【MH17撃墜事件】ウクライナ東部上空非完全封鎖の追加調査終了

【MH17撃墜事件】ウクライナ東部上空非完全封鎖の追加調査終了

ウクルインフォルム
「フライト・セーフティー基金」は、ウクライナが2014年7月のマレーシア航空機撃墜事件の際に同国東部上空を完全に封鎖していなかったことに関する追加分析の結果報告書を公開した。

執筆:イリーナ・ドラボク(ハーグ)

マレーシア航空機MH17撃墜事件の今年2回目となる裁判審理が始まる数日前、フライト・セーフティー基金が事件発生時のウクライナ東部上空に関する報告書を公開した。

フライト・セーフティー基金は、航空分野の安全について分析、学習、利益保護、対話を行なっている独立NGO。同基金の報告書には、ウクライナ東部にて民間機飛行に対する安全への脅威があることをウクライナの関連国家機関が知っていた、あるいは知っていたことかもしれないことを示す事実は存在しないと指摘されている。これにより、オランダ政府には、事件当時に上空を完全には封鎖していなかったことについて国際法に従いウクライナの責任を追及するための根拠は、これまで同様、現在もないことになる。そして、同国政府の立場に変更はない。

同時に、オランダでは、コロナ危機や強い風雪が続き、交通機関に支障が出る中も、スキポール裁判コンプレクスにて、今年2度目となるMH17事件の裁判審理が2021年2月8日14時に開かれた。

追加調査

2019年10月、オランダ議会は、与党キリスト教民主アピール(CDA)による事件当時ウクライナが東部上空を一般旅客機のために完全封鎖していなかったことについて、追加調査する提案を満場一致で支持していた。

クリス・ヴァン・ダムCDA議員は、ツイッター・アカウントに「ウクライナ上空空間が閉鎖されていなかった事実の追加捜査の提案が、たった今満場一致で採択された」と述べていた。

クリス・ヴァン・ダム議員
クリス・ヴァン・ダム議員

他方で、ウクライナは、事件当時、国際民間航空機関(ICAO)の当時のルールに従って行動していたこと、そして現存リスクの分析を根拠にして武力紛争について報告し、民間機飛行の禁止を設けていたことを繰り返し報告していた。ウクライナは当初、上空1500メートル未満の飛行を禁止し、その後2014年7月14日には、9800メートル未満の飛行を禁止している。

2014年7月17日、ロシア軍のせいでMH17に乗っていた298名が死亡した後、ウクライナは常にオランダと緊密に協力してきた。上空不完全封鎖に関するものを含め、あらゆる情報提供が行われてきた。ウクライナは今回の追加調査を理解を持って受け入れ、自らの行動と、民間機に対する当時時点で判明していたリスクの評価に関して、もう一度説明を行った。ロシアがプロパガンダで説得しようとしていたような、ウクライナについての何らかの新しい捜査が行われた、というわけではない。

終止符

オランダ議会からの要請が採択されてから1年あまりが過ぎた2021年2月5日、議会は、フライト・セーフティー基金による、上空に関する事実の追加調査結果に関する報告書を公開した。多くの情報が分析されており、報告書は200ページ近くのものとなっている。基金は、過去30年の武力紛争下における、各国の上空封鎖の実例や、事件前、事件当時、ロシア支配地域のウクライナ東部上空の閉鎖に関する事実を分析。1985年から2014年にかけて生じた計34件の事例が分析されている。フライト・セーフティー基金は、紛争圏上空を完全に封鎖するという国家の確立された行動慣習なるものは存在しないとの結論に至っている。同時に、民間航空機の安全を担うウクライナの国家機関が、ウクライナ東部上空にて民間機の安全に対する脅威について、知っていた、あるいは知り得ていたということを示す事実もないと指摘されている。

