使は21日、ロシアの対ウクライナ戦争の解決における鍵となる問題は、占領地問題だと発言していた。その際同氏は、それはクリミアや「いわゆる4つの地域、ドンバスと…、ルハンシクとあと2つ」のことだと述べ、さらに「ロシア語話者地域」で「住民投票が行われて」「多数がロシア政権下に入ることを望んでいることを示した」とロシア発の占領を正当化するナラティブを繰り返していた。現在この発言は、事実と異なるとして批判を受けている。