本件につき、ウセヴォロド・チェンツォウ駐オランダ・ウクライナ大使は、「実施された追加的事実調査は、とりわけ遺族にとって重要であり、事件当日の上空封鎖問題に終止符を打つものである」と発言した。大使は、「ウクライナは、その機微なテーマに理解を持って向き合い、関連情報はすでに技術捜査の際に提供済みであったものの、追加調査でも完全な形で協力した。今回の報告書に提示された結論は、これまでの結論を再確認する内容となっている。それはまた、添付されたステフ・ブロック・オランダ外相の議会宛ての書簡にも反映されている。ウクライナ、そして全世界にとって、それは、ウクライナが現在と当時の規範とルールを遵守したこと、関連機関が有していた情報に従って行動していたことを再確認するものとなっている。オランダ政府による、ウクライナの責任追求を行う根拠はないとする立場は、技術報告書の結論として以前にも出されていたが、今回改めて確認された。2月5日公開の報告書は、仮に誰かに疑念が残っていたとしても、その疑念を吹き飛ばす内容となっている。そして、犯罪者の裁きに向けて前進できる内容である」とコメントした。

ウセヴォロド・チェンツォウ駐オランダ・ウクライナ大使
ウセヴォロド・チェンツォウ駐オランダ・ウクライナ大使

チェンツォウ大使はまた、報告書は上空封鎖問題をカバーしつつ、技術捜査を補完するものだと指摘した。技術捜査の結果は、オランダ安全保障委員会が2015年10月に公開している。

チェンツォウ大使は、MH17事件後、ウクライナはICAOの民間機安全基準向上の作業に参加したと述べ、その結果、関連国際基準の更新が行われたと指摘した。その中には、統一リスク管理を定める、飛行安全コントロール・マネージメントの改正や、ICAOの民間航空機による紛争圏飛行に関する文書の更新も行われたという。

なお、今回の報告書にはまた、ロシア連邦の民間機の安全を担当する機関がロシア連邦の紛争圏に隣接する領域上空における民間機の安全に対する脅威の存在を知っていた、あるいは知り得たことを示し得る追加的事実もないと書かれている。ただし、オランダ政府によるMH17撃墜における国際法にのっとったロシアの責任に関する立場は変わっていない。

チェンツォウ大使は、「悲劇における犯罪者の責任追求作業は、複数の方向で展開されている。すなわち、オランダの裁判システム内のプロセスと、私たちのロシアを相手とした国際司法裁判所への提訴、それから、ウクライナとオランダによるロシアを相手とした欧州人権裁判所への共同提訴である。これら全てが、相互に補完し合い、補強し合っている。そして、どれもが世界の人々、そして、真実を知りたがっている遺族にとって大きな意義を持っている」と強調した。

MH17撃墜事件刑事捜査

現在、ドネツィク・ルハンシク両州一時的被占領地の上空と追加的緩衝空間とともに、完全に封鎖されている。オランダでは、2020年3月から、4名の人物に関する刑事裁判プロセスが進んでいる。検察側は、これら4名がMH17を撃墜したブークの輸送に関与したのだと考えている。その4名とは、イーゴリ・ギルキン(ストレルコフ)(ロシア国籍、ロシア連邦保安庁(FSB)元将校、元いわゆる「DPR国防相」)、セルゲイ・ドゥビンスキー(ロシア国籍、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)大佐、いわゆる「DPR・GRU長官」)、オレグ・プラートフ(ロシア国籍、GRU特殊部隊中佐)、レオニード・ハルチェンコ(ウクライナ国籍、ロシア側で戦闘に参加)である。

2月8日、MH17事件の本年2回目の審理が行われた。

法廷には、プラートフ容疑者の利益を代表するオランダの弁護士が出廷していた。悪天候から、多くの報道関係者が今回の審理をオンライン中継でフォローしていた。

同日の審理は、1時間未満で終了。裁判所は、プラートフ容疑者の弁護士の要請に関する決定を発表した。一つには、ロシアの対空防衛システム製造企業「アルマズ・アンテイ」が出した文書(2015年〜2016年の報告書)を捜査に加えない決定を否定しないこと。次に、予審判事に、アルマズ・アンテイ社の専門家が再構築されたMH17を訪問することを認める権利を残すこと。そして、プラートフ容疑者に関しては、同容疑者が2月22日までに裁判所に対して、捜査に加えられている通話記録における自らの声を認識しているかどうかを報告することが発表された。

プラートフ容疑者の弁護士
プラートフ容疑者の弁護士

次の審理は、4月15日10時(現地時間)。

同時に、国際共同捜査チーム(JIT)は、捜査を継続している。そのため、そのうちMH17事件に関与したとされる、新たな人物の名前が出てくる可能性は否定できない。


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